地竜
翌朝、村じゅう総出で見送られ森に入った
結局、名前も告げずに村を出た、村長は興奮のあまり、名前を聞いてこなかった、只の冒険者という認識だ、これでよかったのだ、グレンの言うには、こんな有り得ない機能の仕組みは、何れ、有名になる、これが一人の人間の仕業だとわかったら、栄太を世界中が狙って来る、奪い合いになり、国同士の戦争にもなりかねないことを遣ってしまったのだそうだ、軽はずみの人助けは、それ以上の不幸を、招きかねない事を肝に銘じた
薄暗い森の中は木が濃すぎて、俯瞰の映像は樹木が移るばかりで、役に立たない、久しぶりにチャッピーに相談だな
「チャッピー」
「何だ、長い間ご無沙汰だな」
「どうせ状況は全部見ていたんだろう、呑気にしていられてよかったじゃん」
「まぁ、そうだが、なんか用か」
「うん、俯瞰の景色が役に立たないんだ、空から見ても樹木ばかり移っていて」
「だったら、俯瞰からの熱感知にして、気配察知能力の感度を挙げればいいだろう」
「なるほど、さすがチャッピー」
「眠るぞ」
「ありがとう、どうぞ」
気配感知の感度を挙げると、周りに多数の魔物の気配分かる、俯瞰の熱源探知には位置が赤く映る、小物の魔物に対応は面倒なので、強めの威嚇をまとって進む、それでも襲って来る魔物は結構大物の部類なので、三人で協力して倒して進んだ、目的地を決めてあるわけでは無いが
「どこまで行くんだ」
聞くと
「この辺までは来たことがある、もう少し先まで行ってみたいが、いいか」
「別にかまわんよ」
ゴルドも
「俺もかまわないぜ」
「じゃあ、行こうか」
グレンを先頭に俺、ゴルドと続く
「気配の強いのが五体、もう少しで遭遇するぞ」
「わかった、栄太がいると助かるな」
静かに、気配を立ち近づく
「オーガだ一体はオーガキング、俺たち三人でもやっかいだぞ、どうする」
グレンが言うゴルドが
「とても無理だな、引き上げよう」
俺は、問題ないと思ったが、口を出さず、引き返しはじめたが
「ガウー」
後ろからうなり声
「不味い、きずかれた」
グレンの言うようにオーガの巨体が見えている、日本でいう鬼だ、あっという間に囲まれてしまった
「終わった」
ゴルドが言う
「こうなったら、俺たちが気を引く、栄太だけでも逃げろ、ゴルド良いな」
「おお、せめて栄太だけでもな」
グレンが
「俺の我儘に突き合わせた為に、すまん」
「なに、この世の終わりみたいなこと言ってるんだ、俺に任せろ」
オーガは少しは知恵があるのか、周りを取り囲んだまま、獲物がどう動くかみている、困っているのを楽しんでいるように見える、オーガキングだろう、ひときわ大きな一体はニヤリと笑ったような気がする、冗談じゃない、戦闘モードになる、オーガたちはいかに大きくても、俺にとっては、只立っているだけの木偶の坊に過ぎない、まずオーガキングのこめかみに剣をお見舞いするが、硬い、剣がはじかれた、オーガキングは打撃を感じたらしく、首を揺らすと俺を睨み、大きな拳が飛んできた、それを躱し、体に金剛と剛力をまとう、オーガキングの拳を躱した流れで、跳躍こめかみに剣をたたき込む、小さな俺を殴るため屈んでいたオーガキングは、そのまま倒れ込み動かなくなった、他の四体はそれを見て固まっている、その間にこめかみに延髄に剣を刺し込み四体を倒した、その間一分程だろう
「ふー」
金剛と剛力を解く、体が柔らかくなったのを実感する
一息つく、グレンとゴルドは、目を見開いたまま彫像と化している、いつまでも動かないので、二人の頭にチョップする、やっと動き出したグレンが
「どこまでも、化け物だな」
と呟く様に言う
「いや、比べたら化け物がかわいそう」
「どういう事だよ」
「もう、何も言わん、何でもありだ、栄太のやる事に耐性を付けなくては」
「帰るってもんだろう」
「ああ、一度気分は死んだからな、さすがに疲れた」
五体を収納すると
「帰るか」
振り向いてさすがに、ぎょっとした、オーガの対処で全く気がつかなかった
「今度こそ終わった」
オーガなんてものじゃない、顔だけでオーガくらいある、トカゲのような顔があった
「おい、こんな所に地竜なんて、聞いたことないぞ」
「俺も」
そう言いながら、二人とももうおしまい、という顔で俺を見ている、さすがに無理だろうと言う事だ
歯向かうとおもっていない、只の餌だと思っているのだろう、ノソリと一歩地数いてきた、跳躍して頭の上に飛び乗る、再び金剛と剛力をまとう、振り落とそうと頭を振る、多数ある突起につかまって耐える、指先に集中ビームの出力を高め、脳に向かって放つ、ずっしん、と音を立てて頭が落ちた
二人は何も言わなかった、全長二十五メートルはあるだろう地竜を収納し
「帰るか」
物言わぬ二人は無視して帰路に就いた、名前を聞かれたり、またもお祭り騒ぎにならないよう、村には寄らずに帰ることにした、街に帰るまで二人は失語症と言う病気にかかっていたようだった
一晩野宿して帰ったのだが、何で俺が口も聞いて貰えず、気まずい思いをしなければならないのか、そう思った
「栄太、ゴルド、今回の事一切誰にも話すなよ、俺はギルド長の所に行ってくる、初めて口をきいて、誰にも話すなって