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おとうと君の日常  作者: をじさん
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おとうと君の日常 1日目 その1

本日は四月の一日。

中学生生活二度目の四月。

春休みも残り少ないが、あと数日経ったら二年生としての生活が始まると思うと気持ちが昂る、というわけでもなく。

怠惰に時間を無駄に浪費するだけの、まあ要はごろごろしながらゲームしたり昼寝したりとかそういうやつね、そんな時間ももう終わりなのかと考えるだけで頭痛がする、いや頭痛が痛い。

そういえば春休みの宿題なるものがあった気がする。

修了式の二日前ぐらいに渡された凶悪な数のプリント、その場で一ページだけちら見して、それ以降触れていないような気もする。


…………。


…………。

いかん、気になる。別に宿題なんてやらなくたって怒られるだけだと思うからそれはまあいいんだが、一度気になり始めるとどうでもいいと思ってることなのにどーしても気になって気になってしまうこの現象をどうにかしてほしい。別に小学生のころ夏休みの宿題を忘れてぼろくそに怒られたのを若干トラウマちっくに引きずっているわけでは、断じてない。


春休みって何日までだっけとカレンダーを見る。一二月で終わっている。そう、世界は今、クリスマスシーズンって、今何月だ馬鹿。四月一日、エイプリルフールですね、自分に嘘ついても何の得にもなりゃしない。おかんに言って新しいのを貰ってくるとしよう。


そうだ、確かプリントに日付が書いてあったはずだ。鞄に突っ込んで、それから出していないはず。修了式以降一度も触れていない学生鞄を探す。この汚部屋のどこにあるのか、自分でもわからない。


最後に見たのは、確かねーちゃんが漫画を借りに来た時だ。そうだそうだ。これ邪魔とか言って本棚の前に置いておいた俺の学生鞄をぽいっとベッドの向こうへ投げ捨てたんだ。何するんだ馬鹿姉と反論した際にあんたもいつも投げてるじゃないとか言われて確かにと納得しかけたのを覚えている。いやそりゃそうだけど他人にやられるとなんか嫌だろって反論したがあんたも投げ捨てられたい? とか言われたらそりゃあ口を噤むしかできない。

帰宅部に所属し、ゲーム、漫画、テレビのお笑いを見るといったデスクワークを行う俺に対して、一つ上の姉は陸上部で毎日走り、ハードルを越え、槍を投げ、球も投げ、ときどきコケる、俗に言うすぽーつうーまん。畑が違う。

男ならパワーで女を圧倒しろというが、そんなことしたら親父に千本ノックされるだけだし、昔からねーちゃんには頭が上がらないからそもそも無理だという話。


さて、ベッドの向こう側で見事垂直に立つ鞄様を見つけた。神がかったバランスともいえよう。姉の陸上部スキルがいかんなく発揮されていた。持ち上げようとして、ズシリとした重みが腰に響いた。なんでこんなに重いのか。鞄を開けてみると大量の教科書と大量のプリントがこんにちは。あと飲みかけのお茶が入ったペットボトル。少し色がヤバい。そっとベランダに置いておいた。

教科書ノート教科書ノート教科書ノート宿題宿題宿題教科書ノート教科書ノート宿題宿題宿題宿題。

そりゃあ重たいわけだ。良く持って帰ってきたとほめてやりたい。そしてあの姉は軽々と放り投げていたが、やはり怪力の持ち主だったか。しばらくたてつくのはやめておこう。


そもそも、どうやって鞄に収まってたの。俺、もしかして収納の達人だったのか。多すぎ。なんか宿題多ない? ゆとりがない。そしてノートが足りてない。どこいった。いや、ノートは良いか、いやいや、宿題するときに使うだろう、いや、宿題はしないんだが。そうだ、二年でも使う教科書はどれだっけ。わけておかないと。そもそもプリントが無いぞ。どこだ。とりあえず鞄の中から全部出してみよう。


プリントは鞄の底の方でぐちゃぐちゃになっていた。あの状況でどうしてプリントだけこんな目にあっていたのかは想像できる。プリントだけ鞄に入れた状態で、ロッカーにあった教科書、ノート、プリントを全部突っ込んだせいだろう。置き勉常習犯故の弊害がここに。


