78話「生ける屍の群れと顕現せし文字の神と選ばれし魔法と」
デオドラの口から協会の新しい死霊術。と、いう言葉が飛び出る。
どうやらデオドラは協会の人間だったらしい。
その新しい死霊術により、アンデットと化したデオドラ。
ニケを地に叩きつけると、カラスたちに襲い掛かる。
手を抜くと皆が危ないと、ニケは魔法を使うのだった。
イーディスを囲う湖の畔。
ニケ、カラス、フクロウ、ハトが、死霊術によりアンデットと化したデオドラと対峙していた。
ニケの放つ雷電の大咆哮により、デオドラは湖へとその身を吹き飛ばされていた。
「ニケ。あいつは一体何なんだ!」
「あんま喋ってる暇ないけど、あれは協会の人間だよ」
「協会……帝国に抵抗する組織か」
言うが早く、カラスは剣を湖に構えた。
カラスを先頭に、左側にフクロウ、右側にハト。
長い付き合いからくる連携の良さだろうか。
戦闘陣形とでも言うのだろうか、前衛、後衛の役割をしっかり理解しているようだ。
湖からぶくぶくと泡が立ち始めた。
しばらくすると泡は止み、湖が荒れ始める。
「カラス、湖から離れるんだ!」
「それはなぜだ?」
「嫌な予感がするんだよ……」
「カラス、ニケちゃんの言うとおりにしよ?」
判断に悩んだカラスに、ハトが声を掛けた。
湖とは思えない波と共に、大量のアンデットたちが姿を現した。
どうやら新種の死霊術は、術者がいなくてもアンデットの召喚ができるようだ。
その中心にはデオドラの姿があった。
アンデットたちは生きた者に襲い掛かる習性がある。
ニケの嫌な予感は的中した。
湖から這い上がってくるアンデットの数に、カラス達は驚愕していた。
「あんな数見たことないぞ……」
「一旦引き返したほうがいいんじゃない?」
「それだと街に被害がでる。皇帝陛下はそんなこと望まないだろう」
「となるとだ、俺達がデオドラを倒さないといけないってことだな」
大量のアンデットを目の前にして、この落ち着きはなんだろうか。っとカラスは思ったのだ。
そうこう考えているうちに、アンデットが陸まで迫ってきていた。
ハトが懐から丸められた紙を取り出す。
先ほど見たものとは帯の色が違う。
湖目掛けてハトが、丸められた紙を投げた。
アンデットの群れの頭上、丸められた紙は光を帯び始めると魔方陣を展開する。
種類の違う魔方陣だ。大きさだけでなく描かれている文字も違う。
水を蹴りながらアンデットが走り出した。
魔法が発動し、辺り一面を覆うほどの爆発が起きる。
爆風に晒されながらも、カラス達は湖を見ていた。
煙が流されていく。
アンデットの半数以上は吹き飛んだだろうか。
その中で、半身を失ったデオドラを見つけた。
だが、少しすると血管のようなものが身体を再生し始めた。
「うそ……一番威力あるやつだよ今の……ッ!?」
「再生能力はアンデットの専売特許ってわけか」
徐々にデオドラが近づいてくる。
「俺が引きつけるから、先に行っててくれ」
「一人でたたかうつもりか! 自殺行為だぞ!」
「負ける気なんてないさ」
自信に満ちたニケの目に、カラスはなんもいえなくなってしまった。
ニケの袖をフクロウが引っ張った。
ニケの目の前で、拳から親指を立てるとフクロウは走っていった。
「フクロウのやつ……あーもう! ニケ、倒し終わったら北側まで来いよ!」
「ニケちゃん、約束だよ!」
「あぁ、すぐに向かうよ」
ニケに声を掛けると、カラスとハトもフクロウの後に続いた。
遠くなっていく3人の背中。
アンデット特有のうめき声が聞こえる。
振り向くとデオドラが目と鼻の先まで来ていた。
「デオドラ、まさか喋れなくなったのか?」
「う、うぅ……あ、あぁぁぁぁッ!!!」
ニケを白く濁った目で睨むと、デオドラは両手を上げながら猛進し始めた。
まるで人間の走る速度ではない、ニケの全力疾走といい勝負だろう。
肉薄した距離でも、ニケは攻撃をかわして見せた。
「もう喋りかけても無駄なのか」
新たな死霊術、その成れの果てが今のデオドラだ。
アシュリーとはまた別の生ける屍。その身体能力は、かなりのものだった。
振るう腕は風を切る如く。
駆ける足は、突風の如く。
跳び上がる脚力は竜巻の如く。
身体能力だけではない、反射神経もかなりのものだ。
ニケの振るう腕は全て空を切るのみだった。
どこにも隙がない……。
ニケは、近接戦に持ち込むのはこちらに利がないと考えた。
考えると同時に距離を置くために走り出す。
「文字の神、リーディアの名のもと。我、ニケ・スワムポールが命ず!」
ニケの背中。文字の神の刻印が光を放ち始める。
刻印を撫でるかのように。
一本の魔線が左手から引かれ始める。
「綴ろう!
