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夢にまで見たあの世界へ   作者: ゆめびと
第1章~王都編~
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90話「つまらない王政と闘志に燃える闘技場と」


 日が真上に差し掛かる時。

 ニケとミーチェは兵舎の傍にある闘技場にきていた。

 もともとは貴族たちが競い合う場として賑わっていたが、近年はそういう催し物がなく、兵士達の訓練などで使われるようになっている。

 

 360度を覆う観客席。

 中央に設けられた広々とした戦場。

 足元は砂で覆われ、観客席までの壁の高さは5mと高い。


 そんな闘技場で、ふたりは向き合っていた。


「王から許可を貰った。今日から入学試験までの一週間、ここを鍛錬に使っても良いとのことだ」

「王様も景気いいな。これだけ広いなら暴れても大丈夫そうだ」

「最初は魔法の使用は禁止だからな?」

「まじかよ。俺楽しみにしてたのに!」

「基礎が出来てなくて実践なんてできるものか」


 言い終えると同時に、ミーチェは詠唱を始める。


「“漆黒の闇に命ず。

汝、我との契約の元。その姿を見せたまえ”!

我が元に来たれ! ギルティーサイス!」


 魔方陣が展開されると同時に、その手には2mの大鎌が握られていた。

 いつもながらの大きさに、ニケは唾を飲んだ。

 

 素手と大鎌。

 

 簡単に推測すれば、大鎌の方が有利である。

 しかし、ニケに対してその大鎌が猛威を振るうかっと、聞かれたらなんとも言えない。

 

 両者が見合い。

 無言のまま肉薄した!




 城の中はなにやら騒がしかった。

 行きかう兵士達が、口先に“闘技場へ行くぞ”と言っているからだ。

 正直なところ、今すぐにでもこの会議を放り投げて見に行きたい気持ちを抱く王。


「最後に、これが今月の税の合計です」

 

 紙を渡すや、別のテーブルに座る側近達にも配り始める男。

 渡された紙を見ると、そこには毎月より大幅に少ない税が記されていた。

 それを見るや側近達の顔に不安の表情が浮かぶ。

 当然の事ながら、国を動かしたりするのにお金は必須。

 外壁の補強や、兵の食用事情、他にも街の治安強化やいろんなことに使われる。

 

 背伸びをし、再び見る。

 そして揺るがぬ現実。


「さて、どうしたものか。

今月に入ってから何が起きたのかわかっている者はおるか?」


 王の呼びかけに、側近達は顔を逸らす。

 誰しもが知っていることだろうっと、王は「愚問だったな」とだけこぼした。

 つもるところ、協会が王都に攻めてくるとでも噂になったのだろう。


「民が避難を始めているわけか……」


 その言葉に、側近達の目線が集まる。

 王はどうするのかっと、その目は語っていた。

 

「考えていても仕方がない、魔女達の到着を待つのだ。

これにて会議は終了とする」


 王が終止符を打つと、側近達は立ち上がり一礼をする。

 そのまま王は席を立ち、闘技場へと向かうのだった。


 闘技場に入り、驚く。

 兵の多さ、熱気、歓声。

 

 その全てが降り注ぐ先に彼等はいた。

 

 見惚れるような回避。

 大鎌を流し、打ち返す拳。


 ニケの戦い方が、兵士達を刺激したようだ。

 大鎌相手に、素手で挑む少年。

 見るものを惹きつけ、釘付けにする。

 通りかかった貴族でさえ目を奪われていた。

 王は頷くと、闘技場にある自分の席へと歩き始めた。




「「「おおおおおおおッッッ!!!」」」


 響き渡る歓声。

 歓声など聞く暇もない。

 大鎌を流し、避ける!


 その動作の中で、隙を見つけては殴りかかる。

 だが、殴りかかるときの動作が大きいため、ミーチェにすぐさまかわされる。


「師匠ッ! よけないでよねッ!!」


 大鎌を流す。

 その隙に蹴りを入れる!


「脳筋の考えることなんてッ! すぐにわかるものさッ!」


 地に刺さる刃を利用し、反対側へと滑るように移動する。

 それだけでもすごい技術だと言えよう。


 大鎌を伝い、反対側へと廻った。


 観客にはそう見えているだろうが、実際には大鎌を軸に跳んだだけである。

 両者の戦闘は早すぎて見えない部分も多いが、少数の兵士には見えるようだ。

 その目がひとつひとつの行動を追っている。

 

「もう何時間やってるんだッ?」

「わからん。だが、参ったというまで続けるぞッ!」


 刃を抜き、払う。

 遅れて伝わる衝撃。

 

 ニケが刃を蹴り上げ、肉薄していた。

 そのまま、ミーチェの腹部へと拳を入れる。


「「「おおおおおおッッッ!!!」」」


 それだけでこの歓声。

 観客の大半が認めるであろう、この技術の高い戦闘。

 

「っく……。ニケ、今躊躇しだだろう?」

「いや、だって師匠殴るのに抵抗が……」

「それでデオドラに負けたのではないのか?

人間相手でも手を抜くな、いいな?」

「わかったよッ!」


 返事するや、肉薄し回し蹴りをお見舞いする。

 バランスを崩し、すぐに体勢を直すミーチェ。

 

 再び見合う両者。

 そしてぶつかり合う拳と大鎌。


 ニケがお腹すいたと言い出すまでの間、繰り返し鍛錬が行なわれた。

 満足そうな顔をしながら、余熱に浸り、語り合いながら帰路に着く兵士達。


「あれは興奮するわ!」

「だよな! 素手であそこまで戦えるなんて」

「しかも、相手はあの“西の魔女”!」

「これから一週間見れるなんて、俺も強くなりてぇ!!」


 語り合いながら、意気込む者、上を目指したがる者。

 それを嬉しそうに眺めながら、王は2人の下へと歩き出す。




 ニケは地に寝そべり、肩で息をしていた。

 その横に、満足そうな顔をしながら座り込むミーチェ。

 そして、2人の下に王がやってきた。


「2人ともご苦労であったな、兵にもいい薬になっただろう」

「あ、王様。いえいえ、師匠と遊んでただけですよ」

「遊んではないぞ? あれは修行だからな?」

「はっははは! 愉快でよろしい!」


 ニケは身体を起こすと、ミーチェを見て笑いかけた。

 この馬鹿がっと、ミーチェは溜め息をこぼす。

 

「さて、わしも空腹じゃ。そろそろ屋敷に戻るとしようか」

「俺もお腹すいた……」


 ニケは起き上がり、王と共に歩き出した。

 その後ろを、肩を回しながらミーチェが続く。


「今夜はなんだろう、肉がいいな!」

「ふむ。今夜は魚の炒め物だと言っておったぞ?」

「えぇ……肉食べたかった!」

「魚も美味いものだ、何事も好き嫌いがあっては成長しないのだぞ?」


 そんなやり取りをするニケと王。

 ミーチェは微笑ましく思いながら、2人と共に屋敷に戻っていくのであった。


ご愛読ありがとうございます。

全部改稿しようと思っていたのですが、このまま突き進むことにしました。

では、次回もお楽しみに!

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