通信簿? ああ、それは別の手提げ袋に入れて持って帰ったから無事だったんだが、今思えばプリントもそっちに入れればよかったな。ちなみに通信簿はねーちゃんに奪われたよ。なんで私が教えてあげてるのにこんなに成績悪いのと罵られたのを良く覚えている。いうても、平均ぐらいの成績だ。悪くはないと思うし、ねーちゃん自身も俺の成績に少しプラスしたぐらいなのだから理不尽だ。親父とおかんは成績うんぬんと言わないタイプなので、ただの姉弟喧嘩程度にしか思っていない。ちなみに今回は姉が発端だが、逆に俺が吹っかけていたら親父に千本ノックされる。娘ラブなのはいいが、息子にも慈愛の心を持ってほしい。


窓際に置いておいたせいか(正確にはねーちゃんのせいだ)、プリントは湿気を帯びている。無理に開こうとすると破れてしまう系の奴だ。というか触ったら破けてしまった。文字も変に滲んでしまっている。まいった、お手上げ。おとなしくねーちゃんに聞きに行こう。


ねーちゃんは留守だった。プリントが無いか確認しようと部屋に入ろうとしたが、ドアには鍵がかかっている。当たり前だな。怪力とはいえ年頃の乙女、部屋に鍵の一つや二つや三つ……多すぎだろ。仕方がない、おかんに聞いてみよう。


おかんは買い物に出ていた。テーブルの上にバーゲンセールの広告が置いてある。なになに、毎月一日はポイント三倍、お得なまとめ買いセールも実施中? あ、これねーちゃんも一緒に行ってるやつだきっと。どうして女はこういうのに目が無いんだ。ということは親父も……。


車が無かった。親父はおかんとねーちゃんのアッシー君になってしまったらしい。一家の大黒柱になんて仕打ちを。俺は心の中で合掌した。


彼女らはよく買い物に出かけるが、なぜだか物凄く時間が掛かる。俺もたまに荷物持ちとして買い物に付き合わせれるが、買うもの自体は少ないのに、平気で何時間も同じ店の中をぐるぐるしているのだ。たまったもんじゃない。その間は、アッシー君こと親父は車で昼寝をぶっこいている。正解、大正解。俺もそうしたい。車を運転できる立場だったらなら、俺もその位置にいられたのにと思いつつ、ただ、アッシー君となるのは嫌だとも思いつつ。今は一人で彼女らと付き合っている親父のことを考えると涙が止まらない。


さて、そんなことは置いておいて、家族共有ホワイトボードを確認しよう。何か共有事項があればここに書くかプリントを貼っておけという親の計らいである。帰ってきたらここに書くか貼るだけで良いのだ。なんて気が楽。とはいうものの、俺は怠惰の化身。それすら億劫なのだ。現にプリントは俺のカバンの底でしわくちゃになっていたしな。今のところ、ホワイトボードには「パパとおねーちゃんと買い物行ってきます☆」の文字と姉の陸上部のプリント関連しか貼られていない。陸上部は六月に大会があるらしい、ねーちゃんは選手としてでるのだろうかと少し気になったが、それ以上にパパの文字が心なしか小さくて切ない気持ちになった。


時計を見る。一四時半。一一時半ぐらいに早めの昼飯を食った時にはまだ家族全員いたから、昼寝している間に出て行ったのだろう。ということはこうなったらこいつらは夕方まで帰ってこないだろう。どうしたものか。……そうだ、友達だ。なんでそのことをすっかり忘れていたんだ。俺は慌てて部屋に戻ると、携帯電話を取り出し、パカッと開いた。


なんと真っ黒な画面の中にとんでもない面した男がいる。目ヤニがついていて、隈もある。髪の毛はぼさぼさ、歯の隙間にイカか何かが挟まっている。昼飯の焼きそばの具材だろう。なんてぶっさいくな野郎だ。俺だった。後で顔を洗うとしよう。

さて、どうやら電池が無いらしい、電源が点かない。そういえば、修了式の日以降ほっぽり投げてそれっきり、放置していたっけか。


いまどきパカパカ式の携帯電話ですから、使用用途なんて電話かメールぐらいしかないわけでして、そもそも俺に連絡取ってくる奴なんてそう滅多にいないわけなんだが。今は俺が連絡取ろうとしているが、それは気にしちゃあいけない。


充電器を探す。おいおい、見つからねえぞ。

そうだ、昨日ねーちゃんが今の奴壊れちゃったから貸してといって持って行ったんだった。畜生、それが人のすることかよ、慌ててねーちゃんの部屋に行った。


鍵が掛かっていた。

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