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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
紅に浮かぶ絶望
66/93

21-1


強襲走行列車の端まで飛ばされたラウルは、うつ伏せに倒れたまま動かない


汗だくのカザは整わない呼吸のまま、右足の太ももを庇いながらラウルの側まで来ると、ラウルは自分で仰向けになりカザを見上げる


「はぁ、はぁ、…はぁ」


傷だらけの顔で息を荒くして青空から覗き込むカザを見ている


「…まだやる?」


「…もういい。身体が動かない」


そんなやり取りをしてる屋根の上にティトが登って来る


「…うわぁ、傷だらけ」


ティトはカザの太ももの深い傷とラウルの痣だらけの身体を心配そうに見る


「……俺の負けだ。…殺せ」


そう言って目を瞑るラウル


…………。


ラウルの言葉に顔を見合わせるカザとティトだったが、急にティトの眉毛がつり上がる


ベチンっ!!


突然おでこを引っ叩かれ目を見開いて額を抑えるラウル


「なっ!何すんだよ!?」


「あんた馬鹿じゃないの!?散々好き勝手やった挙句『殺せ』じゃないわよっ!!」


そうティトに怒られ、自分がした事を思い出すと確かにそうかもと思い、何も言い返せないラウル


「…ラウル。俺はラウルと戦いに来たんじゃ無い…約束したんだ…シャングリラに行くって」


カザのその言葉にティトは何か言おうとしたが、ラウルが自力で起き上がろうとしたので手を貸す


「…そうだと思ったから剣を向けた。…けど止めたかったのか、殺したかったのか…自分でも分からない。…俺は、そうゆう人間だ」


ティトに支えられながら座るラウル、その目の前にカザはしゃがみ込んだ


「俺はまだ、友達だって思ってる」


真剣な顔でそう言うカザ


その言葉に、眉間にシワを寄せてカザを睨むラウル


「緑の眷属が言ってた通りの人殺しだ。お前のことも本気で殺そうとした」


「でも死んで無い」


「俺はお前たちを裏切ったんだぞ!!」


「喧嘩したらもうお終いってのが親父の口癖なんだよ」


「それウチのお父さんも言ってた」


そう言ってクスクス笑ったカザとティトを見て言い合う気力を無くすラウル


「…行けよ」


「でも」


支えるティトの手をどけてそう告げたラウルを心配するティト


「止めたのに力づくで行こうとしたからこうなったんだろ?」


「…ごめん」


ボロボロのラウルを見て素直に謝るカザ


「何でお前が謝るんだよ!もういいから行けよっ!!時間が無いんだろ!?お前らといると頭がおかしくなる!!」


軋む体で無理矢理立ち上がり、隣のティトをカザに押しやりながら怒り出すラウルにただただタジタジになる2人


「ほらっ!!」


とちょっと砂に埋もれたジャリハートを指差して『行け』と催促するラウル


しぶしぶ帝国の強襲装甲列車を降り、ティトがカザに肩を貸しながらジャリハートの方へ歩き出す。列車の側にいた兵士達は何もせずに2人をただ見ていた


カザは振り返りラウルを見上げる


「なぁ!!また会えるよな!?」


その言葉にラウルは後ろを向いた


何も返事をしないラウル


不安になり立ち止まるカザとティト


ラウルは拳を握り、堪えても堪えても溢れてくる涙を見せないように、振り返らずに


出てこない声を絞り出す


「…さあなっ!!先ずはお前らが生きて帰れよっ!!」


背中を向けたまま


ラウルは片腕に持っていた剣を空に掲げた


その仕草にカザもティトも笑顔になり


「またなっ!!」


「またねっ!!」


そう言ってジャリハートまで駆けて行った


「ちょっと待って!早い!痛い!」


「うるさい!ほらもう血ぃ止まってるじゃない!!」


「いやっ!だからっ、開くって!!」


「開きません!!」


ギャーギャー言い合いながら急ぐ2人を他所に、列車に駆け登りラウルに近寄った1人の兵士


その気配に慌てて涙を拭くラウル


「ラウル殿下!良いんですか行かせて?」


「…構わない…」


ジャリハートに跨り走り去って行く2人を眺めながら


ラウルは少し


笑った

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