76話「追いかけられる者と元凶と」
競売所で救出され、イーディスへと入っていくニケ。
カラス、ハト、フクロウの3人の隠れ家だろうか、地下室の奥へと付いていく。
隠れ家のなかで、ニケは黒髪のことについて知った。
話をしていると、扉の先から気配を感じとった一同。
突然の襲撃を受けながらも、4人はイーディスからの脱出を試みるのだった。
水の都イーディスに続く3つの橋がある。
湖に二つの月が映し出されている中、北から都へと続く橋の上を行く四つの影。
その後ろを無数の影が追いかけている。
影がもうすぐ橋の中央付近に差し掛かろうとしている。
「カラス、なんとかしてくれ!」
「そんな事言われても無理だ!数が多すぎる」
「もう走れないよ」
フクロウを先頭に、カラス、ニケ、ハトの三人が続く。
中央に見える大きな門を通過しなければ外へは出れない。
門は閉ざされており、検問を受けなければ外に出ることすらできないのだ。
徐々に門が大きくなっていく。
見上げる門は高さ15mほどあり飛び越えるのはまず無理だろう。
「急いで門を開けてくれ!追われてるんだ!」
「すまないが、今夜は入る者以外通すなと領主様に言われててね」
門番は高らかに笑うと、手に持っていた槍を構えた。
「素直に捕まればいいものを。どうせ悪さでもしたのだろう?それなら、それ相応の罰を受けるべきだ」
「くそ、この頑固親父め!」
カラスは掴みかかる勢いで門番を睨みつけた。
どうやら通してくれないらしい。
こうなったら捕まるか、最後までもがくしかない。
フクロウはたたかう事を選んだようで剣を抜いた。
ハトも同じくして杖を構える。
「たたかうしかないのか……」
「そうらしい。こうなったら、全部倒してそこにいる門番を殺してでも外に出たほうがいい案だろうな」
横目にカラスは門番を睨みつける。
門番をしている男はこわいこわいと笑って門によさり掛かった。
目視できる追っ手の人数は少なくとも20以上。4人で立ち向かえるのか、期待するはハトの魔法による一掃。
だが、競売所の扉を吹き飛ばしたことから察するに爆裂系魔法。
最悪の場合自分達を巻き込み橋を崩壊させる恐れがある、そんなことをしたら湖に落ちて水の魔物に襲われるだろう。
夜の湖は危険だ。
悩んでいる暇なんてなかった。
門を背にニケたちは囲まれる。
「ニケ、さっきの花以外になにか隠してることないか?」
「それはどういうことだ?」
「その落ち着き様、戦闘に慣れてると思ったからだ」
「なるほどね。もうひとつ魔法の類が使えるってことかな」
「おいおい。俺達を忘れておしゃべりかぁ?」
ニケたちを囲う中から声が聞こえ始める。
「おとなしく捕まれば領主様は優しくしてくれるぜ?」
「へへへ、良い姉ちゃん連れてるじゃねぇか」
下品な会話だ。
捕まったとしても拷問に掛けられるのが目に見えている。
最悪の場合競売所行きか、奴隷に成り下がるかだ。
ハトが懐から丸め込まれた紙を取り出す。
それを見てカラスが剣を練成し始めた。
戦闘は避けて通れなくなった。
ニケは魔法を使うか使わないかで悩んでいた。
もし使えば、カラス達に何を言われるかわからない。女性にしか使えない魔法が男性のニケに使えるのだから。
少しの間、下品な会話を聞かされると男達は飽きたのか武器を構え始める。
対峙する目線、漂う殺気に満ちた雰囲気。
二つの月の月光を、大きな雲が遮った。
こりゃドラマとかで見たぞ。と、ニケは思い出していた。
「確か、月明かりが出た瞬間に――」
言い終わる前に月光が再び地を照らす。
男達が声を張り上げながらニケたち目掛けて走り出す。
