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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
砂の街 バルウ
4/93

2-1


地平線を小さな点が左から右に少しづつ移動し、その点のすぐ後ろを砂煙が放射状に広がっていく


それをジャジャリと呼ばれるタテガミと尻尾の先が白い毛でフワフワしているこの砂漠最速の小さな小さな生き物が、2匹並んで眺めている


快調に響くジャイロシステムの音と、後ろでシャーーっと滑るようについてくるトトを包んだ革袋


永遠かと思われた地平線に少しのオアシスと大きな街が現れた


砂の街 バルウ


高さ15メートルはある分厚い石の防壁に囲われ、大きな門が見える


見晴らし台から白い光がチカチカと不規則に点滅したのに気づいた少年は、サンドシップの前方に付いているライトをチカチカと点滅させる


すると門がゆっくりと持ち上がり、3メートル程の隙間を空けると、少年は少しづつ減速しながらその間をすり抜けて行った


街に入ると賑やかで、行商人や商店、路地で遊ぶ子供達、主婦達の井戸端会議など活気の声で溢れている。そして帰ってきた少年の姿を見るなり


「おぉ!!カザおかえり!」


「今日も大物だなぁ!」


「カザ兄おかえりぃー!!」


「あぁ、良かった。バルウの加護に感謝致します」


声をかけてくれたみんなに手を上げて応え、少しひらけた広場にサンドシップを止める

さっきの見晴らし台から駆け降りカザと呼ばれた少年のもとへと走ってくる少年


「カザっ!!無事だったか」


顔のゴーグルと布地を取ってサンドシップを降りようとしたカザは、バランスを崩し倒れそうになるのを駆けてきた少年が咄嗟に支える


「フラフラじゃねぇか」


「シグ…ゲグ族の連中と腐者に襲われてもうクタクタだよ」


「…大変だったな。いいから少し休め」


そうゆうと近くの石造りのベンチにカザを座らせ、気を利かせたご婦人が冷えた水袋をカザに渡す。それを一気に飲み干すと、ありがとうございますと言って水袋を返した


「ああ、そうだ!…これアズーに渡して」


と腰袋から拳くらいの大きさの腐石を3つ、あーまだあったと4つをシグに渡す


「マジかスゲーなお前!!」


「ほんと最高と最低が同時に来たよ。アイツらさえ来なきゃこの3倍は持って帰って来れたのに…」


悔しそうに腰袋に混ざって入っていた何でもない石ころを放るカザ


「こんだけあれば充分だよ。バルウの加護とこいつに感謝だな」とサンドシップに手を置いて優しく撫でるシグ


「そだな……あれ?バサロは??」


「あぁ、お前が朝出た後、ナザルさんと鉱山に行ったよ。なんでも鉄が不足してきてるんだと」


「親父は思い立つとすぐだからな」


「確かに」と2人は笑い合う


とりあえずそこで寝てろと、サンドシップに結ばれた紐をシグは手際良く外し、トトを取りに来た肉屋のおじさんにトトを引き取ってもらい、アズーに腐石を渡してくると、街の奥へと走って行った


ベンチに寝転んで


少しぼーっと空を眺める


胸元からネックレスを引っ張り出すと、親指ほどの小さな腐石が付いていて

それを空にかざす

楕円を不規則に刻まれたような紫よりも黒に近い色をした石は、太陽の光を鏡のように反射している


腐石は砂鯨が腐者を食べて体の中で結晶化したものらしい

何故らしいのかというと、砂鯨がそれを排泄した所を誰も見たことがないからで

でも砂鯨が腐者を食べているところを見た者は大勢いる為、きっとそうゆうことなんだろうとゆう結論らしい


ようはウンチだ


でももとは人間で、腐者とゆう得体の知れない存在


人を襲う腐者を倒す方法はみつかっていない

あるとすれば砂鯨が食べてくれるぐらいで、それも意図して出来ることでは無い

だから腐者に出くわしたら逃げろ

これがこの世界の現実で、多くの人が逃げきれずに新しい腐者となり、それがいつから始まりいつ終わるのかさえ分からない

唯一の救いは砂鯨で、砂の民は聖なる生き物として扱い、決して砂鯨を傷つけたりはしない


かざした腐石を胸元にしまい、また空をぼーっと眺める


親父大丈夫かな


バサロもついてるし平気か


などと呆けてしばらく経ち、今にも眠りそうになっていると


ドーンと地面を揺らす爆音が響き、慌てて起き上がる


街の奥を見る


「…アズーだなぁ」


そう呟くと少し重たい体を起こし、サンドシップのエンジンを入れて車体を少し浮かせ街の奥へと押して歩いて行く

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