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勇者の代わりは剣神様  作者: 冬空孫久
14/20

海上、恋心


カフィが浴室に入って数秒後、俺は部屋を飛び出した。理由は簡単。部屋にいられなくなったらだ。


現在位置は海上。只今絶賛戦闘中である。

相手は海竜。この辺りの海をナワバリにしているらしい、大型モンスターだ。ランクは〈上ボス〉級。先日のトロルオークよりワンランク上。


「…ったく、ちょーとナワバリに入っただけだってのに」


俺が現れて直ぐに、怒り、襲って来やがった。


「ゴァァァァァァァァ!!」


水中の海竜が、巨体を捻り、4本の尾を槍のように突き上げて攻撃してくる。


「ほっ」


海面を蹴り、回避。そのまま海上を駆ける。俺の脚力なら水の上を走ることなど容易い。浮遊の魔法を使えば、空も飛べるがな。

海竜は何度も海中から尾を突き上げてくるが、全て回避。まだ影斬は抜かない。〈上ボス〉がどれくらいの強さなのか知っておきたいからな。


「キシャアァァァァァ!!」


突き上げ攻撃が当たらないと判断したのか、海竜は海面から顔を出し、鋭い牙で襲いかかってきた。が、これも躱し、海竜の顔面を踏みつけ、跳躍。月光を背に浴び、海面に着地。


顔を踏みつけられ、いよいよ本気で怒った海竜は本気の攻撃に入る。これを待っていたのだ。


「キュアアァァァァァァァァ!!」


口から、水を纏ったビームの如きブレスを放ってくる。物凄い速度だ。衝撃で周りの海水が吹き飛んでいる。


「おお……すげえな」


素直な感想を述べながら、ブレスを横に回避する。直後、真横をブレスが通り過ぎる。


「おおおっ」


俺の横で、海が裂けた。あのブレス、威力も相当あるっぽいな。なるほど、上ボス級ね……


「確かに強いなあ……でも、うん、まあこんなもんか」


俺がそう呟くと同時に、海竜は体内に海水を取り込む為に海中に姿を消す。

どうやら、あのブレスを放つには、かなりの水を要するようだ。


俺は海面を左右に蹴りながら待機。海竜を観察する。


月光が海面に反射し、さらに海竜自身の鱗も透明度が高いので、海中の様子は窺えない。が、


『神眼』


普通の眼とは違い、あらゆる物を見透す事のできる神眼なら、海竜が海水を取り込んでいるさままではっきり見える。


海竜はそれぞれの尾の先端の小さな穴から海水を取り込んでいる。4つあるとはいえ、その巨体と比較すると余りにも穴が小さいので、時間がかかるのか。



数十秒後、再び海竜が海上に姿を現した。すぐさま此方にブレスを放ってくる。


「1回見たし、それはもう当たんねーよ。まあ、どんな技でも当たらんけどな」


そろそろカフィも風呂から上がる頃だろうか。いや、女子の風呂は長いと聞いた事があるぞ。もう少し待つか?


どちらにしろ、こいつの相手はもう飽きた。上ボスの強さもしれたし、用はない。

鞘に収めている影斬に手を伸ばす。



ブレスが直撃する瞬間、海竜の視界から標的が消えた。今まで、どんな相手でも一撃で仕留めてきた自慢のブレスが、同じ相手に2度も空を切っている。


「じゃあな」


突如、後ろから聞こえたその声に、海竜は戦慄を覚えた。しかし、何故か振り向く事ができない。体が全く動かないのだ。少しして、凄まじい喪失感に襲われる。首から下の感覚がない事に気づく。


だが、気づいた時にはもう遅い。首を横一文字に斬られた海竜は、断末魔を上げる事すら許されず崩れ落ち、深く暗い海に沈んで行った。

その後ろでは、先ほどの声の主が、ゆっくりと刀を鞘に収めていた。







「まあ、こんなもんか」


上ボス級_______熟練の冒険者が、100人がかりで挑む程の相手を一刀のもとに斬り捨てた『剣神』は、夜の静かな海の上で呟いた。


まさか、慌てて瞬間移動した先が海上で、モンスターがいるとはな。食後の腹ごなし程度にはなっただろうか。


「にしても、綺麗な鱗だったな」


透き通るような青い鱗に覆われた海竜は、月光を受けて輝いていた。血に染まったけど。


「……カフィが喜ぶかもな」


ふと、脳裏に浮かんだのは1人の少女。彼女は今、王宮の客室の一室で、入浴中のはずだ。


つい先ほど知った事だが、彼女には想い人がいるそうだ。それが誰かは分からないが、相当な鈍感野郎とのこと。自分の気持ちに気づいてもらえず、気を落としてしまっている彼女を元気づける為に、海竜の鱗を持って帰ろう。


そう決めた俺は海面に手をかざす。


「《反重力》」


唱えると、海面に『魔法陣』が展開される。そういや、この世界では初めて見たな。


魔法陣は、魔法を発動する際には必ず展開される。しかし、それが目に見える場所とは限らない。

例えば、俺の『瞬間移動』や『操作』なんかは、自分や物に発動する魔法なので、体内や対象物の内側に魔法陣が現れる。よって、外からは見えないのである。


今回の『反重力』は、離れている対象に発動するので、魔法陣が海面に現れたのだ。攻撃魔法も、ほとんどは魔法陣が空中や地面に展開される。

俺なら模様から魔法を特定できるので、相手が魔術師でも問題はない。

魔法陣を展開させずに魔法が発動できるのはただ一人、魔神だけだ。


程なくして、先ほど沈んだ海竜の死骸が浮かび上がってきた。血のついていない鱗を何枚か剥ぎ取り、魔法を解除。魔法陣が消え、海竜は再び沈んで行った。


「よし、帰るか」


俺は、瞬間移動で部屋に戻った。



ーーーーー


時は遡り、剣神レストが、海上で海竜と戦っていた頃。


入浴を終え、浴室から出たカフェミスリア・ネレスト・ヘルドは、驚愕した。そこで待っているはずの人物が見当たらないからだ。



レ、レストさん?


