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勇者の代わりは剣神様  作者: 冬空孫久
19/20

デート(1)、占い


「レストさん」

「はい」


ドス黒いオーラを放つカフィに、頭を下げる俺。ベッドの上では、精霊女が腹を抱えて肩を震わせている。

…………笑ってんのかあいつ!


「何故彼女を襲ってたんですか?」

「だから、襲ってなんか__

「でも、剣を向けてましたよね?」

「う、それは……………」


カフィが部屋に飛び込んで来た時、俺は邪魔な根っこを排除していた。それで、俺が精霊女を襲っているように見えたのだろう。これに関しては、タイミングが悪いとしか言いようがない。


「まあ、別に襲ってようと襲ってなかろうと、どっちでもいいんですけど」

「??」


じゃあ、なんでこいつはこんなにも怒っているのだろう。分からん。訊くか。


「じゃあ何で怒ってんの?」

「レストさんの言う事が本当なら、彼女は森の精霊で、当然森にいたと」

「おう」

「レストさんは彼女が気絶した後、この部屋に運んでベッドに寝かせたと」

「合ってる」


このまま森の中でぶっ倒れてたら、モンスターに襲われるかもしれないと思っての行動だ。だが、今にして思えば、森の恵みの源であるこいつが、森に住むモンスターに襲われるわけがねーんだ。後悔してる。


「では、その一連の流れを、第三者視点から思い浮かべてみてください」


第三者視点から……


まず、剣を振るう。寸止め。

精霊女が気絶。

意識のない精霊女を抱きかかえる。

……部屋に戻る。

………ベッドに寝かせる。

…………。


「大変申し訳ございませんでした」


俺はその場に膝をつき、頭を下げる。


自分で言うのもなんだが、相当ヤバいことをしたと思う。


「分かりましたか。きっと、彼女にとっては一生のトラウマになるでしょう」


カフィがチラリと精霊女に目をやる。

瞬間、ベッドの上のクソババアは目の端に涙を浮かべ、震えはじめる。あいつ、後で斬ろう。


「ほら、ずっとああして震えてるじゃないですか」

「あ、………はい」


これだけは納得がいかん。だが、言えるはずもなく、素直に頷く俺。神の威厳とやらは旅に出た。


「では、彼女に謝りましょう。はい、どうぞ」

「えぇ……ヤダ」


嫌そうに顔を顰める俺に、カフィは更に怒りを膨らませ、


「ヤダじゃありません!ちゃんとごめんなさいしなさい!」


わがままを言う子供を叱り付ける親みたいだ。カフィが親側だけど。


俺はしぶしぶ精霊女の方に向き直ると、


「ええーー、クソババア、今回は1%くらいは俺が悪かった可能性がもしかしたらあるかもしれないから一応、念のため謝っとく。よし、これでチャラな。お前、後で大人しく斬られ」


後ろから後頭部をスパンと引っ叩かれた。


「全然ダメです!」

「いや、俺実は人に謝ると呪いが発動しちゃ

「嘘ですね。さっき私のときは発動しませんでしたもん」


チッ。ダメか。

どうにかこいつに謝らずに済む方法はないかと考えていると、


「え、えーっと。お、お嬢様、これは一体何が?」


俺たち以外の声に後ろを振り返ると、部屋の入り口にはファレスが。おお!


「ファレス、ファレス。聞いてくれよ、カフィとババアが二人がかりで俺をいじめるんだ」


俺はファレスに助けを求める。


「いや、お嬢様から聞いたぞ。今回はお前が悪い」


が、ファレスも俺を責める。なんてこった。


「おいレスト。何があったのかは知らんが、あの美女は俺に任せとけ。お前はとっととデートに行ってこい」


と、ファレスが俺に耳打ちする。後は任せろと言うなら任せるが、一つ疑問が。


「おい、誰と誰がデートすんだ?カフィも同じこと言ってたが

「ああああああ!」


俺の質問にファレスがキレた。なんでだ?


