私の嘘
あの日。初めて出会った日。
あなたは荒んだ眼をしていた。
この世に絶望したように。
この世に失望したように。
私も同じだったから思わず嘲笑していまった。
ほらね、と。
人の世なんてただ醜いだけなのよ。
自分のことしか考えない。
目先の幸せにしか目がいかない。
正論という嘘を口にしてばかり。
他人のことを思いやれない。
世の中そんなニンゲン達ばかりよ。
だから私も絶望しているの。失望しているの。
…自分に。
私はこんな考え方しかできない自分が嫌いよ。大嫌いよ。
…あなたもそうなんでしょう?
ただただ醜い人の世が。
近くしか見えない愚かなニンゲン達が。
異端を嫌う世の常識が。
そして、それに自分も例外なく入ってしまっているという事実が。
けれどあなたは一年もしないうちに変わった。
荒んだ眼をしなくなった。
絶望した眼をしなくなった。
失望した眼をしなくなった。
私と出会ったからじゃない。あいつと出会ったから。
あいつはあなたを変えていった。
あなたは笑顔を浮かべるようになった。
話すようになった。
笑うようになった。
幸せだと言うようになった。人のことを思うようになった。
幸せそうな寝顔。幸せそうな人生。
あなたを取り巻く空気が暖かくなった。
私にはないものだらけ。
私は怖くなった。
あなたに話しかけられること、笑顔を向けられること、優しくされることが。
やめてよ。
見られたくない。
知られたくない。
気づかれたくない。
汚い私を。
私はあなたみたいに綺麗じゃない。
汚れた人の世を知ってそれでもなお、目を逸らさずに生きていけるほど強くない。
私はあなたに嫌われたくない。失望されたくない。
こんなもんか、と思われたくない。
もう悲しみたくないの。
気づつきたくないの。
苦しみたくないの。
我儘だということは分かってる。
でももう見放されないように。
見捨てられないように。
裏切られないように。
私はあなたに嘘をつく。
本当の心を隠して。
あなたに嫌われないように、誤魔化すの。騙すの。演じるの。
ああ…ホント、酷いわね、私。
これじゃあ嫌われてしまうじゃない。
本末転倒ね。
でもこうすることしか思いつかない。
そんな自分が、私は大嫌いなのよ。
こんな私に好かれてしまったあなたは、可哀相ね。心から同情する。
運命なんてあるか分からないけど、もしあったら呪うといいわ。
そしてついでに、私という存在を呪い殺してくれないかしらね。
私は人のことを、あなたの事さえも考えられない自分勝手なニンゲンだから、生きていないほうが世のため人のため。
実際、今までずっとうとまれて生きてきたからね。
嫌われるのは慣れているのよ。
あなたと違って、私は汚れているわ。
心も体も。
でもあなたは違うんでしょう?
変わったんでしょう?
変われたんでしょう?
私にはあなたが眩しい。
変われたあなたがどうしょうもなく眩しく見える。
…ホント、私とあなたじゃどうしようもないくらい不釣合。
綺麗で強いあなたと、汚くて弱い私。
対照的な私達。
いっそ私のことを嫌ってくれればいいのにね。
そうしたら私だって諦めがつくのに。
あなたは本当に優しいから。
私を嫌ったりしないのよね。
…期待させるようなこと言わないで欲しいし、しないで欲しいわ。
諦めきれなくなっちゃうじゃない。
なんだか天使に魅入られてしまった、悪魔みたい。
対象的だからこそ、惹かれたのかしら。
私は本当、あなたが羨ましいわ。
詩というよりつぶやきですね。
今度彼視点のも書きたいですね。
ここまで読んでいただきありがとうございました。