次頁の向こう『常ノ魔』
端正な顔つきの青年が、光る刃で悪魔の黒々とした巨躯を貫く。
周りには青年に貫かれ絶命した悪魔が何体も血に塗れ倒れていた。
「最後みたいだぜ、ウィル」
駆け寄ってきた大男にウィルと呼ばれた青年が剣を悪魔から引き抜く、その剣は使い込まれているように見えたが、その刃には少しも曇りが無く、ウィルがたった一振りしただけでたった今貫いた悪魔の血が刃から弾かれた。
「これで、この砦の悪魔は始末出来たか……」
ウィルは小さく呟く、その声には疲れが見え、その目も虚ろに見えたが、その奥にはかろうじて光が灯っているように見える。
「相変わらず、凄ぇな……」
大男が難しい顔をしながらウィルの肩を軽く叩くが、ウィルは苦笑するだけで何も言わない。
「きっと、あの子も何処かで笑ってるさ」
想いの丈が人を強くする事があるなら、ウィルはその力を常人の何倍にも出来る人間だった。
「死人は笑わないよ」
ウィルは真面目な顔でそう言い、たった今まで悪魔の根城だった砦を後にする。
「まだあの街の事、気にしてんのか?」
大男が聞くと、砦から出る途中で合流していた華奢な女性が大男の脇腹を肘で付く。
悪魔を狩り続ける三人は、とある宗教に支配されていた街の事を時折思い出しては、その決意を新たにする。
「ってぇな……。仕方ないじゃねえか。
ありゃ、あの街の奴らの自業自得だよ」
大男がそう言うが、ウィルは黙ったまま前を向き歩く。
「ウィルのせいじゃ、無いよ……」
女性が心配そうに言うその言葉も、ウィルには届く様子が無い。
「それでも、僕らは悪魔を根絶やしにしなければいけない。
悪魔がいなければ、あの子は死ななかったんだ。
人間同士で争うのも御免だけど、それは本人達に任せたら良い。
けれど、悪魔を倒すのは、僕達の使命だ」
そう言ってウィルは大男の顔を見ると、大男は声を出さずに笑って頷いた。
華奢な女性もまた、ホッとしたようにウィルの顔をチラリと見て笑った。
「それにしても、俺らを助けに来た連中は何だったんだろうな? 街の人も知らないって言ってたし」
「妙な人達だったよね、男は自由自在に炎を使うし、女も剣の腕は抜群だった」
そう言って女性はウィルが肩から掛けている剣を見る。
「いつか会えたら返すさ。
どうやって作り出したんだろうね、こんな剣。悪魔をいくら切ってもその血を弾くなんて」
そう言ってウィルが少しだけ鞘から抜いて二人に見せたその剣は、ウィル達を助けた女性が使っていた物で、悪魔を切り裂いてもその血を浴びて錆びる事の無い特殊な剣だった。
あの場で悪魔と共に燃えて消え去った少女と行動を共にしていた二人組、その二人はその持ち物らしき物だけを小屋に残し、それきり姿をくらましていた。
「あの小屋にあった剣か、見た目は普通なのにな? 特殊な金属ってわけでも無いんだろ?」
「ああ、鍛冶屋に聞いたら普通の金属らしいけれど、何か特殊な技法で作られたらしいって事しか分からないって」
「悪魔の血だけを弾くなんて、案外悪魔が関わっていたりしてね」
女性がそう言うとウィルは何とも言えない顔をするが、大男が笑って肩をパンパンと叩く。
「でも連中のお陰で、俺達はまたこうやって旅が出来るわけだしな!」
大男が笑いながら砦の扉を開ける。
すると、それを待ち構えていたかのように、悪魔達がウィル達に襲いかかった。
「まーだいやがったか!」
大男が悪魔を殴り飛ばしながら前へ飛び出す。
「小型なだけ、マシでしょ! それにしてもあの男の短剣も血を弾いてくれたら良かったのに!」
女性が短剣で悪魔の喉元をかき切る。
悪魔の数は約十数体だったが、彼らに恐れは見えなかった。
「ああ、あの戦好きの炎魔とやるよりかは、ずっとマシだ」
そう言ってウィルは剣を鞘から抜き、走り出した。
「どこにいるやら、大悪魔、平和は遠いかねえ」
大男が笑いながら悪魔を放り投げていく。
ウィルの剣撃が悪魔を薙ぎ払い、悪魔がまた一体消えて行く。
悪しき心で人を襲う魔を打ち倒す。
その魔は常に人を狙い、嗤いながら人を玩ぶ。
だが、義勇に溢れた強き者達は全ての悪魔を打ち倒すまで、その剣を振るい続ける。
「きっとまだ、終わらない。
それでも、進むだけさ」
ウィルが悪魔を切り裂いた時に呟いたその声は誰に届かずとも、強い信念に溢れていた。




