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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
仄暗い洞窟
28/93

9-2



洞窟の中へ進むと天井の至る所に鍾乳石が垂れ下がりそこからポタポタと水滴が落ち、地面からも尖った鍾乳石がいくつも生えていた


奥に入るにつれて空気が冷えていくのを感じる


「なんだかひんやりしてきたな」


発光器で辺りを照らしながら少し肌寒く感じてきたシグは、自分の腕をさする


「え?怖いの?」


「怖かねぇよ!誰がびびって…」


ティトが茶化して言うとシグは強く否定するが足元に現れた真っ白な小さな蛇に硬直した


蛇はウネウネと遠ざかっていく


「シグ!ふざけてないで行くよ!」


至って真剣なカザに怒られたシグはブツブツ言いながらもまた進み始めた


段々と洞窟の高さも幅も小さくなっていき、人ひとり通るのが精一杯にまで細くなる


「バサロ、大丈夫?」


とカザが振り向いて言うと、親指を立てて大丈夫と返す


しばらく進みバサロが結構かがみながら歩き始めた時だった


「…?、あれ?道が無い!」


少し開けた場所に出たカザの目の前には冷たく濡れた岩肌があるだけで、その先の道は無かった


辺りを照らして他に道が無いか探して見るが、それらしいものは見つからない


「みんな、あれ」


とバサロが指差す方向に水があり、透明度の高い水の中を覗くと赤や緑色をしたコケや植物が発光し、どうやら奥へと続いているみたいだ


「無理無理無理無理!俺泳げないから!」


と後ずさりしながらシグが言うとバサロも横に首を振った


「私はシャングリラの貯水室でよく泳いでたから平気だよ」


「俺もオアシスで泳いでたから…じゃあ俺先に行って見てくるから待ってて」


と背中の狩猟銃と腰袋、月光蟲を入れるビンをバサロに手渡し、水の温度を確かめる


「これちょっとキツイかもな…」と予想より冷たい水に顔をしかめたが、意を決して水の中に入る


「結構冷たいから長くは入ってられないかも」


そう言うと息を整え大きく息を吸い、カザは水の中へと潜って行った


3人は水面を照らしてカザを待つ


滴る水の音だけが洞窟に響く


「カザ大丈夫かなぁ?」


と、なかなか帰ってこないカザにティトは段々心配になって誰ともなく口にする


「中で溺れてたりして」


とシグが言った瞬間バサロがシグの肩をど突いて怒る


「ジョーダンだよ冗談!」


心配そうに水中を覗くティトの目に動くものが見えた


「あ、帰ってきた!」


ぶはっ!と水面から出るなり息を吸うカザ


「すげーよあれ!そんなに遠くなかった!」


と興奮して水の冷たさを忘れるカザ


「え?いたの?」とティトが聞くと「ほら!」と手に握っていたものを見せる


それは青白く光る手の平より少し小さい羽根のない虫で、手足は短く質感はブニョブニョしている


「可愛い〜!!」


「おぉ!!これが月光蟲!?スゲー光ってんじゃん!」


と3人は釘付けになりシグが闇雲に手を出して掴もうとした


「あっ、そっとも」


カザが注意するよう伝えようとしたが時すでに遅く、シグの指の爪が月光蟲に刺さった瞬間目の前が真っ白になる


「きゃあ!」「うあっ!」「…!!」


2秒程の青白い強い光が続き、光がおさまった時にはカザの手から月光蟲は跡形もなく消え去っていた


「気をつけねぇと破裂するってミゲルたちが言ってたろ?」


「悪りぃ」


実はさっき捕まえたのは2匹目で、1匹目が破裂したのは黙っているカザ


「向こう側は広いドームみたいになってて、壁にいっぱいくっついてたんだ」


そう言うカザにバサロは預かっていたビンのタスキをカザへ渡す


「じゃあわたしはついて行くね」


と少し体を伸ばして水に入る準備をするティト


大きく息を吸って潜って行くカザの後にティトが水に入る


「なにこれ冷たい〜」と文句を言うが、ティトも大きく息を吸うと透き通った水の中へと潜っていく


狭い水路を泳いで進んで行くティトの目には色鮮やかに発光するコケや植物がゆらゆらと揺れていたが、今は月光蟲だと気にしないようにして前へ進んで行く


5メートル程進んだ所で水面が見え、そこへ向かってバタ足をする


「ぷはっ!ホント冷たいんだけど!!」


と水から急いで上がり、カザを見ようと見上げたティトの目に映ったのは


暗闇の中で輝く、まるで星空のような光景だった


「…うわぁ〜…綺麗〜」


ティトは輝く無数の月光蟲に見とれて声が漏れる


「これ全部月光蟲みたいだ、あそこに穴が空いてるだろ?」


とカザが指差す方を見るとそこにだけ月光蟲がおらず、手に持った発光器で照らすと穴が空いていて本当の星空が見えた


「あそこから月の光が入ってくるみたいだ」


「へぇー…ってゆうかもう夜なんだね」


そう言われてカザもそう言えばそうだなと思い、夜の砂漠は走りづらく危険なので少し帰り道の事が心配になった


「とにかく月光蟲を捕まえないと」


と壁に近寄り低い位置にいる1匹を捕まえると水の入ったビンに入れていく

どうやら月光蟲は水中でも呼吸出来るみたいで、この空間も時期によっては水でいっぱいになるのかもと想像しながらビンの蓋を閉めた


ティトもカザに習って壁に張り付く月光蟲をそっと掴みビンに入れていく


黙々と月光蟲をビンに入れていく2人


先にカザのタスキが月光蟲で埋まると


「向こうに渡してくる、あと2つあるからそれも持ってくるよ」


「おっけー」とティトが返事をしたのでカザは水の中へと潜って行った


ティトは黙って月光蟲をそっと捕まえてはビンに入れ、最後の1匹を捕まえビンの蓋を閉めようとした時だった


ゴキュ


「…?」


ゴキュ


何か、ゆっくりと飲み込むような


ゴキュ


そんな音が聞こえ


その方向を見る


輝くほとんど動かない月光蟲が


左から右へ移動し


袋状の何かに月光蟲が溜まっているのが見える


目を凝らし、暗闇に溶ける輪郭がぼんやりと見えてきた時


ティトは自分の口に手を当て悲鳴を消した



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