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砂鯨が月に昇る夜に  作者: 小葉 紀佐人
砂の民
1/93

1-1


白く強烈な光



地に足がつかずにもがく



熱によるものとは違う汗が全身から吹き出し



霞む視界に映るのは、砂漠の砂と空



そして目の前の男



締め上げられていく首に手をかけ外そうとするが上手くいかず


もがく足で何度も蹴りつけたが


段々と力を失う



カラカラと聞き慣れない音がしている



首を締め上げる男の胸元に下げられた方位磁針が狂ったように回っていた



その背後



砂の中から



真っ黒な液体がゴポゴポと湧く



流動する液体は



重力に逆らって立ち上ると



ゆっくりと人の形を成し



自分の意識は闇へと消えた




照りつく太陽の下、砂丘がいくつも重なる場所の間に、動物の皮で出来たフードの付いた薄卵色したマントを羽織り、口元も布のようなもので覆われ、目元は砂避けのゴーグルをした小柄な人間がサンドシップにまたがり望遠鏡を覗く


その先には赤茶色をしたトトとゆう草食動物の群れがいる


サンドシップを降りると砂丘の影に隠れてじっと待ち、腕に付いている方位磁針を見ると自分のいる位置から南南西にトトの群れがいることを確認出来た


風は穏やかに西からふいている


その砂丘からもう一度トトの群れを望遠鏡で見る


トトまでの距離はおおよそ600メートル


背中に背負った自分の身の丈に近いほどの骨や金属で出来た狩猟銃をゆっくりと手元に持ってくると、その望遠鏡を狩猟銃の上部に取り付ける


砂漠の熱で少し浅かった呼吸をゆっくりと吐き、そしてゆっくり吸い込んでいく


ジリジリと太陽に焼かれながらもじっとその時を見計らう


息を止め


照準を数ミリ右にずらし


引き金を引く


甲高いが少し太い射撃音の後、トトの群れの一頭が静かに倒れた

それに驚いた他のトトたちは、半ばパニックになりながらも北西の方へと駆けて行く


自分の射撃が見事に命中した事を確認すると、狩猟銃につけた望遠鏡を外し、コックレバーを引いて空の薬莢を取り出してから狩猟銃を背中に戻す


サンドシップで倒れたトトのもとまで来て確認すると、頭部を確実に捉え、痛みを感じる前に息絶えているのが分かる


頭のフードを取り、ゴーグルを外して自分の顔を晒す


まだ若く、成人していないであろう幼い顔の少年は倒れているトトの前で膝をついた


「…そなたの誇り高き魂、迷う事なく月に昇ること願わん…」


それだけ言うとトトの開いていた目蓋をそっと閉じた


少年は立ち上がるとサンドシップの後部から頑丈そうな紐と厚手の革のようなものを取り出す


紐は砂魚のドドチョと呼ばれる1メートル程の魚の髭で自分の体長の2倍から3倍の長さになる。それを加工したもので、かなり丈夫。厚手の革は砂鮫と呼ばれる獰猛な砂魚の皮で、摩擦や熱に強い


彼はその厚手の革を砂の上に敷き、長い棒を四隅の地面に刺す。トトのツノとサンドシップの後部を丈夫な紐で結び、サンドシップを前進させる事でトトを厚手の革の上まで移動させ、真ん中まで来たら四隅の棒を引き抜いてトトがしっかり固定出来るように革で包む


運転席に乗り込んだ少年はエンジンをかけて砂漠を走り出した


サンドシップは1人乗りのもので地面から少し浮いているが、後ろのトトは地面に接しているためにモコモコと砂煙をあげていた


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