「いいからお嬢様と街に出ろ!いいか、2秒で覚えろ簡単だ!1にお嬢様、2にお嬢様、3から先も全部お嬢様だ!お嬢様の安全を確保し、お嬢様の幸せのために動けよ!お嬢様が満足されるまで帰ってくんな!」


と、俺を廊下に押し出し、カフィの腕を取るファレス。コイツのカフィ愛が変態級なのが分かった。


「さあ、お嬢様、行ってらっしゃいませ!」


カフィが部屋から出ると、ファレスは扉を勢いよく閉めてしまった。なんなんだあいつ……。

今日は朝からみんなおかしい。


突然のファレスの奇行に、さっきまで怒っていたカフィも唖然としている。そりゃそうか。


「あ……」


俺と目が合うと、カフィは慌ててそっぽを向いた。顔が赤いが、まだ怒っているのだろうか。


まあいい。それより、これからどうするかだ。街に行くのは元々の予定通りなので、とりあえずここを出ようか。


「カフィ、俺は街に行くが………お前はどうする?嫌なら、部屋に

「い、行きます!私が案内する約束ですからね!」


顔を合わせないまま、俺の言葉を遮って答えるカフィ。律儀だなあ。


「そうか。じゃあ、とりあえず………あ」


歩き出そうとして、俺は扉に向き直り、ノックする。


「何だ!」


ファレスの声。まだキレているらしい。

俺は扉を開け、顔を覗かせる。


「刀と鞄」




ーーーーー




「さて、どうしようか」


現在位置は王宮の中庭。ここが、東西南北のどの通りを進むかの分岐点になる。


「ふっふっふ。私にお任せください」


すっかり機嫌を直したカフィが、腰に手を当て、得意顔で胸を張る。

かわいい模様の入ったショルダーポーチから、折りたたまれた地図を取り出す。


「ちゃんと計画を立ててきましたから。レストさん、ついてきてください」


カフィが満足してくれればいいので、俺達はカフィの選んだルート通りに、北門から大通りへ。別に寄りたい所もないしな。


しばらく道なりに行くと、カフィは足を止め、通り沿いのアクセサリーショップに入った。


俺は興味がないので、店の外で待っていると、カフィが手招きしてくる。何だ?


「レストさんレストさん、このお店はですね、かつて凄腕の占い師として名を馳せた、あのテイラー・アヴニーさんが営んでいらっしゃるのですよ!」

「へえ、そうなんか」


この世界に来たばかりの俺に『あの』とか言われてもさっぱり分からないが、何か凄そうな人だってのは伝わった。


「すみませーん、占いをお願いしたいのですがー」


店の奥に向かってカフィが声を上げると、奥から黒いローブにヨボヨボの婆さんが出てきた。いかにもって感じだな。婆さんは、椅子に腰掛けると、椅子の前に置いてある机に肘をつく。


「ほいほいほい、いらっしゃない。ん?お嬢ちゃんあんたは………まあいいか。別にあんたが本当のお嬢様でも、お客さんには変わりないからねぇ」


婆さんは、一瞬でカフィの正体を看破した。マジか!てかマズい。

俺は慌てて婆さんに声をかける。


「お、おい婆さん、この事はくれぐれも……」

「言わないよ。世間に公表されてない人間なんざ、この世にゃ腐るほどいるからね。それに、その子の魔力はとても純粋だ。ここまで純粋な魔力の持ち主だ、いつか必ず大物になる。そうなりゃ関係ないさ」

「な、なるほど……」


この婆さんすげえな。素直に感心する。


「それに、あんたはそれを超えてる。その嬢ちゃんほどじゃないけど、純粋な魔力だ。それに、量と質が半端じゃないね。このアタシが測れないほどだ。あんた、神かなんかかい?」

