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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
心の在り方
58/93

18-2



暗く明かりの無い部屋の中


数日前に皇帝に呼ばれたメイドの顔だけが照らされ、まるで顔だけ宙に浮いているように見えるそれは、瞼を閉じて眠っているように見える


それを手を後ろ手に組んで、愛おしそうに眺める皇帝の姿だけはっきりと見える


「ねぇねぇ、今度は何をするの?」


「そうだなぁ…今とてもいい感じだ」


「痛いのかな?」


「痛いと思うなぁ」


「つらい?」


「それはもう辛い筈だ」


「やっぱり人間とは違うね」


「そうだな。そうでなくては張り合いが無い。退屈な人生の大切な刺激だ」


「そっかぁ〜……お腹空いたなぁ」


「そうだったね、じゃあ今日もこの子にする?」


「うん」


皇帝と小さな子供の声が響く部屋


浮かびあがったメイドの顔の目と口が突然大きく開く


「あ、あぁ……あっ、…あっ」


声を漏らし、見開かれた目からは涙が流れていく


「じっくり、ゆっくり、落ち着いて」


その言葉をゆっくりと繰り返す皇帝


どこまで広い部屋なのか暗闇のせいで把握する事は困難だが、いつの間にかメイド以外にも無数の老若男女の顔が闇から現れた


何かを咀嚼そしゃくする音もせずに、ただメイドと皇帝の声だけが


闇の中に響いていく




太陽の角度からおそらく昼過ぎであろう砂漠の、かなり高い砂丘をジャリハートで降りながら、膝の上のゾイを心配するカザ


その砂丘を砂を吹き飛ばしながら貫通してくる砂鯨の群れ


しかしサンドシップはサンドバギーより早い為、それなりに距離を離していけてるような気がするが、怒れる砂鯨たちは追いかけるのを止めるつもりは無いようで、カザはジャリハートのスピードを上げた


ガラムが居なくなった後、暴れてジャリハートから降りようとしたゾイも、今はおとなしく座ってくれている


走りながらも少しだけ話をしたが、2人は俺と会ったあの日からまともに何も食べれずにいたこと。砂鯨の群が何者かによって殺されていたこと。そしてその肉をゾイが食べてしまったこと


話を全部聞いてカザは考えるが、どうしたらいいか分からずただひたすらに東へと向かう


「ねぇ、あれ」


ゾイが斜め前の遠くを指差す


その方向を目を凝らし見ると、砂漠を移動するバルウの街にもある砂列車に似たものが走行しているのが見えた




強襲走行列車の司令室にはラウルとその他の兵士が静かに座っていた


「ラウル殿下!!後方からおそらくサンドシップと思われる機体が高速で接近中で、あの…何故かは分からないのですが多数の砂鯨の群れを引き連れている模様です!」


「映像を出せ」


報告を受けたラウルは眉間にシワを寄せてサンドシップとそれについて来る砂鯨の映像を見る


「…やはりカザか……なんで砂鯨を」


そう口にしてある仮説が頭をよぎる


「…大黒海にぶつける気か?」


そう思い、確信したラウルだったが、そんな事をしたって大黒海は止められない。むしろ返り討ちにあうのは目に見えている


そして思った


カザはティトを追って来たんではないかと


その瞬間一気に心が掻き乱された


自分でもわからない感情がどんどん膨れ上がる


「列車の速度を上げろ。それと…砲撃部隊…あのサンドシップを…沈めろ」


そう伝えると、ラウルは立ち上がり司令室から出て行った

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