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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
本当の敵
81/93

25-4


狭いダクトの中を身体をよじりながら進むティトは、時折ダクトの隙間から漏れる光を覗き込み通路の状態を確認する


3度目に見た時、侵入してきた腐者がヨロヨロと当て所なく徘徊はいかいしているのが見えて顔をしかめたティトは、腐者にバレないように静かにダクトを進む


アズーもゾイもそれが分かり、同じ様に静かに進んでいた



ゾイの頭のトトのツノがダクトの天井に当たりベコンっと音を響かせた瞬間、他所の方を向いていた腐者がぐるんっと身体を捻り音の方を凝視する


ティトもアズーも口に手を当て声を漏らさないようにしてジッとし、ゾイは頭のツノの先端を両手で抑える


しばらくそうしていると、振り向いていた腐者はまたフラフラと徘徊し始め、ホッと肩を撫で下ろす3人


狭い為振り返る事も出来ず文句も言えないので、ティトは黙って静かにダクトを進み始めた



外では大黒海が攻撃を強め、カザ達はいつの間にか防戦一方になっていた


「くそっ!圧倒的に手数が足りねぇ!!」


「本当にルナ何とかでアイツを倒せるガ!?」


「はぁ、はぁ、ここで諦めたらソレだって撃てない!!信じろっ!!」


そう言って襲ってくる触手を真空波で斬り落とすカザ


手数を増やす為にさほど大きくない石を両手に持って投げつけるバサロは、ずっと赤く光る『何か』を狙い続けているが、全て紙一重で避けられてしまう


バサロが次の瓦礫を拾い上げようとした時だった


空気を切る音に反応してバサロが横に転がると、バサロの立っていた場所に黒い槍の様なものが壁の上部に当たり跳ね上がって後方へ飛んで行った


「…何だ?」


シグは大黒海の巨体の表面を凝視すると、腐者が無数の針の様なものに変化して一気に射出された


「みんな!避けろ!!」


そう叫んだカザは飛んでくる黒い槍に向かって真空波を放ち空中で弾き飛ばすが、あまりにも数が多い


シグはすぐさまジャリハートから飛び降りて壁の上を転げて槍を避けたが、数本の槍がジャリハートの装甲を貫き、車体ごと壁の後ろへと落ちて行った


「シグっ!!こっち!!」


シグはすぐに立ち上がり走り出すと、槍を避けながらカザの後ろへと滑り込む


狩猟棍で槍を弾くたびに高い金属音が響き、無数の槍の雨を何とかしのぐカザ


バサロも大きな瓦礫を抱えて槍を弾き、その後ろに隠れるガラムだったが、槍の雨は降り続ける



「シ、シウスを起動しなさい!!早く!!」


シャングリラの司令室でイオが慌ててオペレーターに指示を出し、起動したオートメーション機関砲シウスは一斉に射撃を開始して槍を撃ち落としていくが、距離が近過ぎる為に先程よりも効果が薄い


降り止まぬ槍の攻撃に身動きが取れなくなった壁の上の4人


その頭上を高速の何かが通り過ぎ


大黒海の表面が爆発して吹き飛ばされる


見上げる4人の頭上を紺色のエアリードが一瞬で通り過ぎ、それに続く青い機体のインパルスたち


「あれは、エアリード!?すげー!!飛んでるよ!!」


はじめてエアリードが飛んでいる姿を見たカザは興奮して空を見上げる


「つーか早っ!!」


シグもはじめて見る空飛ぶ機体にびっくりしてそれを目で追う


「全機補給は済んだな!?二機編隊で波状攻撃!!ミサイルを叩き込んでやれ!!」


紺色の機体に乗ったゲイルが無線でそう指示すると、インパルスはフォーメーションを変えて様々な角度から攻撃の間隔をずらして大黒海の表面を吹き飛ばす


ルナバーストの機関室で腕組みしながらモニターを見ていたアマンダ


「ったくティトちゃんの前だとすぐカッコつけるんだから!!」


と少し怒りながらもどこか嬉しい感情がアマンダの顔から漏れて見えた


その横でルーペは現在70パーセントまで溜まった充填率を不安げな顔で見ていた


二度目のルナバースト


それがバリアに弾かれてしまったことで、彼女の中の自信が揺らいでいた


もし、次も失敗したら


そう頭によぎったルーペは眼鏡を外し、耳にかける部分の先端を無意識にかじっていた



その機関室へ繋がるエレベーターの前の通路


壁の高い位置にあるダクトに通じる網が、音も無くゆっくりと開けられていく


そこから外を覗き込むティト


エレベーターの前には誰もいない


その反対を見る


少し離れた十字の通路のあたりに3体の腐者を確認したが、こちらに来る様子も無く、余裕で行けると思ったティトは、そーっとダクトから飛び降りるとエレベーターの呼び出しボタンを押した


ダクトからアズーとゾイも飛び降り、エレベーターの到着を今か今かと待っていた時


上がってくるエレベーターが何かにぶつかりガコンっとゆう音が響く


その音に肩を持ち上げてびっくりした3人は、恐る恐る後ろを振り返る


目は無い筈だが、腐者と目が合ったと感じたティトは凍りつく


3体全てがティト、アズー、ゾイを見ていた


のそりのそりとこちらに向かって動き出した腐者


ティトは来るのが早くなる訳でも無いのにエレベーターのボタンを連打する


アズーは後ずさりしてエレベーターの扉に背中がぶつかり、それ以上後ろに下がれずにいた


近づくスピードを少しずつ上げていく腐者


このままだとエレベーターが来るまでに腐者に襲われてしまう


そう感じたティトは何か無いかとあたりを探す


「ティト!!アレは何だギャ!?」


ゾイの指差す方向の壁際かべぎわに立てて置いてあるものを見る


「消火器だけど、何で?」


ティトはまたボタンを連打しながらゾイに聞くが、ゾイは黙って自分の背中からスリングショットと呼ばれるYの形をしたものを取り出しポケットから丸い小さな鉄球を取り出すと、ソレに取り付けられたゴムの当て皮部分にセットして弓を引き絞るように伸ばす


狙いを定め


ちょうど腐者が消火器の真横に来た瞬間


ベチンッとゴムの弾けた音と共に放たれた鉄球は消火器を撃ち抜き、白い薬剤と冷気が辺りに充満する


真っ白な煙は3体の腐者たちを飲み込んだ


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