ハトが丸めた紙を宙に投げる。
宙に投げられた丸まった紙は独りでに伸ばされると、光を帯び始めた。
見るのは初めてだが、ミーチェの言っていた即席魔法の類だろう。
光が紙全体を覆うと魔方陣が展開され、紙は消滅して風に流されていった。
突如現れた魔方陣に男達の足が一瞬怯んだのを合図にカラス、フクロウが互いを見合い男達めがけて駆け出す。
魔法を使う使わないで悩んでいる暇はないようだ。
どうにでもなれとニケは呟くと同時に、両手から双線を引き始めた。
脳裏の数字が上げるために、意識を向ける。『1』から『2』へ、数字を引き上げる。数字が上がると同時に、身体中に行きかう魔力の増幅、筋力の増加、反射神経、動体視力の向上の効果を得る。
ハトの発動させた、即席魔法の魔方陣から魔法が放たれる。第一位階光属性魔法「ライト」が放たれる。目くらましの効果を持つその眩い光が、カラスとフクロウの行く先にいた男達に向けられた。
「くっそ、目くらましかよ!」
「目が、目がみえねぇ!!!」
「フクロウ!一気に仕留めるぞ!」
目を押さえる男達に対して、カラスは無愛想な顔をしながら剣を振るう。
フクロウはカラスの声を聞いたのかどうかはわからないが、剣を振るい次々と男達を薙ぎ払っていく。
そんな光景を見ることができず、ニケは双線を引きながら真っ白の世界を見ていた。
そう、魔方陣に意識を向けていたのは、ニケたちを取り囲む男達だけではなかった。
ニケもライトの光を直視して目がくらんでいたのだった。
ニケの目が視界を取り戻すまでの間に、カラスとフクロウが半数近くの男達を片付けていた。
何もしないニケの両手から見える、薄緑色を帯びた白い双線をハトは不思議そうに見ていた。
「ニケちゃん、それなに??」
「ごめん、それって?」
「その両手の指先から引いてるやつよ」
「あぁ。これ魔法だよ」
「そうなの?」
「うん」
戦闘に参加せずにニケとハトは呑気に話をしていた。
「喋ってないで助けろ!」
目くらましが聞かなかった相手と剣を交えながら、カラスがニケとハトに怒鳴った。
視界が元に戻ったニケは、カラスが苦戦している相手目掛けて駆け出した。
「綴ろう。″雷電よ、我に力を、衝撃と共に敵を弾け″雷電の咆哮!」
両手に2つずつの魔方陣が展開された。
ニケはカラスの正面にいる男の横腹に右手を殴り上げ、同時に魔法を発動させた。
放たれる衝撃波が内臓を破裂させ、男は血を噴き出しながら崩れ落ちていった。
すぐに近くにいた別の男がニケ目掛けて剣を振り下ろす。
ニケは、剣を左半身に身体を動かしかわすと同時に、左手を相手の腹部目掛けて伸ばすと魔法を放った。
パァン。と、言う風船が爆ぜる音と共に、男は血を噴き出して力なく崩れ落ちていく。ニケの魔法に対して恐怖心を抱きながらも、男達はニケめがけて剣を振るう。
だが、ニケに剣が触れることなく、ニケの放つ雷電の咆哮の至近距離発動により、男達は崩れ落ちていく。
崩れ落ちていく男を、ニケはただただ冷たい目線で睨むだけだった。
「知ってるか?散弾って至近距離で食らうと致命傷なんだぜ?」
突然何を言い出すのか、ニケはカラスを横目に見ながら呟いた。
「そ、それがどうかしたのか?」
「いや、言いたかっただけさ」
ニケはそういうと、両手から双線を引き始めた。
ニケの後を追うように、双線から伸びる薄緑色の白き線をカラスはただただ見ていることしかできなかった。
魔法を使う者の近くにいると、魔法の範囲内の場合魔法を放てなくなる場合があるため、カラスはニケに残党処理を委ねたのだ。ニケの背中を見守るカラスの横に、フクロウが近づいてきた。
「あとはニケに任せるか」
