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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
地を這う者の生態
8/93

3-2


なんだかわからないが親父がやばいのは分かったカザは一緒に出ようとする


「そこの3人、待ちんしゃい」


と砂バァが声をかけてきた

振り返る2人、アズーはまだ寝てる


「そなたら『つ』が取れた一人前じゃ。」


そう、独り立ちの条件はひとつ、ふたつと歳を重ねて9つを超えて10歳になることと、これからやっていく仕事を1人でもこなせると認められて初めて独り立ち出来る


砂バァは3人に近寄りカザの手を取る


「しかしまだ若い。決して無理はするでないぞ」


優しい目で3人を見る砂バァ

本気で心配してくれているんだと、カザもシグも分かった


「ありがとう砂バァ。必ず親父を助けてくるよ」


さっきの眠気はどこへ行ったのか、カザの顔は引き締まり眼差しに力が宿ると砂バァの手をそっと離して大広間を出て行く


3人が出て行き大広間に残ったのは砂バァとその付き人たちだけ


「…あの子の目は、両親のものとは違いますね」


「カザの両親も立派なバルウの戦士じゃった。顔は両親にそっくりじゃが、しかしあの目はナザルの若い頃にそっくりじゃったの。ナザルはカザを強く逞ましい子に育てあげたようじゃ」


とどこか悲しげで、どこか切ない表情で大広間の入り口を3人は見つめていた



一方砂漠では


ギュルギュルと激しい音を立て、さながら鉄の塊のゴツゴツとした多連結装甲車


通称 砂列車


は、正にオーバースピードギリギリの速度で走る


「くそったれめっ!救援が来ねえじゃねぇか!!」


と悪態をついた男はタバコに火を着け、それを咥えたままハシゴを登り上部のハッチに手をかける


「ナザルさん!!これ以上はエンジンが持ちません!!」


機関部の整備士が扉を開けようとした男に悲鳴に近い声で叫ぶ


「ばかやろうっ!そこはお前…頑張りやがれ!!」


それだけ言うとナザルと呼ばれた男はハッチを勢いよく開けた


強い風を受けながら砂列車の後方を見る


ドーンとゆう地響きと共に砂漠の砂が空へ舞い上がると、花が開くように長い牙をたずさえた巨大なミミズ、サンドワームがすぐそこまで来ていた


ズゴゴゴゴゴとまた地面に潜りを繰り返し、縦にうねるように追いかけて来て砂列車の一番後ろの装甲車にかじりつこうと突っ込んで来る


「バサロぉぉぉ!!」


そうナザルが叫んだ瞬間、巨大な金属を何かで叩きつけたような爆音が響いた

その音に怯んだサンドワームは突っ込んで来るのをやめる


バサロと呼ばれた大きな男は、まだ10歳にもかかわらず、他の大人より少し大きく筋骨隆々の体をしている

4つ連なる装甲車の一番後ろの車両に乗る彼は右手に大きなシャベルを持ち、ボアァァァンと余韻の音を残す装甲車の側面の壁は何度も何度もそのシャベルで殴られたであろうヘコミが無数にあった


汗だくになりながらももう2時間以上この作業を続けているためバサロの手はマメが潰れて血が滲み、顔には疲れがみえる


「段々来る間隔が短くなってやがんな」


音に怯んだサンドワームは地中に潜り見えなくなるが、確実にナザル達を追ってきている


ナザルは砂列車の後方、一番後ろの車両に向かい上部のハッチを開けると強い光に目を細めながらも見上げるバサロの姿があった


「バサロ!大丈夫か!?」


爆走するキャタピラの音で声がかき消されそうになるが、バサロには伝わったようで少し無邪気な笑顔を見せて頷く

ナザルはハシゴを降りて行き、腰袋から水筒とトトの干し肉をバサロに渡してシャベルをもらう


「交代だ!少し休め!」


そう言うと後ろの小窓を開けて外の様子を伺う


バサロは車両の前の方の壁に寄りかかって座り、水筒の水を飲んで干し肉にかじりつく


鉱山から砂の街バルウまでの道のりはほとんど平たんな地形のため舌を噛むほどの揺れは無いが、何せ限界ギリギリの速度で走っているので多少は揺れる


砂列車の走った後の砂煙で視界が悪い為、小窓の隙間から目を凝らすナザル


一瞬、かなり手前で砂が盛り上がったのを見逃さず


「見えてんだよゴラァァァ!!」


と砂列車の鉄の床を思いっきり叩きつけると、砂列車の真下の地中から悲鳴にも似た

鳴き声が聞こえ車両を下から少し押し上げ、それによろめくナザルはバサロと目を見合わせる


「…ガッハッハ!!危なかったな!」


そうナザルが笑うとバサロも笑った

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