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次頁【ネクストページ】の代理人  作者: けものさん
第二冊『スレイヴガンドの呼び声』
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第二十三筆『じゃあ、レベル上げをするぞ』

 空虚な目を空に向けて黙り込んだ魔竜を残し、俺達はリアとグレイが待っているであろう地下の部屋へと戻る。

ガチャリ、と扉を開けると椅子に座ったリアだけが目に映る。

部屋に入り見回すと、ベッドで横になっているグレイの姿があった。

「ままならないな」

 誰に言うわけでもなく呟くと、リアが「たはは……」と困ったように笑う。

「ダメージは大きく無いみたいでした、自分で処置を施してからはぐっすりと眠っています。

 魔竜を目の前に死闘を繰り広げて眠れるのはすごいです」

 グレイが眠るベッドを見ながらリアが優しい声で呟くが、事情を知っているアルは難しい顔をしながらリアの隣に椅子を置いて座った。

「大きい声では言えませんが、実はですね……」

 コソコソっとアルがリアの耳元で話す度にリアがくすぐったそうにしているのに少し和みながら、俺は改めて部屋の中を見渡していた。

「あの弓を作ったって言うあたり、成金ってわけでもないんだろうな。

 アレらも作ったんだとすると、それこそ戦闘向きでは無いように思える」

 額縁に収められた弓の周りには、長剣や短剣、盾が同じように額縁に収められ飾られていた。

「才はソレだったのだろうな。だが見た所戦闘に於ける実力も無くは無い……が、あの魔竜との戦いを見たところ、命を賭けておらぬ。

 だからこそ茶番なのだ。」

 命を賭けられない魔法使いと、命を奪えない魔竜。

そのチグハグな物語の、次の頁に俺は頭を悩ませる。

「要は、魔竜を本気で戦わせて、それでいて勝たなきゃいけないわけだ」

「ああ、そうなるな」

 振り返ると、グレイがベッドに腰掛けてこっちを見ていた。

「言いたい放題言ってくれるじゃないか」

 立ち上がろうとするが、アルから話を聞き終わったリアが慌ててそれを止める。

「身体に障りますよ、数日はまともに動けないはずです。

 乗りかかった船ですし、面倒を見させてください」

 そう言って微笑みかけるリアの顔をジッと見てから、グレイはベッドに横になった。

「情けないとは、思わないのか。

 笑いたいなら笑え、いなくなってもいい」

 俺達に背中を向けたグレイから、それこそ情けない声が漏れる。

アレだけ大言壮語を吐いてからの敗北、笑われると思うのも当然だろうが、俺達はそうもいかない。

事情を知れば、笑う者等いてはならないはずなのだ。

「情けないですよ! でも笑いません」

 くっきりとしたアルの声に、思わずグレイはこちらを向いた。

「グレイさんはおーっきな間違いをしているんです、気付いてますか?」

 アルはグレイが寝ているベッドに腰掛けて、グレイの顔を見る。

「何だよ、間違いなんてあるもんかよ……」

 ジっと顔を見られてグレイは少しだけ赤面し顔を背けた

思えばこの二人はそう年端も変わらないのかもしれない。

この年齢くらいから見れば、リアくらいの年の差でもかなり年上に感じるのかもしれない。

逆に、同じくらいのアルに見つめられるのが中々に照れるのは、分かるぞ少年と思いながら二人の会話を見守る。

「いいえ! 間違っているんです! だって魔竜は五人で倒したんですよね?