「ま、まっさか〜」


笑って誤魔化すが、ヤバい。この世界に来てから何故かイベント三昧だが、今までで一番ヤバい。さっきカフィが怒ってたときよりちょっとヤバい。


「まあ、いいさ。アタシにゃ関係ないこった。あんたらは客、アタシは店主。さあ、占いだったね。何を占って欲しいんだい?」


ホッと胸を撫で下ろす。この婆さんが無関心で良かった。


「あっ、はい。あの………」


婆さんの問いに、カフィがチラチラとこちらを見てくる。顔が赤い。何だ?俺に知られたくないようなプライベートな内容なのだろうか。

なら、空気の読める男になりたい俺は、空気を読んで店から出てよう。


俺が振り返り、店の入り口に向かって歩き出そうとすると、


「ははーん、分かったよ嬢ちゃん。あんたの考えてることが。ヒッヒッヒッ、乙女だねえ。いいよ、座りな」

「はいっ」


カフィは嬉々として婆さんの向かいに座る。

婆さんにはカフィの占いの内容が分かっちゃったらしい。恐るべし。まあ俺には関係な……


「どこ行くんだい。あんたも座りな」


えっ?


「え、俺も?」

「当たり前だよ。二人揃ってなきゃ占えないからね。ほら、早くしな」

「は、はあ…」


何でだ?プライベートな占いじゃなかったのか?俺も必要なの?


「なあ、カフィは一体何を


「「乙女の秘密です(さ)」」


俺の言葉を遮り、二人の声がハモった。楽しそうに笑みを浮かべるカフィと婆さん。

なるほど、乙女の秘密か。なら俺は黙っていよう。女ってのは怖いからな。


引き返し、カフィの隣に座る。


「ん、じゃあ片方の手を繋いで、もう片方は机の上に置きな」


俺は右手を、カフィは左手を机に置き、もう片方の手で、お互いの空いた手を握っ………。


「カフィ、どうした?俺はこう見えてちゃんと清潔にしてるから、大丈夫だぞ」

「あ、いや、……そういうわけでは…」


カフィは、恐る恐る俺の手の上に自分の手を置く。顔が真っ赤なのが謎だが、コイツはたまにこうなるときがあるから、多分大丈夫だろう。…………もっと念入りに体を洗おう。


「ヒッヒッヒッ。乙女だねえ。いいねえ。それじゃあ、始めるよ」


水晶を取り出す…………なんて事はせず、婆さんは両目に魔力を集中させている。そして、


「《インヴィ・グラス》」


そう唱えると、婆さんの両目の前に白い魔法陣があらわれる。

おお、上級魔法か。元凄腕預言者なだけあって、流石だ。


「ヒッヒッヒッ。見える見える。あんたらの相性は…………」


婆さんは俺達を交互に見る。相性?何の相性だ?


「あれ、おかしいねぇ。この上ないほど良いはずなのに、おかしいねぇ」


変なことをぼやく婆さん。何がおかしいのか。

てか、俺の方をジッと見てるんだが。ヤバくない?これヤバいよね、バレてる?正体バレてる⁉︎


「あんた………鈍すぎやしないかい?」


はい?




ーーーーー




テイラーさんは凄い。私の正体も、レストさんが凄いことも、一瞬で見抜かれた。


今日のデートプランの一つ目は、二人の相性診断。このお店は、的中率100%のテイラーさんの占いと、ラッキーアイテムのかわいいアクセサリーで、カップルに大人気なのだ。他の町や国から、わざわざ占ってもらいに来る人がいるほど繁盛している。


そこで、私のレストさんの相性を占ってもらえば、少しでも私の事を意識してもらえるし、2人でお揃いのアクセサリーを付けて、イチャイチャな雰囲気を醸し出せるという、完璧な計画……………の、はずだったのだが。


「あの男、おかしいよ。鈍感すぎる」

「ええ、そうなんですよ。今まで何度もアピールしているのに、これっぽっちも気づいてくれないんですよ」


現在、私は、お店の奥の部屋でテイラーさんと話している。レストさんは、テイラーさんの指示で私達のお話が終わるまでお店の前で見張り兼客止め。少し可哀想だが、元はと言えばレストさんが鈍いのが悪いので、仕方ない。


