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次頁【ネクストページ】の代理人  作者: けものさん
第二冊『スレイヴガンドの呼び声』
38/68

休筆中その三『炎魔様はスイーツがお好き』

 『スレイヴガンドの呼び声』を本棚に戻したリアは一息付いて家路に向かい歩き始める。

ドア間転移を使えば楽に帰る事は出来ただろうが、どうやら思う所があるようでゆっくりとサライブの中を歩き始めた。

「せんせーも、次あたりで司書になれるかもですねぇ。

 どうです? 私が呼び出しちゃった手前こういうのも気が引けますが、このまま他の世界に転生して一から人生スタートも出来るんですけど……、一緒に司書になってくれますか?」

 少し緊張した顔で言うその言葉には簡単に答えてはいけないであろう重みを感じる。

「気にした事無かったけど、俺でもなれるものなのか?」

 今リアの下で戦っている俺が今後司書になれるのであれば、今の俺の立場知らず知らずのうちに『司書補』だったという事になる。

そう簡単にリアと同じ立場になれるようには思えないが、命を賭して世界を救うという行為から考えるともしかすると妥当なのかもしれない。

「なれますよー、めんどっちい書類関係なんかはこの世界に来た時点であらかた揃っているので、後は業績だけなんです。

 二回とは言えどかなり助けてくれましたから、あとは私が推薦すれば特別権限までもらえるかは分かりませんが、とりあえず司書としてこの世界の住民権ゲットは出来るはずです!」

「というかまだ俺はこの世界の住民とすら認識されていなかったのか……」

 やったね!みたいな顔でリアは笑うが、そこそこショックだった。

しかし、この世界について知らない事も多すぎる。

状況に流されて二度世界を股にかけたものの、その世界の法律や言葉、現状について何も知らないのなら俺は住民でないと言われても仕方がない。

「とにかく、俺も現状困る事もないしその申し出は有り難いが……、アルやカークはどうなる?」

「アルちゃんは……、せんせーが司書になったとしたら私かせんせーの司書補という立ち位置になりますね。司書と司書補は二人でワンセット、それ以上はありません。

 だからこそ出来れば早めに事を進めた方が良いんですよね、アルちゃんがもし一緒にいてくれると言うのなら、司書補にしてあげないとこの世界にいられません。

 言葉は悪いですが……、アルちゃんは現状あくまで私が『常ノ魔』から持ってきたという事だけでこの世界に存在出来ていますからね……。

 ただ、どちらかというとせんせーの下にいてくれた方が私は安心です」

 少し思いつめた顔でリアはそんな事を言う。

俺が司書になり、リアの司書補では無くなったのなら、リアにも司書補のパートナーを作る権限は再度生まれるはず、だが俺とアルをパートナーにしようとする意図がどうにも掴めなかった。

「我はどうなる?」

「カークさんは……、人じゃないのであくまでせんせーの所有物としてカウントされるみたいです……、なのでお変わり無く……」

 ポケットからカークの不満気な声が聞こえるが、リアは少し苦笑して答える。

カークも「納得は出来んが、仕組みならば我慢するしか無いな」と話を飲み込んでくれたようだ。

「じゃあ、せんせーは司書試験、受けてくれるってことでいいんですね?」

 聞き慣れない言葉が聞こえて、俺は一瞬固まる。

「ちょっと待て、試験があるのは聞いてないぞ」

「あ……、言ってませんでした……。

 監査官と二人で挑まなければいけない試験があるんです。

 要は私達がいつもしている事と同じなのですが、本の内容や状況については全て向こう側で決められて、それに合わせて監査官に司書の仕事について教わりながら世界を上手く導けたら合格っていう……」

 つまりはリアとアルは来られないという事だ。

不安なのは間違い無いが、この世界で上手くやるのに必要であれば挑むしか無い。

「知らない事も、大体は分かるんだよな?」

 俺は司書になるという事よりも、この世界で起きている物語の異常について気になっていた。

どうして物語が自ら消滅していこうとするかの疑問は、おそらくもう一歩先に進まなければ分からない。

「教えてもらえる事なら大体は……。

 どうです? 行ってみますか?」

 リアのその言葉に俺は頷く。

そんな話をしているうちに、何処ぞの扉の前でリアが立ち止まる。

まるで話がまとまるまであえて先導するリアが扉を避けていたかのように都合良く現れた扉に俺は苦笑した。

「じゃあ行きましょう! まずはご飯から! めんどっちい申請はおまかせください!」

 そう言ってリアがドアノブを撚るとアルが「やったー!」とはしゃいでいた。


「安請け合いではないのか?」

 カークが俺の心に問いかけてくるが、俺は「そうでもないさ、だって気になるだろ?」と返す。

「お前も薄々気付いてはいただろ? どうしてか物語は邪魔をするかのように展開していく。

 それが愉快かは置いておくとしても、その理由くらいは知りたいとは思わないか?」

 リアとアルに気づかれないように表情を変えず心の中でカークに語りかけると少しの沈黙の後に「それもそうか……」と肯定とも否定とも取れないような声が届き、それで俺たちの話は終わった。

