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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
繋がる心
82/93

26-1


シャングリラの機関室へと繋がる通路に立ち込める白い煙


それを警戒しながら見つめるティトたち


しばらくの沈黙の後、晴れてきた煙の中


時が止まったかのように動きを止めた腐者


「…え?…何で?」


「…恐らく消火器の冷気で凍りついたんでしょう…」


今まで気づかなかった腐者の弱点、冷気


液体ならば凍る。そんな当たり前の事だったが、この灼熱の砂漠でそんな事を考える人間はひとりもいなかった


「ゾイは知ってたの?」


「知らないギャ!目くらましになると思っただけだギャ!!」


そうやり取りをしていた時、後ろのエレベーターから到着を知らせるベルが鳴り響き、シャッターが勢いよく開いた


「行くよっ!!」


すぐにティトとゾイが乗り込み、アズーは凍りついた腐者をもっとよく見ていたい衝動を抑えながらエレベーターに乗り込むと、シャッターが閉まり、下の機関室へと下って行った


凍りついた腐者


その一部にパキッと亀裂が入り


割れ目から静かにゆっくりと黒い液体が流れ出ていく



外の防壁の上では、カザの真空波とガラムのブーメランが触手を切り落とし、シグのリンクボムと紺色のエアリードを筆頭にインパルスのミサイルが表面を吹き飛ばす


「なんかアイツ…動きが鈍くなってねぇか?」


「…多分だけど、あの『赤いヤツ』が砂鯨から離れた所為せいかもな、分かんないけど」


リンクボムを込めながら大黒海の様子を口にしたシグに、自信なさげに答えるカザ


「もしそうならルナバーストまで何とかなりそうだな!!」


少し見えてきた希望をシグが口にした時だった


バサロが狙っていた『赤い何か』が、まとわりついていた砂鯨から離れ、大黒海の中を泳ぎながら頭部の方へと移動しはじめた


慌てた様子で岩を投げつけるバサロだが、すぐにかわされ、『赤い何か』は腐者をまといながら大黒海の額から飛び出した


「みんな!!『アイツ』が来るっ!!」


それは


バサロとシグの間にベチャっと降り立つと、その身体をゆっくりと持ち上げた


はたから見たら2メートル程の大きさの腐者に見えるだろうが


カザ達には見えていた


赤い光の線で縁取られた、異質な存在を


大きな人型の腐者の腕や脚に器用に触手を伸ばし、胸のあたりにある頭部なのか胴体なのか定かでは無いが、甲殻類のような外骨格、蜘蛛のようないくつもの複眼があり、左右に開かれた牙とその中に見える鋭い口が、不規則にモゴモゴと動いていた


そして、腐者の輪郭が次第に液体の状態から人の形に近づいていくにつれて『ソレ』から発せられる不気味な威圧感


「シグ!!バサロ!!下がって!!」


防壁の上を駆けてシグを飛び越えたカザは、そのままの勢いで『ソレ』に狩猟棍を叩きつける


響き渡る金属音


『ソレ』の両腕は、鋭い針のように硬質化し、カザの狩猟棍を受け止めた


「…お前…一体何者だ」


腐者の体の中に収まる『赤い何か』を睨みつけながら、カザは受け止められた狩猟棍に力を込める


「カザ!!引いて!!」


バサロの叫びに飛び退いたカザ


そのカザのいた場所に『ソレ』の背中から現れた新しい2つの腕が金属の床を叩く


「これでも喰らえっ!!」


飛び退いたカザの横からシグがバズーカを構えて撃つ


いつの間にか普通の炸裂弾に変えていたシグの弾道は真っ直ぐ『ソレ』の胸元へ迫る


が、針の様な片腕で弾かれ、少し離れた空中で爆発した


黒い人型の『ソレ』は綺麗な立ち姿で構えると、頭部に禍々しく紫色に輝く眼が現れた


「っ!!…それは…ラウルと同じ」


数時間前、帝国の強襲走行列車の上で皇帝の息子ラウルが見せた眼と同じ光だと、そう思うのと同時に感じた凄まじい殺意に、カザは狩猟棍を握る力を強めた


予備動作も無く『ソレ』は両腕を十字に重ねて距離を詰めるが、直ぐに反応したカザは間合いを詰め、両腕の針を狩猟棍で受け止める


強引に払おうとしたが、あまりに重い攻撃に払う事すら叶わないカザを、さっきと同じ高速の剣撃が『ソレ』の背中から放たれる


カザの頭上で響く金属音


見上げると、シグが腰から抜いた曲刀で背中からの剣撃を弾いていた


それと同時にカザは受け止めた両腕の針を何とか押しやり『ソレ』を後退させる


空中で身をひるがえしてカザの横に着地したシグ


「気をつけてシグ…アイツ強いよ」


「あぁ…それに一太刀ひとたちでも喰らったらあの世行きだ」


2人は腰を落とし、体勢を整える『ソレ』を睨みつけた

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