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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
親子の形
52/93

16-2


声の方を見るとナザルが松葉杖を左脇に刺した姿でこちらに向かって来ていた


「お前まで何も言わずに出てってどうすんだよ」


カザのジャリハートの前に立つナザル


「友達にも話せねぇで出てくってんなら…俺を倒してから行けっ!!」


そう言うとナザルは松葉杖をぶっ壊して棒だけの状態にしてスタスタといつもの稽古をする平石の上に立つ


カザは逸る気持ちを何とか抑えて考えるが、ナザルを納得させるだけの言葉が見つからない


ティトを追いかけシャングリラに行った所で月光蟲の無い今、大黒海を止めることは出来ない


それでもカザは


「…な、ナザルさん…その、傷口が」


と付き人が心配になり声をかけるが


「口を挟むんじゃねぇっ!!これは親子の問題だ!!」


とまっすぐカザだけを見ているナザル


未だかつてここまで怒りを露わにしたことは無く、ましてやそれをカザに向けるナザルの姿に、アズーも付き人もただ見ている事しか出来ずに立ち尽くす


カザは黙ってジャリハートから降りると、俯きながら平石の上に立って向かい合う


「…どうしても、行かなきゃいけないんだ」


「なら構えろよ」


そう言ってナザルはゆっくりと腰を落とし、棒を脇に構える


不動の構え


「…出来ないよっ!!」


俯きながら叫ぶカザ


「漢がいつまでも下向いてんじゃねぇっ!!…どうにもならねぇことなんだろ?それでもテメェは行くんだろ!?父親を越えられねぇ奴があの子を守れんのかっ!!」


ナザルは腰に据えていた棒を上段に構える


大黒海を目の前にしても一歩も引かなかった男の威圧感


…………。


カザは


背中の狩猟銃を手に取り


狩猟棍へと変えて


腰を落として脇に


そして下段に構えて


まっすぐナザルを見る


覚悟を決めたカザに表情一つ変えず睨みつけるナザル


駆け出したカザは素早い突きを繰り出すが、ナザルはそれをいとも簡単に避けて払い除けるとガラ空きの足元を払う


バランスを崩したカザの腹部にナザルの回し蹴りが見事に入る


もといた場所までふき飛んだカザはゲホゲホと咳き込んで腹部を抑え、それを何も言わずに見ているナザル


カザは痛みを堪えながら何とか立ち上がり、次は上段に構え、駆け出した勢いで跳躍し、体重を乗せて上から降りおりした


ナザルはそれを棒で難なく防いだと同時に棒を回転させると、狩猟棍ごとカザの身体も回転してしまう


がカザはその回転を利用し、自らも回転する事でナザルを飛び越えて着地と同時に背中に突きを繰り出す


それをナザルは棒を回す動きで跳ね上げ、身体を右に回転させて横に薙ぎ払う


その一撃を背中で受けたカザは平石からふき飛ばされ、戦いを見守るアズーと付き人の前の地面にうつ伏せに倒れた


「…カザ、……もう」


アズーは心配になり声をかけようとするが、カザは立ち上がり平石へと戻っていく


そしてまたナザルへと挑む


何度も


何度も吹き飛ばされるうちに


カザは初めて打棍技を教えてもらった時のことを思い出していた



「今から砂の民バルウの狩人ととして、絶対に身につけなきゃならねぇ事を教えてやる!」


そう言われて棒を持たされた3歳のカザは、ナザルの話を聞かずに棒で地面に絵を描いていた


「カザぁ、頼むよー。絵も良いけどさぁ」


と仕方なく一緒に地面に絵を描くナザル



5歳になってようやく上段下段の型を教わるが、振り回した棒がすっぽ抜けて家のガラスを割ってしまった


その時もナザルは笑って許してくれた


7歳になってジャリハートで勝手にバルウを抜け出してアジャリナジャリの巣に落っこちた時も、心配して探しに来てくれて


9歳の時、霊祭で披露した打棍技の舞を一ヶ所間違えた時だって


いつでもナザルは笑って


側で見守り


育ててくれた


何度も弾き返されながら


いつの間にかカザは


泣いていた


それでも


カザは立ち上がり、涙を拭いてナザルを見据える


「…どうした?こんなもんか?」


ナザルは強がってはいるが、背中からは血が滲み真っ赤に染まっていた


大技は通用しない


流れの中で攻め手を組み立てても、経験と力と技で全て跳ね返される


カザは深く深呼吸をし


下段に構え、集中する


その様子を見てナザルは決めた


次の一撃で終わりにすると


ゆっくりと上段に構え


その一瞬を見定める様に


お互いの空気が張り詰めていく


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