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勇者の代わりは剣神様  作者: 冬空孫久
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勇者敗北、勇者代役


突然だが、俺は勇者だ。それも唯の勇者じゃない。日本から転生した、転生勇者だ。で、今、世界を救おうとしている。

手には神器の剣を持ち、横には頼れる仲間たち。

そして相対するは________魔王。

世界を闇に陥れようとしている奴を、野放しにしてはおけない。

俺は、いや、俺たちは、絶対に勝つ!



俺はある日突然、交通事故に巻き込まれて命を落とした。

そこから先はもうテンプレ展開。変な場所で神と名乗る男に会い、神器の剣を授けられ、目覚めたら剣と魔法の世界。当然のように魔法も使えたし、言葉も通じた。もちろん前世の記憶持ち。


神から俺に与えられた使命は、魔王の討伐。

で、仲間を集めて、数多の敵を倒して、ここまで来た。この世界は、俺たちが守る!


「やあぁぁぁぁ!!」


俺は、剣を降り下ろした。


ーーーーー



白く、大きな神殿。その長い長い廊下を、奥の部屋に向かって、一羽の鳩が飛んで行く。


「最高神様~!最高神様~! 大変です!剣神のやつが第41世界から送り込んだ勇者が、第136世界で魔王にやられました!」


大きな部屋に入った鳩は言葉を発し、告げる。目の前に聳える階段の上に立ち、虚空を見つめる老人に。

否、老人が見つめているのは虚空ではない。『下界』である。彼は神。その中でも最高位に君臨する『世界神』である。



「なんだと!?神器を持った勇者が魔王に敗けることなど、あるものか!今すぐ『剣神』をここに呼んでこい!」


世界神は驚きの声を上げ、鳩に命ずる。事の元凶である神を呼び出せと。


「はい!」



ーーーーー


時を同じくして、神の神殿のとある一室。1人の青年がベッドに寝転がっている。




あ~、なんというか……あれだな、暇だ。

神ってのは退屈だ。特に俺みたいな専神は、自分の専門外のことはなんもできんからな。転生してきたりした勇者とかに剣授けても、自分で戦うわけじゃないし。

………たまには下界でも覗いてみるか。



彼は虚空に指で円を描く。すると、円の内側が、紫色に光りだした。



どの世界を覗こっかな〜。あっ、そういやこの前、転生勇者送ったな。転生先は136番目の世界だったはず。


「さ~て、あの前の勇者はそろそろ魔王倒したこ…



バンッ!


突然、勢いよく部屋のドアが開く。

そして、ガリ勉丸メガネ、もとい賢神が入ってきた。相変わらず分厚い本を手にしている。それには付箋がびっしり。あれ、ページめくれないだろってレベル。そんな活字中毒者が俺にいったい何の用だ。


「なんだ?メガネ」

「メガッ……まあいい、剣神!最高神様がお呼びだ!」

「うぇっ⁉︎」



なんか面倒な予感……


あのじいさんに呼び出されていいことなんてあるわけがない。少なくとも、今まではなかった。何十億年か前に生み出されてから一度もな。


首がたくさんある蛇退治とか、地面に聖剣ぶっ刺して来いとか、必ずと言っていい程下界に行かされる。大変面倒だ。



てか、あのじいさん、どんくらい生きてんだろうか。一応8代目最高神らしいけど、基本的に神に寿命は無いので、初代から先代までの最高神たちもしっかり生きてる。ある程度最高神として務めたら、隠居して自由に暮らすんだと。


まあ天界(ここ)にはなんもねーから、暇をもて余して下界(した)に遊びいったりしてるらしい。そこで英雄になったり、勇者と呼ばれたりもしてるんだそうだ。


そりゃあ神だもんな。その位当たり前か。『天界規定』ってので神は下界には干渉できないはずなんだが、初代最高神様が定めた規定なんだから、きっと自分に都合のいいようにルール変えてんだろう。