 それって簡単でしたか?」

 グレイは痛いところを突かれたようで、少し言葉を濁す。

「いや……、ボクのフォローが無ければ負けていたかもしれない」

「それですよ! 五人で勝っているんです。

 それを一人でなんて、無茶だとは思いませんでしたか?!」

 少し語気が強めになっているアルをたしなめてリアがグレイを優しく諭す。

「私達にお手伝い出来ませんか? 要はグレイさんが私達を率いて魔竜を倒したなら、もし誰に知られなくたって、一生胸を張って良いんだと思うんです。

 貴方の物語は、貴方が"主人公"なんですから」

 その言葉に、グレイの目が見開く。

「主人公なんて、正気か?」

 その言葉とは裏腹に、喜びが滲んでいた。

そうだ、この物語の主人公はグレイなのだ。

今まで端役として存在していた、ただのライバルでは無く、主人公なのだ。

だからこの言葉は、実に正しい言葉で、未だ主人公の自覚の無い少年を奮い立たせるには充分な言葉だった。

「主人公……か。

 悪しき力が、この暗黒の力が、主人公を名乗る……か」

 グレイは不敵な笑みを見せながら、ベッドから起き上がる。

「悪くない、良いこと言うじゃないか。

 ならアイツを倒すまで、俺達はパーティーだ」

 そう言って、グレイは杖を懐から出し一振りすると、額縁に収められていた武器がガラスを通り抜けて、リアとアルの手元へと吸い寄せられていく。

 アルには、弓が。リアには剣が。

「貸してやる、持ってみなよ」

 そう言われ、宙に浮く剣をリアが手にする。

「そのまま、ドアを繋いだ時の事をイメージすると良い」

 言われるままにリアが目を閉じて深呼吸すると、刀身から光が溢れた。

その光はまるでドアからドアを繋いだ時に溢れる光のような、暖かい光。

「キミが使える魔法を込めると、それに応じた付属効果が付く。

 ドアを繋げる魔法がどんな付属効果になるのかは知らないけれど、魔剣アディスをキミに」

 リアが「おおー……」と言いながら電気を付けたり消したりするかのように刀身をパチパチ光らせて遊んでいるのをグレイは無視し、アルの目の前に浮かぶ弓に目をやった。

「お前もその弓、持ってみろ」

 リアにはキミと言うが、アルの事はお前と呼ぶあたり、何か考えたくなったが静かにそれを見守るのが良い歳の大人の役目だと思い、黙り続ける。

 アルがその手には大きすぎる弓を手に取ると、まるで機械仕掛けのように弓が変形し、ちょうどアルにピッタリなサイズの弓に変わる。

「ほれ」

 そう言ってグレイが石をアルに投げ、アルが慌ててソレをキャッチすると、その瞬間弓は簡易的な投石機の形へと変貌していた。

「何これ……、すごい……」

 それには流石に俺も驚いて、リアも固まっていた。

「さっきは説明出来なかったが、その弓は生きている。

 返り血を浴び続けて命を持った弓、自変弓。だがおかしい話だとは思わないか?」

「確かに……、弓兵は返り血なんて……」

アルが呟く、聞けば確かにおかしい話だ。

遠くから敵を狙う弓に返り血が滴るなんてことは早々無い。

「そいつは未だ、一度しか矢を放った事が無い。常にボクの懐で血だけを浴びてきたからさ。

 その一度は魔竜の翼を射ったその一撃、だからほら、何でも良いから撃たせてくれと、何にでも変わる」

 グレイがアルに矢を一本手渡すと、その形状はまた弓へと戻る。

「まだまだ幾つか形態はあるけれど、それは追々だな」

 グレイが一息付くように、椅子に座る。

だが、何か忘れてはしないだろうか。

「俺には……?」

 恐る恐る聞くと、グレイは面倒くさそうに俺のポケットを杖で指差した。

「お前はそいつがあるだろ」

 流石に冷たすぎやしないかと思ったが、カークは「我以上の物など無い」とのたまう。

「でもまぁ、特別にこれを貸してやるよ」

 そう言われて俺の目の前に現れたのは、小ぶりな盾だった。

「それは単純、詰め込む魔力で盾の大きさが変わるだけ。名前も無い。

 お前は正直、何が出来るのか分からないから、自由にやってくれよな」

 なんと適当なとは思いつつも、俺がカークの力で繰り出す炎が魔力を使う行為であれば、この盾は使えるかもしれない。


 俺達に装備を渡して、さっきまで暗い顔をしていたグレイが笑いながら立ち上がる。

「ほら、じゃあ、レベル上げをするぞ。

 無事魔竜を倒せたなら、褒美をくれてやる。

 だから精々ボクの指揮通りに動けるようになるまで、頑張ってくれよ?」

 楽に流れるのもこういう人間の特権かと思いながらも、方向性は決して悪くないと思った。

一人で倒すと意固地を張られ続けられるよりも、ずっとマシだ。

後は、その偉そうな態度がもう少し楽になればと思いながら、俺は盾を手に取る。


「決行は三日後、女二人は見た所腕に覚えがあるんだろ? なら話は早いさ。

 この地下には未だ魔物が山程いる。

 そいつらを叩いて、少しでも練度を上げろ。

 リアは前方、アルは後方、ボクは全体を見る」

「俺は……?」

「出来そうな事をやれ、まぁその盾を使いこなせたら、前だろうな」

 女にはとことん甘いが、俺はそもそもパーティーに含まれているかも怪しかった。

だが仕方がない、このまま上手くいけばいいだけの話だ。

グレイ一人でも戦う事は出来ていた、カーク曰く本気では無かったらしいが、それでも四人……と一体がいれば勝機はあるはず。

 グレイが意気揚々と部屋から出ていこうとするのをリアが止めていたが「ボクは後方で指揮だから良いんだよ」と言いリアを困らせていた。

「行くぞ! お前ら!」

 何とも、不思議な主人公の従者になってしまったが、少なくとも悪くは無い。

何よりグレイのその表情が、会った時よりもだいぶ明るい物になっていた事がほんの、ほんの少しだけ嬉しかった。


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