3-1
夜遅くまで続いた作業は難航を極め、結局終わらずに翌朝の日が差し込む部屋の中でグチャグチャに眠る3人
そこへ慌てた様子の20代くらいの若い男がノックもしないで勢いよく入ってきた
「はぁ、はぁ、やっぱりここにいたか!」
男は「おい起きろ!」とカザたち3人を揺すったりしまいには蹴ったりしながら起こす
「…なんだよ、……ミゲル?」
そう言いながら一番先に目を覚ましたシグが男を見て目をこする
「緊急事態だ!!2人を起こして砂ババ様のとこまで来い!」
そう言うとミゲルと呼ばれた男は走って外へ出て行く
「…緊急事態って言われてもなぁ」
とまだ寝ぼけているシグはフラフラヨタヨタしながらもカザのもとへ行き揺り起こす
「カザ…カ〜ザ。起きろ」
少し目を開けて目の前のシグを見て
また寝始めるカザ
ゴツン
と額をグーで殴られ悶絶するカザ
よし起きたなと、次はアズーのもとへ行く
ゴツン
額を殴られてもビクともしないアズー
むしろ殴ったシグの手が痺れてしまった
「っ!!、かぁーーこの石頭が!」
とアズーの額をペチンッと平手で叩くが、それもなんともない
昔からアズーは寝ないでなんかやってたなぁと思うといつの間にか寝てて、最低でも6時間は寝ないと起きない
これはもう絶対に起きないだろうと思ったシグは、アズーを持ち上げて背負う
「よっこいせ…さっき…ミゲルが来て、何だか分からないけど…緊急事態らしい」
とまだ額を抑えているカザにシグは言う
「…緊急事態??」
何だろう?とカザが考える間もなく
「とにかく砂バァの所に来いってさ」
わかったと寝ぼけながらも応えるカザは、脱いで壁にかけてあったフード付きのマントを着ると、外に出て砂バァの家へと向かう
砂バァの家は街の中心部にほど近い場所にあるためアズーの家からはそんなに離れていない
普段この時間ならまだ静かな街の筈だが、今は少し慌てた大人たちが砂バァの大きな家を出入りしている
まだ眠いカザとアズーを背中に背負ったシグは家の敷地に入ると先程3人を起こしに来たミゲルが正面から向かってくる
「大広間にみんな集まってるから早く行け」
とそれだけ行って通り過ぎてゆく
言われた通り大広間へ向かうと、30人ほどの大人たちが集められていた
遅れてミゲルも到着する
そこへ砂バァの付き人2人に挟まれる様な形で、推定200歳を越えているだろう背中が少し曲がった老婆が入ってきた
大広間の端には一段高くなっているところがあり、そこへゆっくりと腰を下ろす
「…大体揃ったようだな。それでは報告を」
と付き人の1人が言うと、守護隊隊長のオーキが砂バァの斜め前に立つ
「皆に集まってもらったのは、昨日鉱山に行ったナザルから今朝連絡があり、砂列車がサンドワームに襲われているとのことだ」
オーキ隊長の言葉に集まった人たちから驚きの声が漏れる
何故ならサンドワームとは全長50〜120メートルほどの巨大なミミズで、見た目は恐ろしいがかなり臆病な性格なため人を襲うことは万が一にも考えられないからだ
砂列車は砂に沈まないキャタピラで移動する多連結装甲車で、砂鮫なんかに襲われてもびくともしないし腐者の移動速度よりも早いのでそれも心配は無いのだか、何の理由かわからないがサンドワームに襲われようものならひとたまりもない
「…繁殖期じゃな」
大広間の椅子に鎮座し目を伏せて沈黙していた砂バァが口を開いた
「おそらく砂列車を交尾する相手と間違えておるんじゃろ。わしの若い頃に何度か襲われて砂の中に埋められてしまったわい。最近じゃあそんな事も無くなったんじゃがのぅ」
大広間にいる全員が思った
砂バァの若い頃って
いつだよ
「な、何か対策は無いのでしょうか!?撃退する方法などあれば」
とオーキ隊長が質問を言い切る前に
「無いっ」
食い気味の「無いっ」で皆が押し黙る
「おぬしらの時代とわしの時代は違う。あの頃はひっくり返され空中に振り回され最後には砂に飲まれて行くのを指を咥えて見ていることしか出来なんだ」
え?
そんなことされるの?
と砂列車がサンドワームにブン回されるイメージをした一同は、段々と顔が青ざめてゆく
「…おぬしらサンドワームの交尾を見たこと無いのか!?あれは圧感じゃぞ!大きな巨体が暴れくねって砂を巻き上げそりゃあもう」
「砂ババ様。本題に入りませんと、時間が」
砂バァが何故か凄く興奮して話すのをさっと止めに入る付き人
皆がこの付き人は出来る人だと感心していると、大広間の入り口から無線連絡係の女性が慌てた様子で入ってくる
「ナザル様からのご連絡です!もう逃げ切れない!至急応援を頼むとのことです!!」
こうしちゃいられないと、砂バァは役立たずだと、皆一様に守護隊隊長のオーキを見る
「わ、わかった!とりあえず皆サンドバギーとサンドシップで現地へ向かってくれ!今どんな状態なのか分からない以上、現場を見て判断してほしい!!」
え、
守護隊隊長は行かないの?
とゆう皆の視線
「私は、バルウを守る責任がある」
そう言いながら砂列車がブン回される姿のイメージが頭から離れないオーキ隊長は、そんな場所に行きたくないと、絶対に行きたくないと心で思っている
……………。
「皆のものっ!!砂の民バルウの戦士たちよ!行くのじゃっ!!」
と立ち上がって叫ぶ砂バァ
「っしゃあ!!行くぞオメェら!!」
と大広間に集まった中で一番歳をとっている男ガンザが無理くり乗っかって皆を鼓舞すると、全員が「っしゃあ!やったらぁな!!」「たかがミミズ1匹どうって事ねぇや!!」「俺なんか小指で倒す!!」などと気合いを入れながら大広間を出て行く