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次頁【ネクストページ】の代理人  作者: けものさん
第二冊『スレイヴガンドの呼び声』
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第二十四筆『僕はもう、間違えない』

 グレイに連れられて俺達はそれぞれに渡された武器を手に更に地下へと降りていく。


 グレイの横を歩くリアは込めた魔法の力を反映する魔剣アディスが入った鞘を肩からぶら下げている。

 アルはその形態が使う矢等に合わせて自動的に変化する自変弓を片手に、背中には矢筒を背負っていた。

、俺はその魔力の量だけ大きさが変化する名もなき盾を左手にくくりつけ、最後尾を歩く。

に左手に意識を集中させてみると、手甲程度の大きさだった盾が一瞬大きくなったのが分かり、一人安心していた。

何処までの大きさにまで出来るかは、確認しておいた方が良いかも知れない。


 レベル上げといえば魔物狩り、とは言うものの。

これを魔物と呼んでいいのかは疑問だった。

グレイに連れられ更に地下深くまで階段を降りると、そこは丁度魔竜がいた場所と同じくらいの広い空間、明かりはグレイの部屋よりもいくらか明るく、全体が見渡せるようになっていた。


 そしてそこには、何十もの、彷徨う人間のような存在がいた。

「ボクは勝手にヒトガタって呼んでる。元々は人だけれどね、もう人じゃない。

 思念体のような物さ、何もしなければ害は無いよ」

四肢のいずれかが欠損している者もいる。その姿はまるでゾンビだが、数が多いだけで敵意は感じない。

むしろ俺達の事を見えていないかのように、虚ろな目で彷徨いている。

「広い、多い」

「そりゃ、多い。魔竜が喰った人の数だけウヨウヨいる。

 それでいて広いさ、此処はあの魔竜がいた場所の真下だからな」

 俺の呟きにグレイが顔をしかめて答える。

「この場所はボクしか知らない、誰にも教えなかった。

 まぁ、あの魔竜は知っているんだろうけど」

 溜息混じりにその広い空間に彷徨うヒトガタに向けてその杖を向ける。

「……そう、コイツらは何もしなければ害は無い。一生そのままに、彷徨き続ける。

 死んでいるのに、この地に縛られ続けているんだ」

 杖の先から薄い光が現れヒトガタを包み込む、それと同時にヒトガタはこちらを認識し、襲いかかってきた。

「ボクはいつもこういう役回りなんだよ」

 グレイは数歩後ろに下がり、リアに目配せする。

すると鋭い爪を振り回しながら走ってくるヒトガタをリアが前に出て剣は抜かず鞘で受け止めた。

アルも既に弓に矢を当て、ヒトガタへと向けている。

「この人……っ、斬っちゃっても、いいんです……か!」

 リアは狂ったように喚きながら力押ししてくるヒトガタを何とか強く押し出し、後ろに転ばせてからグレイに向かって問いかけた。

「ああ、アレらは全て魔竜に食われ呪いとなった人間の魂の集合体だ。

 具現化して断ち切るまで、永遠にこの地に縛り付けられているんだよ。

 その姿がボロボロなのは、食い散らかしを……繋ぎ合わされたからだ」

 それを聞いたリアは、首元にその鋭い爪を伸ばしたヒトガタを首元から斜めに斬り伏せた。

その身体が引き裂かれ、肉塊と化す前にはもうその場にヒトガタの姿はいなくなっていた。

「これで救われるのか、死後の世界があるのかどうかは知らないけれど、ボクなりの救済だよ。

 一人じゃ手が回らなかったんだ。丁度良く奴らもそう弱くは無い」

 グレイはリアがヒトガタを斬り伏せたのを満足そうに見たグレイは、その杖の先端に光をため始める。

 横目にアルが自変弓をギュッと握りしめたのが見えた。

「人助けは性に合わない。だからそういうのは全部人任せだったんだ。

 でも、戦闘訓練のついでなら良いよな? コイツらは皆死んでるんだから、良いよな?」

 そう言って、その光を数十体いるヒトガタに向けて放った。

「人助けはいつも間に合わない。だからそういうのは全部諦めていたんだ。

 でも、これはついで。ついでだから、お前らも気を抜かずに、気楽に逝かせてやってくれ」

 グレイのその言葉に被さるように、俺達に向かってヒトガタの咆哮が響く。

「じゃあ、やろうか。今のは試しだ、一体ずつなんて悠長な真似はしないからな。

 これで死ぬようならどうせすぐ死ぬ。

 何人か救えた分だけ幸せだと思って死ねるだけ、まだマシかもしれないけどな」

 

