イベント(続)、依頼
剣神の朝は早い。
んなわけない。昨日は色々とあって疲れたからな。(主に精神が)ぐっすり眠らせてもらった。起きたのは昼前だ。
今日はモンスター狩りがある。武器屋に行く前に隣の酒場で腹を満たして行こう。
俺は部屋を出て、酒場に向かった。
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平日の真っ昼間だというのに、酒場は賑わっていた。いや、この世界には平日とか休日といった概念が無いのかもしれない。冒険者とかの職業は、長い間休日だったり、不眠不休で働いたり、差が激しいからな。
「あの……」
「ん?」
後ろから声をかけられた。振り向くと、昨日の少女が立っていた。あ、しまった。
「あの……昨日は本当にありがとうございました。」
「あーいいんよいいんよ。気にするこたぁねぇさ。」
俺としたことが迂闊だった。少女のイベントは、まだ続いていたんだ。それも一番面倒なパターンで。
そこへ、酒場の奥で酒を飲み交わしていた二人組がやってきた。ついさっきまで酒を飲んでいたとは思えないほど真剣な眼差しだ。
「お嬢様、このお方は?」
片方の男が言った。俺はその中男の発したある言葉を聞き逃さなかった。お嬢様。やっぱそうですよねー。
「昨日宿屋で黒服の人達から助けてていただいた方ですよ。」
「なんと!貴方でしたか。これは大変失礼致しました。お嬢様からお話は伺っております。お嬢様をお助けいただき、ありがとうございました。」
「あ、はい。ところで、あんた方は?」
「ご挨拶が遅れました。私は、ヘルド公爵家家令を勤めております、ネメスと申します。そして、こちらのお方は公爵家令嬢、カフェミスリア・ネレスト・ヘルド様でございます。」
「どうかカフィとお呼び下さい。」
少女がにこやかに笑う。
はぁ、何でもいいよ。今後合うことはないからな。さっさと武器もらって、今日中にこの町を出よう。うん、そうしよう。
「あまり大きな声では言えないのですが、我々はこの町の隣のコロントの町から逃げて来たのです。カフィお嬢様の命を狙う輩から。」
「へぇ、そうなんだ。そりゃ大変だね。」
「隣町での用件は済みましたので、近々王都に帰ろうかと考えているのですが…」
お嬢様が俺の目を見つめてくる。
じーー。
じーーーーー。
じーーーーーーーーー。
「…何だ?」
「はい、そこで、とてもお強い貴方様に、王都までの護え……」
「悪いが断る。」
「報酬ならきちんと出しますぞ。〈ロゼウス〉フェルスにして、ざっと50枚程でいかがでしょう。」
ほう、こりゃまた偉い額が出たな。
〈ロゼウス〉ってのは昔の英雄の名で、日本で言うところのユキチさんみたいなもんだな。ただし物価が違うので、金額にはえらい差がでる。
〈ロゼウス〉一枚で、900000フェルス。日本円だと……大体2億ちょっと。それが50枚。百億円以上だ。この世界なら、一生遊んで暮らしても余るくらいだ。大国のお嬢様ってのはすげーもんだ。
だが、それとこれとは話が違う。神が金でつれると思ったら大間違いだぜ、ネメスさん。
「いや、金には困ってないんだ。そういうことだから、じゃあな。」
俺は席を立って、勘定を払いにカウンター席へ向かう。
「左様でございますか……」
と、残念そうな顔のネメスさん。お嬢様も悲しげな表情をうかべている。もう一人の男、おそらくお嬢様の護衛であろう男は、さっきからずっと周囲を警戒している。護衛ってのはだるそ……大変そうだな。更にあのお嬢様性格。一人でいたらすぐに拐われてるだろうなー。
勘定を済ませて店を出ようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「あっれぇ、昨日の兄ちゃんじゃねぇか。こんなとこで何してんだ?」
振り向くと、武器屋のオッサン、ザロップさんが酒を飲んでいた。肉屋の店主に服屋の店主も一緒だ。昨日町を歩いていたときに見たから覚えている。
「今日はゴブリン20匹狩り行くんだろ?やめたのか?」
ほう、ターゲットはゴブリンか。なんやかんやで初耳だな。
「まさか。これから行くところだよ。」
「それじゃあ帰りは明日になんなぁ。」
「え?なんで?」
「おいおい、兄ちゃん知らねぇのか?こっからゴブリンのいる森までは、馬車に乗ってねぇと半日はかかるんだぜ。」
「そうなんかあ。まぁでも、移動手段には当てがあるんで、大丈夫だよ。」
「私たちのことですね!?」
突然、後ろで声がした。声の主は、目をキラキラに輝かせている、カフィお嬢様だった。
私たちのこと?は?
「その移動手段の当てというのは、私たちのことですね!?」
え?
「……い、いや違うけ___
「もう、そんなに意地悪しないで下さいよ。私たちの乗ってきた馬車なら、半日もかからず森に着くことができます。」
あ、そう、ふーん。でも違う。
昨日この世界に降りたとこがその森に近いので、そこまで「《瞬間移動》」でとんで、そっからあるけばすぐなんだけど……
「《瞬間移動》」は、移動系の魔法の1つで、一度行ったことのある場所なら、一瞬で行けるっていうやつだ。一度行かないととべないのは、そういう魔法のお約束だから仕方ないとして、この魔法にはもう1つ弱点がある。半径1000㎞圏内にしかとべないってことだ。まぁそれはもう1ランク上の魔法を使えば解決するんだが。
それはいいとして、取り敢えずこの状況を脱しなければ。このままいけば、馬車に乗ってってそのまま仲間にされかねない。
どうしよっかなーーー。
あ、そうだ。い~いこと思い付いた。
「そうですそうです。移動手段の当てとはお嬢様のことですよ。どうか森までは馬車で連れて行ってく……」
「な~んか怪しいですねぇ~。急に態度が変わりすぎではありませんか?」
「私もそう思います、お嬢様。」
ギクリ。
さすがに無理があったか。でも大丈夫だ。彼女達は俺の頼みを断れない。断ったら護衛の件の話がパーになるからな。
「まあいいですわ。ネメス、町の入り口で馬車の手配を。出発は1時間後。それまでに準備を整えておいて下さい。」
「おう、ありがとよ。じゃあザロップのおっちゃん、昨日の刀頼むぜい。」
「お、おお。今店にあるから、取りに行こうや。」
俺達は武器屋ザロップに向かった。
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1時間後――――――
「よっしゃ、行くか。」
「はい。出発です!」
「気いつけてなぁ兄ちゃん。俺は酒場で待ってるからよ。」
ザロップのオッサン、一日中飲むつもりかよ。
俺達はハストゥの町を出発した。ゴブリンの住む森に向けて。