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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
バルウ防衛戦
31/93

10-2


砂の街バルウの至る所に設置されたスピーカーからけたたましく響くサイレン


砂バァの家に古くからある鐘がカンカンと打ち鳴らされ、休憩していた男たちが外へ飛び出し東の門へと走る


バルウには北側にも門があるが、そこで待機していた者も東の門へと走っていく


いち早く辿り着いたナザルはヤグラを駆け上り砂漠の闇を覗く


湧き出ていた黒い液体はバルウから300メートルは離れているが、月明かりでも分かる程に広がり、目測でも50メートルはあるだろう


ナザルの横に駆けつけたバサラ、肉屋のルウ、ガンザ、守護隊隊長のオーキ、シグの父親の副隊長バッツ


そして見晴らし台から2つのサーチライトがそれを照らし出す


「…おいおいどんだけ集まってんだよありぁ」


湧き出る液体の量で何体の腐者が集まっているのかおおよその検討がつくガンザは、今まで見たこともない現象に背中のあたりが冷たくなるのを感じたが、黒い泉の変化にヤグラや見晴らし台に登っていた全てのバルウの民が息を飲んだ


黒い泉の中心あたりから


ゆっくりと巨大な


禍々しい黒い塊がせり上がり


頭と思われる部分をこちらに向け


上下に裂けたそれは


大気も、大地すらも揺らす咆哮をあげた


ヤグラや見晴らし台に登った者だけではない。砂の街バルウ全ての者が感じたものは


圧倒的な


恐怖だった


全員金縛りにあったかのように身体が硬直し、ゆっくりと少しずつ近づいてくるそれを見ていることしか出来なくなってしまう


「ガガッピーッ!皆の者!アレはまさしく大黒海じゃ!腐者の大群などという生易しいものではない!じゃが!おぬしら男じゃろ!!何もせずこの街が飲まれてもいいのか!?この戯けどもがっ!!」


街中に設置されたスピーカーから砂バァがげきを飛ばす


「っ!!くそっ!俺は…何ビビってやがる!オメェらっ!!ここで引いたら全て終わるんだぞっ!!砂の民バルウの男はこんなもんかっ!!」


大黒海の咆哮に面食らっていたナザルは自分を恥じ、金縛りから解けない仲間たちに喝を入れる


「「「こんなもんじゃねぇぇぇ!!」」」


と見晴らし台とヤグラ、その下で固まっていたバルウの戦士たちから怒りにも似た気合の入った叫び声が響く


「テメェら!!持ち場に付け!!やったるぞ!!」


「ここで伝説を終わらせる!!」


とガンザとバサラが叫ぶとバルウの戦士たちは自分を奮い立たせる雄叫びを上げ、ガンザの部下たちと守護隊がヤグラに並び大きなバズーカを足下に立てる


「焦るなよ、まだ待て。引きつけてからだ。バッツ!!発破の準備は!?」


ナザルはヤグラから下で何か準備していたバッツに声をかける


「はいっ!ナザルさん!いつでも大丈夫です!!」


「わかった!…よし、ミゲル!合図はお前に任せる!!」


そうナザルに言われた見晴らし台のミゲルは震えながら大黒海の方を見る


鉱山で使うためのダイナマイトを昼のうちに砂漠の砂の中に仕掛けていたその場所は小さくピカピカと点滅してるが、まだ距離は離れていた


「クシナ、危ないから家に帰っていてくれ」


「ここが突破されたらどこにいても一緒でしょ?」


そう言われ否定できなかったミゲルは双眼鏡を覗く事に集中する



肉屋のルウとバサラは昼のうちにヤグラの下まで持って来ていた放水用のホースをヤグラの上に運ぶ


「ヤグラの下にあるアレは何だ?」


とルウがバサラに聞くと


「アレは俺たち専用だ」


とバサラはたくましい腕をルウに見せつける


「なるほど、久々にやるか」とルウはやる気に満ちた笑顔を見せる



いつもより金属やらネジやらで散らかった部屋でいつの間にか寝てしまっていたアズーとククルは大黒海の咆哮で飛び起きた


「なななな何ですか今のは!?」


「分かんない、怖いよ」


外で慌ただしく走る街の人たちを見て何が起きているのか理解したアズーは、目の前に準備だけしていた部品を急いで組み立て始める


「マズイですよまだ3つしか出来てない」


そう言いながらカチャカチャと『リンクボム』を組み立てるアズー

それをジッと見ていたククルは、隣で同じように組み立て始めた


「あっ!駄目ですよククル!勝手にいじらないでください!!」


とアズーは慌てて止めようとするが


「ククル分かるもん!見てたから分かるもん!ココがこうでコレがこうでしょ?」


とアズーがやったのと同じように組み立てていってしまうククル


「え?…あ、合ってます。ククル見て覚えちゃったんですか?」


そう聞かれたククルは手を止め


「えへへ、凄い?」と子供らしく笑った


「凄いです!頑張りましょう!まだ間に合います!!」


と2人は急いでリンクボムを組み立てはじめた



望遠鏡で距離を測るミゲルは、ゆっくりと確実に近づいてくる大黒海に震えていた


「ミゲル、下を見て」


そう言われたミゲルは一旦望遠鏡を外して言われた通り下を見ると、もう殆どの準備が整い、皆いつでも戦える状態だった


「あなたひとりじゃない。みんなで戦うの。仲間を信じて」


クシナは震えるミゲルの手を握り語りかけると、少しずつ震えが治まっていった


「…ありがとうクシナ」


勇気をくれたクシナに感謝を告げて、また双眼鏡を覗く。もう怖くない。


「目標!後10メートルで所定の位置に入ります!」


通信機を使い守護隊副隊長のバッツに報告すると「了解。5メートルからカウントしてくれ」と指示が入り、目を凝らして距離を測る


「…5…………4…………3………2………

1………点火っ!」


ミゲルの指示で点火されたダイナマイト


横一列に並べられたそれは左から右へと一気に爆発して大黒海を真下から吹き飛ばす


砂が高く舞い上がり、砂煙で大黒海は見えなくなってしまい息を飲んでしばらく様子を伺う防衛戦線


サーチライトは見失った目標を探すように砂煙を照らす


沈黙は続き


少しずつ晴れていく砂煙の中から、黒く禍々しい大黒海が何事も無かったかのように現れた


「目標!未だ健在!未だ健在!」


ゆっくりと近づいてくる大黒海


もう距離は400メートルを切っていた


「ミゲル!!まだ発破は残ってる!距離が近づいたら教えてくれ!」


発破が効いていないと絶望しかけていたミゲルの持つ通信機からバッツの声が届き我にかえる


「り、了解しました!!」


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