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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
繋がる心
84/93

26-3


そう思った刹那、その腕をカザが下からかち上げ、硬質化していない上腕部を狩猟棍で乱打する


変形し動きを止めた左腕


その脇から迫る背中の左腕を身体を回転させて避けるが、振り下ろされる右腕に対応が間に合わない


それをシグが曲刀で弾く


後ろではバサロが背中の右腕を片手で抑え、自らの左拳を引いた


「今だっ!!」


下段 雨の型 ひょう


カザの空気を裂く鋭い突きとバサロの拳が、『ソレ』の頭部に直撃する


前後からの攻撃に『ソレ』の頭は変形していたが、直ぐに頭を元に戻し、へしゃげた左腕を一瞬で治すと嵐のような剣撃で3人を吹き飛ばす


防壁の上を転がりながらも体勢を整える3人


「みんな大丈夫か!?」


シグは少しでも攻撃を受けていないか心配で確認する


「あぁ、大丈夫」


とカザは返事をし、バサロも無言で頷いたが、カザはシグの失った左腕の先端から血がポタポタと滴っているのに気づく


「シグ…血が」


「…あぁ、大丈夫。気にしないでくれ」


そう言ったシグは左腕の傷口を右手で少し押さえるが、その血は曲刀を伝って地面に垂れてしまう


カザはシグの言葉を黙って受け止める事しか出来なかった


『ソレ』は頭を左右に振りながらカザとシグを見ている。まるで何かを見定めるように


そして4つの腕を開いて針の腕の先端をこちらに向けて走り出す


カザはシグを庇うように前へ出て狩猟棍を構える


『ソレ』から繰り出される凄まじい程の突きの嵐をカザは必死で弾く


後ろからバサロが殴りかかるが、直ぐに背中の2本の腕がそれを防ぐ


その隙にカザは前の2本の腕を弾いて身体を回転させると、渾身の横薙ぎを頭部に叩き込む


金属のぶつかるような音が響くのとほぼ同時に聞こえた鈍い打撃音


カザの狩猟棍は頭部をへしゃげさせたが、『ソレ』は近距離のカザに蹴りを放っていた


吹き飛ぶカザはシグを飛び越え危うく防壁から落ちそうになるが、なんとか堪える


カザを助けに行こうとしたシグの目の前に迫る『ソレ』は、シグに右腕を振り下ろした


咄嗟に曲刀で防ぐシグ


しかし


シグの曲刀は


『ソレ』の右腕を


触手ごと斬り落とした


「ぬぁっ!!」


突然の事に飛び退いたシグは、まだ立ち上がれないカザの横に立って自分の曲刀を見る


曲刀の刃には、自分の血で赤く染まっていた


右腕を斬り落とされた『ソレ』は痛かったのか、自分の右腕を抑えてうろたえている


「な、何で!?」


転がった右腕はベチャっと液体に戻り、防壁の上から大黒海の方へと流れて行くが、切断された赤い触手はそこでのたうち回り、光の粒子となって消えた


『ソレ』の右腕の切断面から新しい腕は生えてこない


シグは訳が分からず、立ち上がろうとするカザを見る


「…もしかして、シグの血にまだヘキサリーフの花蜜の力が残ってるのかもしれない」


「え?ヘキサリーフの花蜜って…お前が取ってきてくれたアレ!?」


困惑するシグにカザは黙って頷き、そしてカザはシグの左腕から滴る血を手で受け止めると、それを狩猟棍に塗りたくった


右腕を失った『ソレ』は、困惑から明らかな怒りへと目の色が変わり、残った3本の腕をこちらに向ける


赤く染まった狩猟棍を構え、腰を落として不動の構えをとるカザ


何となく状況を理解したシグも、悪戯っ子のような笑顔を見せて曲刀を構えた


「…さぁーて」


「…第2ラウンドと行こうか!!」

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