 それは無謀にも思えた、自暴自棄にも見えた。

だが、グレイの強い眼はそれを否定していた。

その眼で見据える先にいた一人の女性のヒトガタだけを、彼は具現化させなかった事だけが気がかりだったが、そんな事を考える暇もなく、数十体の眼がこちらを向く。


 数十体の眼の向く先は、まずはグレイ。

だが、数歩下がって次に目が行くのがリアだ。

流石のリアでも数十体の異形相手にどうにかなるかと言われると難しい。

一歩ずつ歩き始め、直に走り始めたヒトガタを見ながら思考を巡らせていると、ポケットから声が聞こえた。

「お主のその左手のソレは飾りか?」

 俺はカークの言葉にハッとして、リアの横へと並び立つ。

もうそれまでの間に、アルは数本の矢をヒトガタの脳天に向けて放ち、その姿をかき消していた。

リアは誰よりも先にヒトガタの方へ飛び出し、そのうちの一体を袈裟斬りにしていた。

グレイの杖からは、黒球が作られ始めている。

「あぁ、そろそろ考えてるだけじゃ、情けないよなっ!」

 もう少しで眼前まで迫るかというヒトガタの群れの目の前で、左手を思い切り床に叩きつける。

「リア! 下がれ!」

 その言葉にリアは素早く俺の隣へと舞い戻る。

「アルとグレイは左を! リアは右を頼んだ!」

三人にそう告げて、左手にありったけの力を込めると盾が二メートル程の巨大な壁のようになり、ヒトガタがその壁に激突する音が聞こえる。

それはつまり、俺が大量のヒトガタに突進されているということだ。

 左手に響く衝撃に漏れる息を押し留めながら、俺はその壁を維持しながら右手に炎を纏わせ、壁の右側からこちら側へ抜けて来ようとするヒトガタをガムシャラに焼き切る。

ヒトガタの知能はそう高くないようだったが、それでもその炎を抜けるヒトガタも数体いる。

「リア! 頼んだ!」

「了解です!」

炎を抜けたヒトガタをリアが一体ずつ切り捨てて行くが、その姿が消滅する為に必要なダメージはまちまちのようで、腹部をリアの剣に貫かれて尚消滅しないヒトガタが叫びながらその剣をものともせずリアの首元に爪を振り下ろそうとする。