 とにかく、アルとリアは一緒に行けないとしても、まだ名前も知らぬ監査官と、カークは一緒にいるのだ。

カークとの意思疎通はちゃんとしておいた方がいいのかもしれない。

もう情報は伝わっているのかもしれないが、場合によってはカークの力について隠す事も必要になってくるのかも、と思いながらリアの部屋のソファに座って考えていると、俺の前に一人では食べきれない量の食事が置かれる。

「どうぞ! 今日は中華……? だそうです!」

 アルはニコニコ顔で俺の前に簡易型の机を組み立て、大量の中華料理を並べていく。

いつの間に机が買われていたという疑問の前に、明らかに食べきれない量を置いていく。

「いやこれは……、多すぎでは……」

 そう言って机に置かれた箸でニラがチャーミングポイントのご家庭でも大量に作れる一口サイズの料理をつまむ。

「ふぁい! これ調味料ですよー! お二人とも冷めないうちにどうぞ!」

 アルがやや行儀悪く口をモガモガさせながら俺の前に調味料を置いていく。

小皿が二枚、それでやっと俺は気付く。

「もー! せんせ! 意地悪はダメですよ! 何でカークさん出してあげないんですか!」

 リアが調理場という名のデリバリー到着ルームから顔を出す。

さっきまでカークの存在は隠さなければと思っていた自分の想像をぶっ飛ばすかのように、彼女達はカークの具現化を簡単に捉えているようだ。

ただ、リアがそういうのならいいのだろうと思い、俺は左手の手のひらに炎を纏わせ、そこにライターの炎をかざす。

すると両方の炎が混ざり合い、スレイヴガンドの決戦の時よりもやや小柄な状態のカークがそのバに現れた。

「ふむ、悪くないな」

 カークは当たり前のように俺の隣に座り、魚介類と剥くと涙が出ると有名な野菜を一緒に甘辛く調理した……、つまりは海老をチリソースでなんちゃらした料理を手でつまみ上げ食べている。

隣でしっかりとカークの身体は燃えている、だが周りの物は燃えていないし熱くもない。

「こらー! 手づかみはお行儀悪いですよ!」

 リアに手渡されたフォークを手に、ガシガシと中華料理を平らげていく炎魔のその威厳は一体何処へ、というよりもそもそもその威厳があったかどうかも怪しいのがだ。

「う、うまいか……」

「うむ! イケるな!」

 機嫌が良さそうにパクつくカークの身体がボッと燃える度にビクビクとしていたが、もしかするとこの炎はテンションによって燃えたり燃えなかったりで感情の機微を読み取る物なのだろうか。

「カークさん、熱くないんですか? っていうか何で燃えないんですね……。

 防火仕様とはいえ、おじゃんになるのは覚悟していたんですが……」

 アルと一緒に料理を運び終わったリアがカークに聞くと、カークは一旦フォークを机に置き、ゴクンと喉を鳴らしてから、クククと笑う。

「自身の炎の力を制御出来ずに炎魔など名乗れぬ、お主らは炎は燃やす物だと思っているようだがそれは思い込みに過ぎぬのだ。

 燃えない炎もまた炎、現に此奴の黒炎がそうであろう」

 そう言って俺の方を見るカークの目は少し厳しそうに見える。

「我の炎が燃やすという事に特化しているだけで、黒炎は物質を燃やさずにその物の力や心を悪い意味で燃やす。炎と言っても単純では無い。

 ならば我が意識的に纏う炎を無害にすることなど容易い事よ」

 その言葉にアルは何とも難しい顔をしながらカークにそっと触ろうとする。

「だからといって触ると燃やすぞ」

「ひゃっ、ごめんなさい!」

 そう言いながら手を引っ込めるアルを見ながらリアは「もう、意地悪ですねえ……」とカークの方を優しそうな顔で見ていた。

「しかし、これは良い。

 次からも食事にはこれは出せ」

「エビチリ好きですか? 良いですね! もう少し辛くします?」

 リアとエビチリ談義に華を咲かせる炎魔など見たくは無かった。

「いや、辛さはこのくらいで良い」

 そして辛口が嫌いな炎魔などもっと見たくはなかった。

個人的には甘すぎるくらいだったのだが、それでも余程上手に作られていると見えて、リアの部屋に届くデリバリー料理は相当上手い。

俺も一旦は試験の事もさっきまでの死闘の事も忘れ、中華料理に舌鼓を打った。

腹八分目の頃に、第二波としてリアが運んで来たゴマをまぶした薄皮に胡麻餡を詰めて揚げた料理……、つまりはデザートの域を越えた重めのスイーツ達がテーブルに現れるまでは、大方腹いっぱいの幸せな食卓だった気がする。

その後の事ははちきれんばかりの腹具合で覚えてはいないが、終始「コイツも美味いな!」と笑う炎魔の声が聞こえていたのでおそらくは食べ切れたのだろう。

 まさか、食に最大の喜びを感じるのがアルだけでは無かったとは、途中から「ククク……」ではなく「ガハハ! 美味いでは無いか!!」と聞こえていた事だけは気の所為だと信じたい。

「炎魔様はスイーツがお好き……」

 俺は何かのタイトルじみた言葉を最後に、ソファに横たわる。

「もー! 牛になっちゃいますよー」と言う少し言語が牛化しているリアにひらひらと手を振って、少しだけ目を閉じた。

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[一言] 2,3回研修したら現場に放り込まれる、みたいなw
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