″我、文字の神との契約を果たし者。
汝ら、文字の精霊に告げる。
集え! 我が下に。
集え! 綴るために。
集え! 文字の神に捧げる文字を成すために!
綴り手は一人、我が名はニケ・スワムポール。
我が声に応え、その姿を顕現せよ″!」
大規模な魔方陣の展開。辺り一面を覆うかのように光が駆け抜ける。
天を覆う緑色のカーテン。
地から浮き出る文字の数々。
ニケの目の前に現れた人影。
なびく長き緑色の髪。
ニケを見据える、鋭き瞳。
目が合うと微笑を浮かべる彼女。
「やぁ、ニケちゃん。やっと姿を取り戻せたよ」
「え、リーディア? 文字だけの存在じゃなかったのか」
「うん、そうだよ」
「っと、話をしている暇はないんだ」
力なく歩くデオドラ。
ニケは、デオドラに指を指した。
「あれ倒さなきゃいけないんだ」
「またやばそうなのとたたかってるね」
「やばそうじゃなくてやばい。んじゃ、綴りますかね」
「はーい。みんな、私の主に力を!」
言うが早く、ニケの身体に無数の文字達が纏わり付き始めた。
ふと、魔編みの鞄に文字達が寄っていく。
「魔編みの鞄に何かあるのか?」
「んー。ニケちゃんが雷属性魔法ばっかり使うから、みんな好きになったみたい」
「ってことは……」
魔編みの鞄から雷属性の書をだすと、文字の精霊達が嬉しそうに纏わり付く。
文字の精霊達は書物を持ち上げ始めた。
ニケの周りをページをを開きながら漂う書物。
そして、ニケの前で止まった。
「この呪文を読めって事か?」
「たぶんそうだと思うよ? この子達、使える呪文とかわかってるみたいだから」
そこに記された呪文。
雷属性第一位階魔法『ライトニング』――直線状に一本の稲妻を放つ。
稲妻は貫通性に優れ、通電性のあるものなら撃ち抜くことが可能だ。
直線状攻撃系魔法。
雷属性第一位階魔法『サンダーチェーン』――稲妻と共に、敵を捕縛する鎖を任意の対象へと放つ。
捕縛系魔法。
雷属性第二位階魔法『ライトニングステップ』――前後左右4方向、上方下方への稲妻と化しての移動系魔法
雷属性第二位階魔法『雷電の落砲』――雷電の咆哮の上位種。
任意の場に魔方陣を展開でき、上空から雷電の咆哮を放つ。座標指定型範囲系魔法。
4つの呪文と魔法を、文字の精霊たちは選んだのだ。
「共に綴ろう……」
呪文を覚え、ニケは両手から双線を引き始めるのだった……
いろんな人の小説を読んでから、いろいろなことを学ぶことが増えました。
文法から、根掘り葉掘りと教わり、我ながら好ましい物語が書けてきてます。
この調子で更なる成長を遂げたいものですね。
では、次回もお楽しみに!




