92話「修行の最終日と近接魔法戦闘と」
鍛錬が始まって、既に6日が経った。
見ている者たちの興奮は最高潮に達し、日に日に足を運ぶ人数が増えていく。
そして、宵が深くなり日を跨ぐ。
最終日の7日目。
闘技場の観客席はかなりの人数で埋もれ、座れない者は通路に立っていた。
溢れ返る観客の中、ニケとミーチェが中央に姿を現す。
響き渡る歓声。
湧き上がる熱気。
呆れながら周りを見渡すミーチェ。
「よくもまぁ、こんなに集まったものだ」
「見てて楽しいのかな?」
「楽しいのだろう。私たちには関係ないことだがな」
そして見合う。
いつもならすぐにでも始まるのだが、今日はなかなか始まらずに互いに向かい合っている。
そして、見ている者たちは疑問に思いながらも期待の眼差しを向ける。
だが、始まらず。
暫くして、ニケが駆け出した。
ミーチェは瞬時に大鎌を呼び寄せた。
いつものことながらニケの駆ける足は速く、目で追える者は少ない。
気がつけばミーチェに肉薄し、華麗な回避劇を繰り返しながら興奮するたたかいを見せてくれる。
しかし、今日は違った。
「綴ろう!
″我、稲妻、雷と共にある者。
汝の力を我の物とし。
我を稲妻と化し、共に駆けよ″
ライトニングステップ!」
呪文に魔力が帯び、魔方陣が展開される。
その一瞬の詠唱に、見ている者たちから感嘆が溢れ始める。
「お、おい。あいつ魔法を使ってるぞ」
「あれじゃね? 今噂の黒髪の綴り手ってやつ」
「男で魔法が使えるのか、こりゃぁ楽しみだわ!」
それぞれが感嘆し、そして興味を示す。
「魔法だって成長したんだからなッ!」
ニケの掛け声と共に魔法が発動し、稲妻と化し会場を駆ける。
一筋の稲妻となったニケ。
刹那、肉薄したニケがミーチェの腹部目掛け拳を振り上げた。
ミーチェの身体が文字通りくの字に折れ曲がる。その光景を見るだけでも、ニケの振るう拳の威力が高いことは一目瞭然である。
反応の遅れたミーチェは、そのまま体勢を立て直そうとし、怒りに肩を震わせながらニケを睨みつけた。
だが、既にニケの姿はなく、気がつけば真後ろを取られ、繰り出された回し蹴りを背中に受ける。
「っぐ……ッ!」
「流石にやりすぎ……?」
前のめりに地を舐めるミーチェ。
唖然としながらも、ニケはすぐさま詠唱を始めた。
「綴ろう!
″我、稲妻を司る物。
撃ち抜け、汝が誇る稲妻で!″」
文字に魔力が帯び始める頃、ミーチェは体勢を整え、ニケ目掛けて大鎌を振るい始めた。
ニケは驚きながらも、流し、跳び、距離を置く。
「ライトニング!」
その言葉に、魔方陣が背後に展開される。
展開される魔法陣を睨みながら、ミーチェは駆け出す。
振り下ろされる大鎌。
それらを流し、放たれる稲妻で牽制するニケ。
魔法を組み込んだ近接戦。見ている者たちは唖然とし、ただ眺めていることしかできなかった。
本来の魔法使いのたたかいかたとは、180度違う戦闘が目の前で起きているからである。
繰り出される稲妻。
払われる大鎌。
弾かれた稲妻が、壁に当たり大きな音を立てて消失する。
同時に、刃を押さえ込んだニケが、力任せにミーチェを投げる。
「魔法があるだけでこれほどまでに……」
「ニケさんのたたかい方は、もともと魔法があってこそですからね」
下で繰り広げられている戦闘を、アシュリーと王は椅子に座りながら眺めていた。
王は興味津々の様子で、時々席を立ち上がりながら感嘆してすらいた。
「そういえばお主。ニケと共に旅をしてきたのであろう?
あやつが魔物とたたかうと、どんな感じなのだ?」
「そうですね……ひとり先に突っ込んでたたかってる感じですね」
ミーチェは少し笑いながら話していた。
それを見るや、王は満足した様子で席に座る。
「そうかそうか。いつもあんな感じであったのか」
「はい」
「ん? 決着がついたようじゃな」
王が見る先に、腕を押さえながら大鎌で身体を支えるミーチェの姿があった。
どうやらニケが魔法を使えば、魔法を使わないミーチェに勝てるようだ。
「はぁ……はぁ、魔法があると桁違いだなお主は」
「へへ、俺だってやるときはやる男なのさ!」
「私が魔法を使ってないからだろう?」
「うっ……それは否定しない」
「今日はこれくらいにするか、私はもう身体中痛い……」
ミーチェが終わると言うと、会場から歓声と拍手の嵐が降り注ぐのだった。
書き方が定まらず、かけない日々が続きました。
開き直って書くことにしましたが、昔の書き方とここ最近の書き方が混ざった集大成に近いものとなったので、これはこれで自分なりにかけたと思ってます。
これからは今の書き方で行こうと思いますが、ちょっとずつ変わってくると思われます。
では、次回もお楽しみに!