「まずっ!」

 リアが言うやいなや、俺はギリギリのところでその剣の先に炎を這わせ、ヒトガタを焼き切る。

「ありがとせんせっ!」

 そう言ってからリアは剣を右斜め下に構えて、襲い来るヒトガタを貫かず切り裂く事に徹していた。

 おそらくヒトガタは痛みを感じない、だから確実に無力化する部位を狙わなければいけないようだった。

「ほう、やるではないか。

 だがつまらんな。やはりこの手でやらなくては、つまらん」

 カークのボヤキが聞こえるが、それどころではない。

 だが、右側はともかく、壁の左から現れるヒトガタについては、心配はいらないように感じた。

そもそも、現れる事が無いのだ。

グレイが魔竜との戦いの時にも見せた黒球を地面で破裂させ、動けなくなったヒトガタをアルが正確に射抜いて行く。

その手腕にグレイは思わず「勇者も肩無しじゃないか」と愉快そうに笑っていた。

 突進の音も聞こえなくなり、俺は盾の形状を元に戻すと、目の前に一足遅く現れたヒトガタがめに入る。

「せんせっ! 危な!」

 リアが言いかけた瞬間、俺はもう既に右手で握っていたライターを弾いていた。

「一体くらいなら、俺にだって斬れるさ」

 紅い刀身に切り裂かれ、炎と共に消えたヒトガタを最後に、部屋はまた静寂に訪れる。

死体の一つも転がっていない、何も無い部屋。

だが、その向こうにまだ具現化していないヒトガタが一体。

それを辛そうに見つめながら、グレイは振り返り部屋を出ようとする。

「待て、やるべき事が済んでないであろう」

 そのカークの声は、いつになく真剣味を含んでいた。

そしてその言葉に、グレイは拳を握りしめている。

「知らぬ存ぜぬが通用すると思うな。魔は口程に物を言う、波長が似通っておるわ。

 あのヒトガタとやらは母か? 姉か? 妹か?」

 おちょくるようなカークの言葉に、思わず俺もたしなめようと思ったが、俺達の方を振り返ったグレイの顔には、怒りよりも悲しみが浮かんでいた。

「アレが、ボクが魔竜を蘇らせた理由の一つだ。

 アレを見て、アイツを殺そうと思わずにいられるか?

 母さんの最期の言葉すら聞けなかった。最後に見た姿が、あんな、あんな……」


 つまり、グレイの親族も魔竜の犠牲になっていたという事だ。

リアが息を呑む、おそらくは本編でも語られなかった事なのだろう。

「元々は、ボクも魔竜を殺したという事実を知らしめる為に証拠を探しに来ただけだった。

 でもヒトガタが彷徨くこの部屋を見つけてから、母さんを見つけてからは、アイツをもう一度殺す事しか頭になかったんだよ」

 グレイの中に生まれた小さな復讐心が、途方もない復讐へと変化していく。

言わば暴走だ、本来グレイはこうなるはずではなかったのだ。

「ならば、魔竜に挑む前にその母を救え。

 まさか、今やらず次があると思っておるのか?

 必ず生きていられると、高をくくっているのか?」

 カークのその言葉は正しい、グレイが死ねば彼の母が混じった魂の集合体は一生この場を彷徨く事となる。

ならば、本当の覚悟があるのならその後のことも考えて今此処でやらなければならない。

だが、グレイは杖を取り出しはしたものの、握りしめたまま押し黙っている。

「その役、私にやらせてください」

 思わぬところから手があがり、グレイはリアの顔をゆっくりと見た。

「いいのか?」

「グレイさんが、向き合えるのなら」

 そう言って、リアは魔剣アディスの刀身を白く光らせる。

それを見たグレイが、恐る恐る最後のヒトガタに向けて杖を振ると、案の定ヒトガタはこちらに向かって叫びながら突進してくる。

拳を握り目を瞑るグレイの腕を、アルが強く掴む。

「見なきゃ、駄目だよ」

 アルにそう言われ、グレイが目を見開いた時には、もう既にリアの剣がヒトガタを貫いていた。

だが、様子が少しだけおかしい。


 まず、切り裂いていない。

リア程の判断力と戦闘経験があるならば、さっき一度体験したヒトガタを貫いても効果が薄いということを繰り返さないはずだ。

 そして、貫かれたにも関わらずヒトガタは暴れもせず、静かにそこに佇んでいた。

「あぁ……、向こうに見えるのは、グレイかい?」

「ええ、貴方の息子さんです。勇者、グレイですよ」

 リアが優しく微笑むと、ヒトガタは嬉しそうに笑った。

「まさか、死ぬ前にこんなにうれしい事があるなんてねぇ……」

 グレイが駆け寄るが、その姿は徐々に消えていく。

「母さん! 母さん!」

 グレイは涙を流しながら、剣を抜かれ消えゆくヒトガタを抱きとめる。

「泣くんじゃあないよ。アンタは……いつもそうだったね。

 けどね、誰がなんと言おうと、アンタは私の大事な……」

 その言葉を言い終えずに、ヒトガタの姿は消えた。

「魔を寄せ付けない扉を私は作る事が出来ます……。その力を、この剣に込めたんです」

 魔を寄せ付けないという魔法は、魔を切り裂く剣にもなり得るという事だった。

それは呪いもまた然り、おそらくはヒトガタに残された呪いの類いを切り裂き、生前の人格を呼び起こさせたのだろう。


 グレイは少しの間静かに涙を流した後、立ち上がりリアに頭を下げた。

「ありがとう、リアさん。

 僕はもう、間違えない」

 その言葉にリアは優しく微笑み、アルも嬉しそうに笑っているのが見えた。

そして、聞き慣れない少し優しい笑い声が一瞬ポケットから漏れているのにも気付いて、俺も小さく笑った。

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