「あの魔法はね、2人の相性の他に、その人の性格なんかも分かるんだよ。今まで何人も見てきたけど、あそこまで鈍いのは初めてだね」

「実は今朝も、お部屋に行ったら、他の女性をベッドに寝かせていたんですよ!」


今朝の出来事がふつふつと脳裏に浮かんできて、思わず声を荒げる。


「何だって?あの男は、最低最悪のクソ野朗じゃないか」

「そ、そこまでは言ってませんよ。それに、本人は手は出していないと言ってますし」


彼の事は、普段は信頼しているが、今回ばかりはおいそれと信じることはできない。


「テイラーさん、彼の言うことが真実かどうか、確かめることはできますか?」


私の問いに、テイラーさんは、親指をグッと立て。


「アタシを誰だと思ってんだい、そんくらいチョチョイのチョイだよ」


頼もしく笑ってみせた。





十分後______



「どうでしたか?」


レストさんを引っ張ってきて、調べた後、また客止めに戻したテイラーさんと私は、先ほどまでと同じように向かい合っていた。


「嘘は…ついてないね。あの男は手を出してない」

「そうですか………よかった…」


安堵の溜息をつく。


「まあ、誤解されるようなことをしたんだ、あの男が悪いことには変わらないね」

「はい、それについては後できっちり話し合います」


彼には、今後そのようなことが無いように、しっかり注意せねば。


「ん。あんたらは相性はバッチリなんだ。あの男をどうにかして少しでも意識させれば、あんたの勝ちだ」

「ええ、頑張りますとも。でも、どうすれば………」


悩む私に、テイラーさんは口元を歪め、


「簡単さ。既成事実を作っちまえばいいんだよ」


物凄い提案をしてきた。


「な、なななななな何をぉ⁉︎」


既成事実って……、既成事実ってつまり、そそそそうゆうことを………。

想像してしまい、顔が熱くなる。


「なんだ、嬢ちゃんその年で初めてもまだなのかい。貴族の女なんて、みんな淫乱だと思ってたんだがねぇ」

「いい淫乱って、それは偏見ですよ!」

「冗談だよ。少しからかっただけだよ」


からかわれ、さらに顔が赤くなる。


「まあ、既成事実を作るってのも、一つの案だと思うよ。あんたら相性いいんだからね」

「えっ」


何気ない一言。だが、私は引っかかるものがあった。


「相性がいいって………まさか…」

「ああ、身体の相性のことだよ」


むにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


羞恥に耐えかね、両手で顔を覆い、机に突っ伏す。

ななな何ですか相性ってそういうことですかつまり私とレストさんがしたらそれはそれはもうああああああ!!!


