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勇者の代わりは剣神様  作者: 冬空孫久
3/20

少女、イベント

その宿屋は、ハストゥの町で一番大きな建物だった。トレン王国の王都にあるような立派な屋敷だ。よくもまぁこんな世界の端の町に建てたもんだ。隣には酒場があり、真っ昼間から賑わいをみせている。

中に入ると、受付のお姉さんに名前を聞かれた。名前かぁ。神の名を下界で名乗っていいんだろうか。別に俺の名前くらいいいか。この世界で崇められてるわけじゃああるまいし。


どの世界にも宗教ってのはある。ある世界では神が悪魔になってたり、自分の知らない間に他の世界で崇められてたりする。神だって意外と大変なのだ。


レスト。剣神レスト。それが俺の名前。俺が地球の管理神やってる間についてた名前。千年くらい代理でやってたときだ。


管理神になるとその世界の全ての情報が飛び込んでくる。しかも迷惑なことに辞めたあとでもずっとだ。で、俺はなんとなく日本にいたから、日本の事は詳しい。



受付のお姉さんに名前を教える。すると、あからさまに変な顔をされた。

そりゃまぁ変な名前だろうよ。苗字とかも無いんだから。だけどそこは世界は広いってことで停めてくれますかね。


「…では、21号室へどうぞ」


おお、やった。寝床確保。早速部屋に向かう。

部屋は至って普通のホテルって感じだった。うん、満足。外はすっかり暗くなっている。俺はここに来る途中の店で買った串焼きのようなものをほうばった。意外と旨い。よし、寝るか。


と、思ったとき、一階のロビーのほうから怒声が聞こえてきた。こんな時間に騒がしいなぁ全く。

次に、悲鳴が聞こえてきた。俺は部屋を飛び出した。



廊下に出る。人はいない。奥に階段が見える。床を蹴る。一瞬で階段の壁に着地。壁を蹴って一階に到着。1秒もかかっていないだろう。


ロビーでは、5人の黒服の大男達に1人の少女が囲まれていた。だが、全員こちらを向いている。

そりゃそうか。かなり派手な登場だったもんな。


少しの沈黙のあと、大男の1人が腰の剣を抜き、斬りかかってきた。剣神に剣で勝てるとでも思ってんだろうか。いや、知らないだけか。

男の剣をかわし、奪う。動きが単純すぎんだよ素人が。男の後頭部に剣を打ち付ける。男は倒れ、動かない。安心せい、峰打ちにごさる。


「こいつ…おめえら、やっちまえ!」


男の1人が、叫ぶ。

あ、それやられ役の台詞だぜ。

他の3人が斬りかかってきた。まぁ、2秒後には倒れてたけど。残った1人が、剣を抜く。そして少女の首筋に刃を当てた。どうせこう言うんだろう。

動くな!こいつがどうなってもいいのか!って。


「動くな!こいつがどうなってもいいのか!」


うわぁ、何から何まで台本通り。で、次は

剣をすてろ!両手を組んで頭の後ろにまわせ!

とかだろう。


「剣をすて……」


男は言い終わる前に倒れた。倒したと言った方が正しいか。お前エスパーかよ。

まわりを見ると、その場の全員がぽかんと口を開けて目を見開いていた。うん、知ってた。ここまで台本通りだわ。で、次は衛兵の登場。


「動くな悪人共!武器をすて、おとなしく降伏しろ!……って、あれ?」


ほらな。とっととこいつら連れてってくれ。話とかは聞かないからな。何者かも答えない。まわりの人たちも説明とかしなくていいから。


「これは一体……?」

「あ……そこの人が全員のしちゃって……」

「何?1人でか?おい、そこの青年。これをやったのは貴様か?」


しなくていいって言ったのに。(言ってない)しかも何で偉そうなんだよ。遅れてきたくせに。


「あーはい。まぁ」

「貴様一体何者だ?」


俺の願いと真逆の方向に物事が進んでいく。


「ただの旅人ですか」

「………そうか」


疑ってますよねー。まぁ無視だ無視。まだイベント続くんだから。助けたことになってる少女のやつがな。俺は部屋に戻ろうと階段に向かう。


「あの………」


はいきました。何も知らないふりして切り抜けよう。


「ん?」

「その、助けていただき、有り難うございました」


何て健気で素直な子だ。ごめんな。流れ知っててごめんな。


「いやぁ寝ようと思ってたのを邪魔されただけだ。気にするこたぁねぇ。」


よし、後は戻って寝るだけだ。


「あの、何かお礼をさせていただけないでしょうか」


ははぁ、そのパターンか。だが、残念だったな。日本じゃテンプレートだ。対策くらい考えてある。こういう時は…………逃げる!


「いやいや無事で何より!では失礼!」


俺は頭は弱いんだよ!

部屋に逃げ込む。ベッドにダイブし、俺は眠りについた。


-----


その夜、隣の部屋のカップルのベッドがギシギシうるさくて、目が覚めた。お盛んなようで。

少しぼーっとしていると、ベッドのきしみとは違う音が聞こえてきた。誰かが壁を上っている?

そっと窓を開けて外を見ると、案の定3人の黒服の男がロープをよじ上っていた。さっきのやつらの仲間だろうな。懲りないやつらだな。いやさっきのとは違うやつらか。どうしたものか。

うーん。よし、落とそう。

俺はバッグから、鉄の塊を取り出した。昼間に武器屋のおっちゃんに、いらないやつをもらっておいて良かった。


「《創造》」


魔法を使う。今の《創造》は、神にしか使えない魔法である神魔法、《神器創造》の劣化版である。素材となるものを別の形に成形するのだ。この世界には魔法がある。故に、魔力と呼ばれる力もあるのだが、俺の魔力は神クラスだ。人化状態でも一応神だからな。つまるところ、魔法使い放題。やったね。


で、鉄の塊を手裏剣の形にした。それを窓から外の男たち……ではなく、ロープに向かって投げる。手裏剣が空を斬る。しかし、ロープにはあたらない。


「ぐぬぅ……」


俺投げんの下手だわ。


「《操作》」


手裏剣は空中でUターンし、今度はロープを捉える。ロープが切れ、男たちは地面に落ちる。


「ぐぎゃっ」

「何だ? おい貴様ら、そこで何をしている!」


見廻りの衛兵に見つかったようだ。これにて一件落着。いつの間にか隣の部屋の音もやんでいる。

俺はベッドに倒れこみ、今度こそ俺は眠りについた。



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