 と、そんなことを考えてるうちに着きました、最高神の間。やっぱり面倒な予感しかしない。絶対怒ってんだろ。


俺は、大きな扉を開け、中に入る。


「何の用だ、最高神様~?」

「遅い!!!」


案の定、じいさんは怒っていた。


「剣神!!貴様が神器を与えた勇者が魔王に敗けた!どうしてくれる!」


なるほど、ついにボケたか。世界神交代の日は近いな。


「ハッハッハッハ、この俺が自らの手で創り上げ、授けた神器だぞ?敗ける訳が無いだろう。魔王ごとき、サクッとぶった斬って終わりだ。サクッと」

「これを見てみい」


そう言って、クソジ…偉大なる世界神様が腕を振ると、空中に映像が映し出された。


映っているのは、俺がこの前送りこんだ転生勇者と仲間達。そして魔王だった。


『やあぁぁぁぁ!!』


勇者が魔王に向かって行く。剣を振り上げ、跳躍。魔王目掛けて振り下ろした。

対する魔王は、魔法障壁を展開。防御をとる。

次の瞬間、振り下ろされた勇者の剣が、バキン、と音を立てて折れた。


「んなっ_____」


剣神は驚きを隠せなかった。自分が創った神器の剣が、絶対に折れる事の無い剣が折れたのだから。


そこで映像は途絶えた。


「どうじゃ、この後の展開は容易に想像できるじゃろう」


「…えっ?これマジ?でも俺ちゃんと神器渡したはず………あ」


そこで、剣神は気がついた。先ほどの映像の勇者の剣に、剣神の『神力』が込められていなかった事に。あの剣が失敗作であることに。


「どうした!?」


恐る恐る告げる。


「いや~その~……間違えて失敗作渡しちゃってたみたいで……」

「アホかあああああぁぁぁぁぁ!!!!」


世界神の怒声が、神界中に響き渡った。


「バカ者!!!何をしている!本来ならあの世界は救われるはずだったのに!」

「あ、あはは……神にも失敗はあるって事で……」

「済むか!こうなったら、やむをえん!剣神、貴様が自ら第136世界に赴き、魔王を倒してこい!魔王を倒すのは勇者でなければいかんので、仲間と共にな!これは最高神命令だ!!」


やはり俺の予感はあたっていたようだ。下界に降りて魔王退治……ならまだ楽だったが、旅をして仲間と共に……となると、その面倒くささは俺にも未知の領域にある。


「えっと、他の神引き連れてっちゃダメ?」

「ダメ」


つまり、下界で仲間を集めろと。…………無理だろ。


神器を創るのだって簡単なことじゃないのだ。何回も失敗して、ようやく1つ創れるんだ。俺達の苦労も考えて欲しいもんだ。神は忙しいんだぞ、全く。


今回勇者に渡してしまった失敗作には、魔王に対して絶大な効果を発揮する、『対魔王スキル』の付与をわすれてしまった。つまりあれだ。俺のせいだ。大変申し訳ございませんでした。


だが!それでも!俺は行きたくない!なんとか言い逃れでしないだろうか。


「で、でも、規定で俺ら神は下界の奴らには干渉できないぜ」

「もちろん、人化していくのだ!」

「うわ~でたよ~ヤダよ~めんどいよ~。てか俺、専神だから剣を振るったり授けたり以外なんもできないぜ!?もっと適役がいるんじゃねーか?ほら、そこの賢神とかさ」

「自分の失態を他神に押し付けるでない!いいからさっさといけ!」

「ちっ、へいへい。いきますよ、いけばいいんでしょ」


言い逃れ失敗。うわー、どうしよう。めちゃくちゃだるそう。

てか、こういう事があると、必ずといっていいほどあいつが……


「ぎゃーはっはっはっは!!剣神お前、下界した降りんのか!?しかも人化して!?ひー、ひー、腹痛ぇ!こりゃ面白くなりそうだ、ちょくちょく覗かせてもらうぜぇ!」

「ちっ」

「…………」


ほらーやっぱり来た。煩わしい奴が。面倒なんだよこいつ。


「うっせーよ!てめぇ魔神、400年前の魔王と勇者どっちが勝つかで賭けて負けたこと、まだ根にもってんのかよ!」

「…………」


因みに言っておくと、魔神と魔王は全くの別物である。何の関係もない。こいつは魔王なんかよりはるかにウザい。


「まだってお前、ほんのちょっと前のことじゃねーか!それよりも帰ってきたらもう1勝負しようぜ!今度は第89世界の勇者と魔王な!まぁ帰ってこれたらの話だがな人間君!ぎゃっはっはっ!」

「……てめぇ帰ってきたら覚えとけよ…!」

「…………プチン!」


と、ここで、俺たちのやり取りに痺れを切らしたじいさんが、


「うるさいわ!さっさと行けや!あーもうじれったい!『転移 第136世界』ほら、行ってこい!」

「ちゃんと冒険して来いよー!」


うわーマジで行くのかこれ。ああ、何て面倒な。


次の瞬間、俺は白い光に包まれ、その場から消えた。


-----


こうして俺は、は剣と魔法の第136世界に降り立った。魔王退治という面倒事をまかされて。めんどい。帰りたい。


第1話、読んでいただきありがとうございます。

気になる点等ございましたら、感想欄にてご指摘ください。

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