「ヒッヒッヒッ、ウブだねえ、いいねえその反応。いいもん見してもらったよ」


何ですかこの人何で喜んでるですか。


「む、むぐぅ………」


やっと落ち着いてきた。……テイラーさんを楽しませているだけな気がする。


「まあ、好きにしなさいな。急ぐことはないよ。あの男の旅に着いて行けばいいじゃないか」

「!」


全てを見透かしたその言葉に、息が詰まりそうになる。

そう、レストさんは旅の途中。いつまでもあの部屋に住んでくれるわけじゃない。


「私だって……着いて行けるなら行きたいですよ。でも…」

「立場のことなら、あんたの存在は国民には知られてないんだろ?というか、何でなんだい?あんたの存在を隠しておく理由でもあるのかい?」


テイラーさんの問いに、どう答えるか戸惑う。だが、正直に話すことにした。


「……18年前、ミシュリナ姉様…ミシュリナ王女が狙われた事件はご存知ですか?」

「ああ、あの事件かい。よく覚えてるよ。当時は連日新聞の一面を独占してたからねぇ」


この国の王女であるミシュリナ姉様。当時4歳だった姉様は、王宮に侵入した魔王軍の暗殺者に命を狙われた。


ネメス曰く、兵士達が暗殺者を取り押さえたとき、ナイフの刃は姉様に残り数センチのでところまで迫っていたらしい。本当にギリギリだったそうだ。


4歳の姉様にとっては恐怖以外の何物でもない。姉様は部屋に籠り、公の場に姿を見せなくなった。


「私が生まれたのは、その翌年です」

「ああ………なるほどね」


テイラーさんは、全てを察したようだ。


「あんたも大変だねえ………。でも、分からないよ。それなら、あんたが旅に出ても、何の影響もないだろう?」


私もそう考えていた。先日、王都に帰ってくるまでは。


「はい、今まで通りならそうでした」

「今まで通りなら?」


「来週、建国記念日の祝典がありますよね」

「ああ」

「その祝典で、いざという時に自分の身を守れるほどに成長したということで、私の存在が公表されることになったんですよ」


そう、来週になれば、今までのように自由にはできなくなる。お父様のお手伝い程度でこなしてきた国事のお仕事も、うんと増える。

それに、姉様に代わって、将来王妃になる可能性もある。


「だから、私はレストさんの旅には着いて行けないのです。私の恋愛のために、国を振り回すわけにはいきませんからね」


だから、あと少しでお別れ。


「なるほどね……………だったら、尚更じゃないかい?」

「え?」


「だったら、既成事実を作っておいた方がいい。いや、今のうちに作っておかないと、取り返しのつかないことになるよ」


テイラーさんの言っていることの意味がわからない。頭に疑問符が浮かぶ。


「分からないかい?もし、あんたと同じように、誰かがあの男に恋をしたらどうする?」

「あっ」


そういうことか。それは……いけない。


「仮にアレがこの街に戻ったとして、女を連れている可能性は十分にある。もしかしたら、子供もいて、家もあって………二度と会えないかもしれないね」


ダメ。それはダメ。もしそんなことになったら……。


「もしそうなったら、あんた耐えられないだろう?」


私の心を見透かしたような一言。そう……きっと…耐えられない。


「でも、既成事実があれば、流石に穴男にも自覚が芽生えるだろうさ。後は、旅立った後に妊娠したとでも手紙を出せばいい」

「な、なるほど………でも、浮気とかは…」

「それは大丈夫だね。あの男は一度浮気なんかしないよ、アタシが保証する。それに、アレは淫魔なんかにやられるようなタマじゃないだろう?」

「ええ、彼は強いですから」


なるほど、既成事実か………。

最初はふざけているだけかと思っていたけど、意外と現実的な手段だ。


「さて、どうする?後はあんたの覚悟次第だよ?」


テイラーさんが測るように問うてくる。


「私は……」


私は……彼が好き。彼の全てが好きだ。出会ってから一週間ちょっとで、ここまで入れ込むのもおかしいかもしれない。


でも、彼にはそれくらい魅力がある。それに惹かれるのは、私だけじゃないはず。だから、ここで引いちゃいけない。


私は______


「私は、彼が欲しいです」


はっきりと口にする。

長い間会えなくても、一時でも彼が愛してくれれば、やっていけるだろう。仕事に疲れても、命を狙われても、自由がなくても。


するとテイラーさんは、私の答えを知っていたように、


