王都、父親
俺達は、ひとまず町の外に出た。
ここなら誰も見てないし聞いてない。
「瞬間移動…本当にそんなことが可能なのですか?」
「れっきとした無属性魔法だよ。あんま知られてないがな。やってみたほうが早いな。馬車に乗ってくれ。」
「…にわかには信じ難い話ですが、貴方がそこまで言うのなら…」
カフィが馬車に乗り込む。それに、ファレス、ネメスさんが続く。
「よし、じゃあとぶぞ。」
まずは「《千里眼》」でとぶ場所を決める。王都に近くて、誰も見てなくて、馬車がでてきてもおかしくない場所。
…………あった。
「よしとぶぞ。「《瞬間移動》」
パッと周りの景色が変わる。
場所の中から驚きの声が漏れる。
「…本当に…とんだ…」
「な、なんと……」
「…マジかよ…マジかよ…」
まあ初めての瞬間移動だ。無理もない。
天界だと日常茶飯事だったからな。俺には見慣れた光景だ。
俺も馬車に乗り込む。
「じゃあファレス。よろしく。」
「……あ、ああ…。」
ファレスが手綱を握る。馬車が進みだした。
「貴方という人は…知れば知るほど離れていきますね。」
「唯の魔法だから、お嬢様も無属性使えたら教えてやるよ。」
「むーー。私が無属性使えないの知ってて言ってますね!」
「ああ。」
「全く、本当に酷い人です。」
そんな会話をしていると、すぐに王都が見えてきた。
「へー。あれが王都か。初めてきたけどでかいなー。」
「トレン王国王都クレトーン。面積、人口共に世界最大の都市です。」
「世界最大か。そりゃ凄いな。」
「お父様の件が無事に終わったら、私が案内して差し上げます。」
「おう、そんときゃよろしく。」
王都へは、外壁の隙間にある門から入った。カフィが紋章を見せたら、すぐに入れた。
クレトーンには4つの門があり、それぞれ東門、北門、南門、西門となっているらしい。今回俺達が入ったのは西門だそうだ。
「クレトーンには全てのギルドがあり、その内冒険者ギルド、鍛治ギルド、商人ギルド、メイドギルド、風俗ギルドは本部です。」
風俗ギルドなんてものがあんのかよ。
カフィがジトっとした目線を向けてきた。
「…レストさん今…風俗ギルドに反応しましたね?」
「してない。」
「本当ですか?」
「本当です。」
「ならいいです。」
何がいいんだよ。
「…レスト様…風俗ギルドが気になりますか…」
ネメスさんの口調が変わった。
「だから別に俺は___
「風俗ギルドのことなら!この私にお任せ下さい!」
は?おい、まさか…
「実は私!週に3回は通っているのです!ギルドランクもSです!」
マジかよじーさん!
「ネ、ネメス!やめて下さい!」
カフィは頰を赤らめている。お年頃ってやつだな。
「はっ!申し訳ございませんお嬢様、つい…」
「……もう、いいです…。」
カフィはさらに赤くなって俯いた。
それにしても、まさかネメスさんが週3回も……もうじーさんなのに……
人間って分かんないもんだなー。
「…4つの門から王都中心の王宮までは、大きな通りがあるので、このまま真っ直ぐ進めば、じきに王宮に着きます。」
今更そんな話したって無駄だってーの。
全く、俺はそんなことをするためにこの世界に降りてきたんじゃねーんだよ。まあ神が人間に欲情しないと言えば嘘になるがな。
実際、先代までの最高神様達は、そういうことのために下界に降りてることが多いらしい。エロジジイ共め。
「お嬢様、レスト様、王宮が見えて参りましたぞ。」
前方に白い建物が見えてきた。
ほお、あれがトレン王国の王宮か。バカみたいにでかいな。あれ斬ったら気持ちいいだろうな。しないけど。
入り口には大きなライオンのような動物が描かれている。あれがトレン王家の紋章か。
やはり門番がいたが、今度もカフィが赤くなったまま紋章を見せると、すぐに入れた。
カフィはいつまで赤くなってるつもりだろうか。
馬車を降りて、中庭から宮殿内に入る。
広いなー。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
数十人はいるであろう侍女達が、一斉に頭を下げた。
カフィの頰の色が元に戻った。
『お嬢様』モードだ。
「お父様は?」
「奥のお部屋でございます。クレナリア様もご一緒でございます。」
俺達はその部屋に向かった。
「お父様‼︎」
カフィは扉を開けるなり、ベッドの所へ走っていった。
部屋には椅子に座ったメガネをかけたの医者と、立ったままの侍女と、ベッドの上を見つめる女性が1人、そしてベッドで横になっているカフィの父親であろう男がいた。
確か…名前は…ネクロス?だっけ?
