91話「夜食と散歩と鍛錬と」
晩御飯を食べ終え、そして皆が眠りについた時間。
扉を開け、周りを見渡す。
月明かりのみが照らす廊下。
「……だれもいないね」
皆が寝ていることを確認してから、彼は廊下へと足を踏み出す。
目指すは台所。
小腹が空いたこともあり昨晩と同じ、台所にて夜食を食べようとしているのだ。廊下を歩く際に、足音が立たないように気をつけながら、一歩、また一歩と歩みを進める。
そして、階段を降りようとしたとき、暗がりに見覚えのある人影を見つけた。
「お主か、心臓が止まるかと思ったぞ」
「それはこっちのせりふだよ」
「夜食か?」
「うん、王様も……だよね」
目線の先には、お腹が鳴るのを隠そうとする王。
互いに頭を掻き、歩き出す。
目指すは台所。
彼等の憩いの場である。
そこそこの広さの部屋に、かまど、洗い場、そして食材庫がある。その中央には、出来た料理を置くであろう大きな机が置かれている。
ニケは部屋の端にある椅子を二つ持ってくと、王がその間にパンとハムを持ち出してきていた。
机の上に食材を並べ、ハムを切り、挟む。
そして、互いに持ち上げ食欲に身を任せ食べ始める。
ニケにとってこの時間がここ最近の楽しみでもあった。
親身になって相手をしてくれる王から漂う、父親の愛情にも似た優しさ。
父親の記憶を失ったニケでも、その優しさはありがたいものだった。
暫くの間、パンに夢中になっていた両者。
食べ終え、手を合わせる。
そして、見合い、笑い合う。
「お主も小腹を空かせるとはな」
「俺だってお腹空くもん」
「晩の飯は少なかったのか?」
「いや、あれはあれで満足したけど、これはこれだよ?」
「そうかそうか。わしは外を歩くが、お主はどうするのだ?」
「あー、俺も散歩しよっかな」
恥ずかしそうに笑い、そして席を立つ。
共に外にでて、共に歩く。
星空に雲が架かり始め、あまり外は明るくなかった。
2人は一緒に歩き、そのまま城の中央の噴水にまで来ていた。
噴水の端に座り込む。そして、一息つく。
「今日の闘い見事であったぞ。わしもつい見入ってしまった」
「そうなの?」
「うむ。あの大鎌を流す技術、それによくは見えなかったが反撃するときの拳の早さ。
どれを見てもお主の戦闘能力の高さが凄いとわかる」
「そんな褒めても何もでてこないよ」
「はっははは。本来はあそこに魔法が加わるのだろう?」
「それはもうちょっとしてからだってさ」
「ふむ、まぁ明日も頑張るが良い」
その後、ニケと王は今日の鍛錬の話しで盛り上がり、暫くしてから屋敷へと戻ったのであった。
枕元のもふもふが気になり、ニケは目を覚ました。
毛に埋もれる視界。
まだ見慣れぬ天井。
そして、怒りに肩を震わせるアシュリー。
「なんでまたミーチェさんとシロさんと寝てるんですか!」
朝一番の怒鳴り声。
その声に耳を動かすシロ。
今だに、夢の中にいるミーチェ。
ニケは身体を起こし、眠そうにあくびをした。
「いや、俺にもわからん。故になにも言えん!」
「開き直らないでください!」
とりあえずシロとミーチェを放置して部屋を出る二人。
台所を通り過ぎ、食卓の並ぶ部屋へ。
王はまだ起きていないのだろうか、誰もいない部屋に料理が並んでいるだけであった。
別に待っていなくてもいいっと、アシュリーは言い残してどこかへ言ってしまった。
椅子に座り、料理に手を出す。
やわらかめのパンにコンソメスープといったシンプルな朝食だ。
王宮で振舞われる料理はどれもがニケの胃を虜にする。
濃い味付けのコンソメスープはここ一番のものであった。
満足した顔をしながら、ミーチェの起床を待っていたニケは、いつの間にか寝てしまっていた。
起きた頃には、食器などが片付けられており、シロが足元で寝ていた。
「やべ、寝ちゃってた」
ミーチェはどこにいるのだろうか、シロが足元にいるということは起床したことは間違いない。
シロは枕にされるとしばらく寝ていることが多いので、移動していることが何よりの証拠ともいえよう。
「やっと起きたか。早く闘技場に行くぞ」
部屋の入り口から、ミーチェが呆れた顔をして話かけてきた。
ニケは返事をすると立ち上がり、シロを指輪に戻す。
そして、屋敷を出て闘技場へと向かう。
途中、兵士達とすれ違う。
皆、目が合うと会釈する。
「なんで、俺挨拶されるの」
「昨日の鍛錬でも見ていたのだろう。それなりに認められたということだ」
「なるほどね」
暫くして闘技場に付く。
催し物などないのにも関わらず人だかりが出来ている。
どうやら非番の兵士達が見物にでも来たのだろう。
その中には、いかにもお嬢様と言えようドレスを着ているものや、高そうな身のこなしをしている者。
そして、なぜか王とアシュリーまでもがいた。
「おぉ、やっときたか。今日も楽しませてくれるのだろう?」
「王、私たちは遊びでやっているわけではないのだぞ」
「わかっておる、まぁ頑張るのだぞ!」
「ありがとうございます、王様」
挨拶を終え、中へ。
観客達が席に座り、互いに盛り上がりながら話をする。そして、ニケとミーチェが中央へと現れる。
それだけで客席に緊張が走る。
アシュリーはひとり、中央に見える両者を心配そうに眺めていた。
ミーチェが大鎌を出し、ニケも構え始める。
そして、無言のまま鍛錬が始まった。
刹那、大鎌が消える。
それだけミーチェの振るう力が凄いものだとわかる。だが、それすらもかわすニケの知覚能力もかなりのものであると言える。
立て続けに2度、3度消える大鎌をまるで落ち葉を避けるかのように見切るニケ。
華麗なるニケの回避劇。それは観客達に鳥肌を立たせるほどの興奮を与えるものであり、一斉に歓声をあげさせた。
中には名前を叫ぶ者までも現れ始めた。
距離を置き、互いに見合う。
先に動いたのはニケだった。一歩踏み出したかと思えば、既に肉薄していた。
繰り出される拳のひとつひとつが力強く、そして踏ん張る足からわかるその一撃の重さ。腰の入った拳ほど、ダメージの大きいものはない。
だが、大鎌の柄によって直接的な攻撃には至らない。ましてや、その間に繰り出される攻撃に、一歩たちとも退かぬニケの立ち振る舞いは、まるで猛闘志とでも言おう。
退かぬ当たらずの攻防、見ている者たちにまで手汗を滲ませるようなたたかいだ。
「昨日と違って、今日はハードだね!」
「これくらいでないと楽しくなかろうに」
「ははは、それは言えてるや」
楽しそうに話しているが、手は休まず、止まらず。
俊敏に流し、よけるニケに対して隙のない連撃を繰り出すミーチェ。
鍛錬と呼ぶには程遠い、卓越した戦闘。
歓声と熱気の溢れ返る中、彼らの鍛錬は続くのであった。
文章力が欲しい……。
では、次回もお楽しみに!