焦り、服を着るのも忘れて部屋中を探し回ったが、彼は何処にもいなかった。


単に部屋から出ただけでは?そう思い、寝巻き姿で部屋を飛び出した。


時刻は午後9時過ぎ。時計の針がそう語る。光魔法を利用したランプが照らす長い廊下を駆ける。

すれ違う人全てに彼の行方を訪ねるが、誰もが見ていないと言う。


自分の部屋の前を素通りし、東棟二階最奥、公爵の私室に到着。呼吸を整え、扉をノックする。


「誰だ?」


扉の向こうから、お父様の声。


「カフェミスリアでございます、お父様」

「おお、カフィか。入ってくれ」


扉を開け、中に入る。

椅子に腰掛けていたお父様は、私を見るなり、心配そうに尋ねてくる。


「ど、どうしたのだ、カフィ?そんなに不安げな顔をして」

「レストさんがいらっしゃらないのです!」

「何、勇者殿が⁉︎」


昼間に決闘までして断られたというのに、まだレストさんを勇者にするのを諦めていないらしい。だが、今はそんな事はどうでもいい。


「ええ、先ほどまでお部屋におられたのですが……私の入浴中に………」

「そうか……急ぎ兄上にもお知らせして、彼を探そう。王宮内の人間をフル動員させる」

「はい!」


レストさん……一体何処へ行ってしまわれたのです………?


不安は募るばかりだ。だが、今は王宮内にいると信じて探すしかない。









少し巻き戻り、剣神レストが海竜を倒し、鱗を持ち帰ろうとしている頃。




「何処にもいません」


100人以上で、王宮内を隅々まで探し回った。が、彼は見つからない。


「これ程探し回っても発見できないとは………彼はもう王宮にはいないのでは?」


誰かが言った。私はその場にへたり込んだ。


「そんな……」


深い絶望感。彼はもういない。いなくなってしまった。そして、彼が自ら姿を消したのなら……………恐らくもう会うことはできない。


私の知っているレストさんは、黙って姿を消すような人ではない。

彼は2度も私を命の危機から救ってくれたのだ。私だけではない、お父様も救ってくれた。


とても強くて、明るくて、優しくて…………

幼い頃に読んだ本のどんな勇者より、英雄より、格好良かった。




そんな彼に、生まれて初めての恋をした。




初めて会った時から、救ってくれた時から、好きになった。目で追うようになった。もっと知りたいと思った。知れば知るほど、惹かれていった。


彼は鈍感だから、ちゃんと伝えないと気づいてくれないだろう。でも、可愛いと言ってくれた。その一言が、何よりも嬉しかった。約束も、ちゃんと()()()()()くれた。もっと好きになった。




いつの間にか目に溜まっていた大粒の涙がぽろぽろと溢れ落ちる。悲しい。涙は次々と溢れ出てくる。


私と彼は出会ってからまだ日が浅い。彼について知らない事の方がまだまだ多いだろうし、彼は私なんて眼中にないのかもしれない。


……それでも、一緒にいたい。これから、もっともっと色んなことをして、色んな所に行って、幸せを、喜びを、感動を、分かち合いたい。傍に居たい。願わくば、最期まで。



「…だから……ぐすっ…いなくならないでくださいよう………レストさん…」



「あ?誰がいなくなるって?」


突然後ろから聞こえた声。聞き間違えるはずがない。1番会いたかった人の、1番聞きたかった声。


「…レストさぁん」


振り向くと、そこには、私の大好きな人が立っていた。


「おう、なんだ?」

「……ふぐっ…良かったぁ…ひぐっ」


あれ、おかしいな。こんなにも嬉しいのに、涙が止まらない。


「お、おい、何で泣いてんだ?」


レストさんは、ハンカチで涙を拭ってくれた。やっぱり優しい。でも、余計に涙が出てくる。


「あ、そうだそうだ」


と、彼は、思い出したように言う。どうしたのだろう。まさか、さよならとかじゃ……


彼は、ポーチに手を入れ……取り出したのは、青く透き通った綺麗な鱗。


「これ、お前に取ってきたんだよ。海竜の鱗。ほら、綺麗だろ?多分。お前が綺麗じゃないってんなら他の取ってくるけどよ。まあ、あれだ。俺には恋愛は分からんが、元気出してがんばれよ。お前ならいけると思うぜ」


慌てて私を慰めようとしてくれた彼は、そう言って、3枚の鱗を私の手の平に置いた。


その瞬間、胸の奥から涙がこみ上げてきた。私は彼に泣きついた。嬉しかったのに、泣いた。泣き続けた。泣き疲れて、眠りにつくまで。目を閉じる直前、レストさんが私を抱き抱えてくれたような気がしだが……その後のことは、分からない。




2017年12月28日、第1話を修正しました。余りにも文章が下手だったので。今でも下手なのは変わりませんが、前のよりは良くなったかなと思います。

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