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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
ルナバースト
74/93

23-3


「何でアンタまでついて来るのよ」


「ルナバーストは私が一番詳しいです。私が直します」


主砲の機関部に降りるエレベーター


ちょうど一年前くらいだろうか、食べ物の好き嫌いが多いルーペを料理長のアマンダがひどく叱った時から2人の間に深い溝が生まれてしまっていた


隣り合うアマンダとルーペはお互いに無言になりピリピリとした空気の中、エレベーターは機関部の到着を知らせるベルが鳴る


勢いよく開くシャッターの向こうで男たちの怒声が響く


「そっちからも火が出てるぞ!!」


「消火器が足りねぇよ!!」


「おい誰かコイツを運んでくれ!!火傷が酷い!!」


主砲の機関部の一部の冷却装置から火花が上がり、整備士たちはパニックになっていた


「…何でこんな事に!」


アマンダを押しのけて走り出したルーペは主砲のコントロールパネルに向かう


すれ違ったレンチはそれを目で追って、そして振り返るとアマンダと目が合った


「どうなってるのよ!!」


「すまねぇ、主砲を撃ってすぐ冷却装置がオーバーヒートしちまって。原因がわからねぇんだ」


「コアは抜けないの!?」


「それが熱が冷めないせいで固定具が外れなくなっちまったんだよ」


そう言われて機関部を覗くと、4つある固定具を鉄パイプを引っ掛けて人力で外そうと頑張る男たちが見えたが、固定具はビクともしない


「…熱で言うことを聞かない…充填時間が長過ぎたんだ…。ちょっと!!そこの貴方!火は良いからこっちに来て!!」


ルーペはコントロールパネルで現状を把握すると、近くで消火作業をしていた整備士を捕まえて機関部に接続された冷却装置の裏手に周る


「ここをその消火器で冷やして!」


「え?」


「早くっ!!」


言われるがままによく分からない四角いボックスを冷やすと、そこから伸びる熱で真っ赤になった太いパイプが冷えて黒に戻っていく


すると先程まで火花を散らしていた冷却装置が落ち着きを取り戻し、パイプを通してコアの取り付けられた機関部へ冷気を送り始めた


ルーペはコントロールパネルに戻りコアの固定具を外す入力をする


ビィィィィ!!


外す音は鳴るが、固定具は動かない


「えっ!?何で!?」


何度も何度も入力するが外れず、ルーペが焦っていると


「オマエらどきなっ!!」


とアームのついた重機に乗ったアマンダがタイヤをキュルキュル言わせて機関部まで寄せる


「ルーペ!!アンタが外すタイミングでアタシが持ち上げる!!いいね!?」


突然のアマンダにびっくりして思考が停止するルーペ


アマンダはアームを開いてコアの前後に差し込みアームを閉じる


「いつでも良いよ!!」


その声にハッとしたルーペ


「いきますっ!!」


コントロールパネルの固定具解除のボタンを押す


アマンダはルーペの声に合わせてアームを上に持ち上げ、ビィィィィ!!と解除の音と共に固定具は勢いよく外れコアが持ち上がった


見ている事しか出来なかった整備士たちから声が上がるが、「じゃまだ!!どきな!!」とアマンダに蹴散らされる


アマンダの後ろからレンチが同じようにして新しいコアを運び、機関部にセットすると、アームを外してルーペに分かるように手を挙げた


ルーペはすぐにコアを固定して稼働させるとルナバーストの充填を開始し、コントロールパネルの横の艦内通信のボタンを押す


「提督!!ルナバースト充填開始しました!!」


「良くやった!!レンチとアマンダにもよろしく伝えてやってくれ!」


ゲイルはそう言って通信を切った


重機から降りたアマンダとレンチはルーペの下まで来ると


「やっぱりアンタはきっちりやるね」


腕を組み、笑顔のアマンダ


「あ、アマンダは…私が分からない事もわかるもの」


恥ずかしそうに身をすぼめて眼鏡を直すルーペ


「伊達にオバさんやってないからね!」


アマンダとルーペは、少しだけ昔のように笑い合う事が出来たのを、レンチは嬉しく思うにとどめた



外では鳴り止まない迫撃砲の攻撃だったが、大黒海は変わらず前進を続けている


「提督!!後1キロを切りました!!」


もう望遠レンズで映し出したモニターなど誰も見ておらず、窓の外、その黒く禍々しい巨体を司令室の全員が視認していた


インパルスも帰還の命令を忘れて大黒海へミサイルを放つが、何か気にする素振りも見せずにシャングリラへ歩みを進め


少し開いた大きな口から聴こえてくる唸るような声が、静かに砂漠を響かせた


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