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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
紅に浮かぶ絶望
68/93

21-3



風化の進む崩壊した街とその奥に鎮座するシャングリラを夕陽がオレンジから赤へと染めていく


シャングリラから100人程降りてきて廃墟の街で何かの作業を始めてから丸一日経とうとしていた


その中に1人、真っ赤な夕陽を眺めながら佇む男は喧嘩をして出て行ったっきり帰ってこない一人娘の身を案じていた


「ダンナ!点検作業完了しやした!!何ヶ所か不具合はありやしたが、もうばっちりで!!」


体格の良い汗だくで油まみれの男はダンナと呼ばれた佇む男にそう告げると、手に持った大きなレンチを片手で持ち上げた


「ありがとうレンチ…後は戻って休んでてくれ。ルーペには俺から伝えておく」


「お安い御用ですよ。おーい撤収だー!!船戻って風呂入んぞぉ!!綺麗にしない奴はアマンダが飯くれねーからな!!」


廃墟の街の所々に空いた穴からハシゴを使って上がってくる作業員たちは、身体を見せ合いながら「俺はこのままでも行けんじゃねぇか?」「お前は風呂入っても顔が汚ねぇ」などと話しながらシャングリラへと帰って行く


皆がいなくなり


崩壊した街の民家だったであろう場所を見つめる


「…あれから7年…お前の娘はどこで何やってんだろうな。…お前にそっくりですぐどっか行っちまう。お父さん、ほんとは寂しいんだって言ったら…また笑われちまうかね…レイン」


夕陽が砂漠に沈み始めた時


ふと夕陽に目をやった男の目が鋭くなる


途端にシャングリラから警戒音が響く


「提督!!東の方角4キロ先に磁場異常を観測しました!!おそらく…」


「わかってるよ…てめぇだろ?…大黒海」


赤を通り越した紅の夕陽


その中の地平線に


黒く禍々しい影がゆっくりと大きくなっていく


その姿を、静かな怒りを瞳に宿した提督は


拳を強く


握りしめた


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