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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
仄暗い洞窟
29/93

9-3


それは半透明で分かりづらいが6本の脚を持ち


月光蟲と同じ様な光を放つ大きな眼


前脚は巨大で鋭い鎌を持ち


ティトと同じかそれ以上の大きさの昆虫だった


その昆虫は月光蟲を1匹づつ器用に咥え、ゆっくりと飲み込んでいた


そしてティトは気づいた、さっきはいなかったその昆虫が、今このドーム状の空間に何匹もいることを


声を殺し、ゆっくりと跪くと、四つん這いになってそっと入り口の方へ移動する


その昆虫たちは、仲間同士近づくと青白く光る羽を広げて威嚇しあい、しまいには喧嘩を始めて地面に落ちる


ティトはバレないようにゆっくりと入り口へ移動するが、入り口から勢いよく出てきたカザは「ぶはっ!」と声に出して息を吸う


天井や壁に張り付いていた昆虫たちが一斉にカザの方を見る


ティトはカザにジェスチャーで喋らないように送るがうまく伝わらない


「え?ティト何やってんの?」


その声に反応した昆虫たちは一斉に羽を広げ、前脚の鎌を持ち上げて威嚇する


「うわっ!なんだあれ?カマキリ?」


「馬鹿っ!!バレちゃったじゃない!逃げるよ!!」


と四つん這いから立ち上がり走るティト


しかしさっき地面で喧嘩していた2匹がカサカサとかなりの速さでティトを追う


まずいと思ったカザは先に潜って進むと、すぐにティトが飛び込み泳ぎだす



一方出口のシグとバサロはカザが持ってきたビンのタスキを眺めながら「スゲーな」と目を奪われていた


ズチャ、ズチャ


と何かが近寄る音がしてシグは咄嗟に発光器で照らし、腰の曲刀に手をかける


そこには2メートル程のヒカゲトカゲがいてシグたちを襲うつもりらしいが、シグはなんだよと別段気にするでもなく発光器を振って追っ払おうと近付こうとした瞬間だった


ポロっとヒカゲトカゲの頭が地面に転がる


シグもバサロも「???」となり、照らした方を凝視すると、青白く光る目が空中に突然現れ見えなかった体が半透明にくっきりとしてきた


シグは危険を察知し曲刀を抜くと、その半透明の昆虫は素早く距離を詰めてくる


両腕の鎌を振り下ろし、それを曲刀で弾くシグ


反り返った昆虫はバネのように元に戻ると目にも留まらぬ速さで鎌で斬りつけてくる


シグは何とかかわしながら鎌の腕の節を曲刀で狙うが昆虫の鎌に遮られる


「…マジか、こないだの軍人より強ぇぞ」


と呟くともっと早い動きで鎌を振る昆虫に段々と追い詰められそうになるが、バサロの岩の豪速球が見事に頭を捉え、後ろへ吹き飛んだ昆虫はバタバタともがき動かなくなった


「サンキューバサロ」


曲刀をしまったシグは倒した昆虫に近寄ろうとした時、水面からカザとティトが慌てた様子で出てきた


「はぁ、はぁ、ヤバいのがいる!」


「気持ち悪い虫が!」


と説明しようとした2人にシグは「これ?」とさっき倒した昆虫を指差す


「そう!それ!あっちにいっぱい出たんだ!!」


とカザはバサロから荷物を受け取り装備しティトは着ている服の水を絞っていると、水面から鎌が飛び出し地面に刺さる


「きゃあああ!!」


と叫び逃げ出すティトにカザ、シグ、バサロも走ってついていく


「何なんだよあれ!?」とシグ


「わかんねー!」とカザ


「月光蟲を食べてたよ!」とティト


「みんな先に行ってて」とバサロ


3人が振り返るとすぐそこまで来ていた昆虫に一人で立ち向かうバサロ


一瞬で距離を詰め両腕の鎌を振り下ろして来たのをバサロは素手で掴むと「行って!!」と後ろに叫ぶ


カザはシグと目を合わせ頷くとバサロを置いて走り出した


「ねぇ!いいの!?」


とバサロを心配してティトが聞いてくるが


「うん、バサロは自分が出来ないことはしないし言わない。ああ言ってる時は言う通りにした方がバサロはやりやすいんだ」


「今までバサロに勝てるやつはいなかった、もし勝てるとしたらバサロの親父さんかナザルさんだけだ」


カザとシグはティトにそう説明しながら走る


「2人は信じてんだね」


とティトに言われ無言で肯定するカザとシグ



ギシギシと鎌を押し込もうとする昆虫だったがバサロは譲らない


バキャっとバサロは握力だけで昆虫の両腕を潰し、それにうろたえた昆虫のアゴを右アッパーで吹き飛ばすと低い天井にぶつかって落ちる


バサロはもといた開けた場所の方からカサカサと昆虫が何匹もわいている音を聞き、出口へと走り出した



段々と開けたところまで来た3人の後ろからバサロは追いつき「ご苦労様」と拳を打ち合う3人


ティトも拳を出し、バサロは照れ臭そうに打ち合った


もうあと少しで出口だと思った時、背後から気配がして振り返るカザ


カサカサと何匹もの半透明の昆虫が、壁や天井を伝って追いかけてきていた


それに気づいた3人も走るスピードを上げるが、追いつかれて囲まれる


6匹の半透明の鎌を持った昆虫はゆっくりと羽を広げて威嚇する


カザ達はティトを中心にして昆虫達に向き合い、カザはガシャンと狩猟棍を、シグは曲刀を、バサロは拳を握りしめて構える


しばらくの膠着状態を破り昆虫が襲いかかる


下段 水の型 ひょう


大きな氷が空から降って来たような鋭い突きの一撃は昆虫の頭を捉え吹き飛ばし、そのまま頭の上で狩猟棍を回転させ


上段 砂の型 旋風


狩猟棍を横回転から縦回転にして体ごと回り隣から迫る昆虫の鎌を砕いて脳天を叩きつける



曲刀 朧月


シグは独特の足さばきで前進しながら左右に揺れる、昆虫から見るとシグの残像が残り2人に見えている状況で鎌を振るがシグを捉えられず、懐に潜り込んだシグに胴体を下から切り上げられ崩れ落ちる


曲刀 円月


もう一体はうまく倒した昆虫を陰にして横に回り込み、後ろ手に持った曲刀を円を描くように縦回転して何度も切りつけ倒す


バサラスペシャル


バサロは同時に迫る2匹に対し、正面から踏み込み、鎌を振り下ろすより早いラリアットで昆虫の首をへし折り吹き飛ばす。父親直伝のラリアット


それぞれ2匹づつ倒したが、まだ奥からわいてくる気配がする


「まだいるの〜?」


とカサカサ音に耳を塞ぐティト


「早くここを出よう!」


カザがそう言い4人は出口へと駆けて行った


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