「はいよ。じゃあ、あんたにいいものをやろう」


ニタリと笑みを浮かべた。




ーーーーー




「ねえ、オッサン、そこ邪魔なんですけどー」

「おいオッサン、世界一可愛い俺の彼女が言ってんだ。そこどかねえと、痛い目見るぜ?」


________遅い。


遅すぎるぞ。カフィと婆さんが店の奥に入ってから、早1時間。途中、一回出てきて占われたが、また篭ってしまった。


その間、こうして店の入り口に突っ立って客止めしてるわけだが………。


「あー、すいませんお客様、現在、店主が少々席を外しておりまして。申し訳ありませんが、またのお越しを……」

「はあ?意味分かんないんですけどー」


意味分かんねーのは俺の方だよ。


「ねえ、ケー君、もうこのオッサンやっちゃっていいっしょ」

「そうだなモミちゃん、ぶっ飛ばしちまうわ」

「きゃー、ケー君カッコいー!」


俺の目の前で、バカなやりとりをしている一組のカップル。お揃いの制服を着ている。この世界にも学校はあるのだろうか。


そして、すまんな少年に少女よ。お前らは悪くないんだ。あの婆さんが全部悪い。でもオッサンオッサン連呼すると痛い目見るぞ。


あっ、そうだ。


「あー、お客様、占いをご要望でしたら、僭越ながらこの私が占わせていただきます」


「「は?」」


「ではいきますよ!《インヴィ・グラス》」


俺の両目が白く光り、魔法陣があらわれる。そして、その魔法陣を通して、2人の性格や相性が浮かび上がる。




姓名:モブリア・ケーミー

性別:男

年齢:17歳

出身:トレン王国ドルラ

性格:短気、無神経

職業:学生

経験人数:2


体力:B

知力:E

速さ:D

強さ:C


魔力値:45/45

魔力純度:−68

魔力質:3


評価:D


補足:エセ不良



姓名:ルモブナ・モミー

姓名:女

年齢:17

出身:トレン王国クレトーン

性格:気分屋、口軽

職業:学生

経験人数:37


体力:D

知力:C

速さ:D

強さ:E


魔力値:60/60

魔力純度:−90

魔力質:4


評価:D


補足:ビッチ





総合:D

身体相性:E





…………おい。なんだこれ。なんだこの魔法。何が占いだよ。個人情報満載じゃねーか。あのババア、俺の感心を返せ。


てか経験人数37って。ヤバいな。ビッチって怖い。

そして身体相性E。ドンマイ。


……………あれ。これって、俺とカフィもこれで測ったってこと?じゃあ、俺とカフィの相性がいい云々ってのは…………。


…………………。

俺がなんとも言えない気分になっているとカップルの男の方、強さCランクのケーミー君が、


「おい、テメェいい加減にしろよ、何が占いだ眩しかっただけじゃねーか!覚悟しろ!」

「いけー!ケー君やっちゃえー!」


よくもまあこんな人通りの多い街中で真っ昼間から喧嘩をふっかけられるもんだ。性格のところに短気ってあるが、度胸ありに変えた方がいいのでは。


「くらえ!」


叫びながら男が右腕を振りかぶり、殴ってくる。そして、男の拳が俺の顔面に当たって…………


動かない。

そりゃそうだ。痛くも痒くもねえ。


「???」

「ねえ、ケー君?どうしたの?」


さぞかし不思議だろう。俺が全く反応しないんだから。壁を殴っているような感覚だろうな。


「あー、お客様、大変申し上げにくいのですが………」


俺は言いながら、右手を経験人数2人のエセ不良の額へ。


「っ!!」


慌てて速さDの短気な学生が離れようとするが、遅い。


「ばちん」


俺は言うと同時、男の額にデコピンを放った。ただのデコピンだが、神のデコピンだ。思い切り手加減しても、人くらいなら殺せる威力がある。


男が後ろに倒れる。


「お二人の相性はE。最悪です。新しい相手をお探しになるのが良いかと」


俺が言い合えると、男は地面に倒れ、白目を剥いていた。殺してはいない、気絶させただけだ。


「き………きゃぁぁぁぁぁぁ!」


悲鳴を上げながら、ビッチの彼女は彼氏を置いて逃げて行った。俺はその背中に向かって、


「またのご来店を、心よりお待ちしております!」


と、深く礼をして見送った。


初めてにもかかわらず完璧な接客をした俺は、この業界でやっていけると思う。


………あいつらそろそろ出てきてくんないかな…。


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