「カフィ!よくぞ無事で…!貴女がコロントの町で襲われたとの報せを受けたときは、生きた心地がしなかったわ…!」
「それよりお母様!お父様は……⁉︎」
「刺された箇所は急所を外れていましたし、傷も塞がっているのですが…ずっと目が覚めないのです……」
あの女性がカフィの母親か。
カフィの父親は、確かに目覚める様子はない。
回復魔法はダメだったのか?
医者に聞いた。
「なあ、回復魔法使ったのか?」
「私、回復魔法は〈上級〉まで会得しているのですが…」
上級魔法でもダメだったのか。
そりゃ結構大変だな。
魔法にもランクがあり、〈初級〉〈中級〉〈上級〉〈王級〉〈神級〉となっている。
回復魔法は〈中級〉まで使えれば医者になれるし、〈上級〉を使えれば、それこそ王宮専属の医者になれる。
魔法の会得ってのは結構大変なんだ。
特に回復魔法は、一番会得が難しいといわれる。
上級回復魔法が効かないとなると、何かしらの原因がある可能性が高い。
なんかあんじゃね?と思い、カフィの父親、もといネクロスさんをよく観察してみるた。
…………あ。
やっぱりな。魔力をサーチしてみたら簡単だった。この人、〈封印〉魔法がかけられてる。封印魔法は魔力を対象に留めておくので、気づきにくい。
さて、封印魔法の解除方法だが、とても簡単だ。封印魔法を封印すればいい。
魔法は生物や物だけでだけでなく、魔法に対しても有効なのだ。つまり、ネクロスさんにかかってる封印魔法を、それより強い封印魔法で封じれば、おそらくこの人は目を覚ますだろう。
まあやってみた方が早い。俺は初級〜神級まで全魔法使えるし。
今回は上級でも使えば大丈夫だろう。
「「《封印》」」
俺の左手が青く輝き、封印魔法を発動した。
ネクロスさんにかけられていた封印魔法は、俺の魔法によってを封印された。
「レストさん⁉︎何を__
「いいから見てなって。」
どうやらこの世界の人間は黙って人を信用するってことができないらしい。
……まあ、いきなり魔法なんて使ったらそうなるか。
「回復魔法かけてみて。」
「え?あ、ああ。」
医者は椅子から立ち上がり、詠唱をはじめた。
「白竜の名の元に___ホワイトキュアー」
医者はそう唱えると、両手でネクロスさんに触れた。すると、いきなりネクロスさんが起き上がった。
「…お?私…は……?」
「…あなた……」
「お父様……ぐすっ…」
カフィと母親のクレナリアさんは泣いている。親子なだけあって、泣き姿もそっくりだ。
当のネクロスさんは、何があったのかわからないという様子で、きょとんとしている。
「…クレナリア、カフィ…私は?」
「お父様は…ざざれでぇ……ずっど…おぎなぐでぇ…」
「何?私はどのくらい眠っていたのだ?」
侍女の1人が答えた。
「3週間ほどでございます。」
すると、たちまちネクロスさんの顔が青ざめていった。
「3週間……その間の公務は?」
「全て残っております。」
やっと起きられたってのに……
「……まあいい。医師は……やはりテルフラントか。助かったぞ。礼を言う。」
あの医者はテルフラントっていうのか。あいつには後で聞きたいことがある。
「いえ、今回は私ではありません。お嬢様と共にいらした、こちらの方が……」
あっ!おいバカテルフラント!そういうことを言うんじゃない!
「君は……?」
「あら、そう言えば貴方は誰ですの?」
ネクロスさんにクレナリアさんが聞いてくる。
カフィが言った。
「ハストゥの町で出会ったレストさんという方です。とてもお強いのですよ!森でトロルオークに遭遇したのですが、1人で倒してしまったのです!」
まーたこいつは余計なことを……
「なんと、ボス級を1人で……‼︎」
「そういえば、さっきも魔法か何かを使っていましたわね。その後ですわ、あなたが目を覚ましたのは。」
この家族は余計なことを言うことに関しては神を超えるな。
「……君、うちの騎士団に_____
「断る!」
なんでどいつもこいつも騎士団に入れたがるんだ!そんなに人手不足なのかこの国の騎士団は⁉︎
「お父様、私達も何度も勧誘しましたが、全て断られてしまいました。護衛を引き受けてくださったのだって、今朝のことですし…。」
「そうか…まあ今はいい。それより、長旅で疲れただろう。兄上には私から話しておく。この宮殿でゆっくりくつろぐといい。」
「私はお父様とお母様に旅の間のお話をしますが、レストさんはどうなさるおつもりで?」
「ちょっと私用がある。」
「そうですか。ではまた後ほど。」
「ああ。」
俺は先に部屋を出ていった医者のテルフラントを追いかけた。