フクロウは疲れたのか、剣を鞘に収めると地べたに座り込んだ。
ハトもカラスの横に近づくとニケを不思議そうに眺めていた。
「ねぇカラス。あんな魔法ってあるの?」
「どうだろう、俺達の知ってる魔法とは少し違う感じだ」
「呪文詠唱以外の魔法となると、古代魔法?」
「それに近いんじゃないかな。正直驚いてるよ、ニケは男なのに魔法の類を使えるなんてってね」
そんな会話をしているとも知らずに、ニケは詠唱を始めた。
「綴ろう。″我、光の力を求めるもの。射抜け、その光と共に″ライトニードル」
魔方陣が両手に2つずつ展開された。
魔方陣を見るや、残り3人の男達は恐怖心を煽られたようだ。
情けない声を上げながら、3人はニケに切りかかる。だが、3人同時であってもニケに剣が触れることはなかった。
左右に身を返しながら、ニケは衝いてきた男の顔に右手を添えた。
「……ッ!?」
「最初から追わなければ、こうはならなかったのにね」
言い終えると同時に、ニケは魔法を放った。
零距離から放たれるライトニードル。
散弾と同じ性質を持つライトニードルの光の矢は、一点集中にして放たれ、男の脳天を貫きその場で消えていった。
脳と思われる肉片と共に、血が辺りに飛び散った。その光景を、残された2人が怯えながら見ていた。
「あんたらもやるか?」
「し、死ぬのはごめんだぁ!」
「お、オラもだ!」
「そうか。なら飼い主の元に戻りなよ」
「み、見逃してくれるのか?」
「俺の気が変わらないうちに戻りなよ?」
そういってニケは両手を上げ、魔方陣を見せた。
2人は剣をその場に捨てて、橋を戻っていった。逃げ行く2人を見ながら、ニケは両手を振り下ろし魔方陣を消し去った。
ニケは振り返ってカラス達のもとへと向かった。
「隠し芸の種明かしはないのかい?」
「え、隠してたのは正直に悪いと思うけど。ただの魔法だよ」
「ただの魔法って……」
ニケの簡潔すぎる説明に、カラス達は困惑していた。
はじめてみる直筆詠唱による近接戦闘は、今だニケ以外成したことのない戦い方だ。
まず、直筆詠唱は魔線による詠唱なのだが、歩きながら詠唱するのはミーチェでもできなかったことであり、今の時代、直筆詠唱が古代魔法の部類になり、口頭による呪文詠唱が主流になったからである。
「古代魔法の類なのか?」
「いや、詠唱方法が違うだけで根本的なものは現代魔法だった……はず」
ミーチェに教わった5つの詠唱方法を思い出しながら、ニケは質問に答えた。
「なるほど、理解した。さてと、門を通してもらおうかな」
カラスはそういうと、門番に振り返った。
門番は、まさか返り討ちにするとは思っていなかったらしく。目の前に転がる骸の山を、血の引いた表情で見ていた。
「まさか、ここまできて通さないってことはないだろうな?」
門番は、怯えた目をしながらカラスを見上げる。
門番を見下すからスの目は、殺気に満ちている。
ハトが苦笑いをしながらカラスを見ていた。
ニケは、先ほどから鳴るおなかを押さえながら、門を見ていた。
ニケの傍にフクロウが近づくと、ニケとフクロウは互いを見合い、頷き、2人してお腹を押さえた。どうやら2人してお腹が空いているようだ。
門番は屈したようで、門を開けるように門の傍にある扉から中にいる者に声を掛けた。
しばらくしてから門が吊り上げられ、門番が通れとだけ言った。門番の傍をニケ、カラス、ハト、フクロウが通り抜けていく。フクロウは門番に小さく頭を下げてから通っていった。
追っ手を返り討ちにした4人は、橋を渡り終えようとしていた。
橋を渡り終えた先には森へと続く道があり、湖沿いを歩けば各橋へと行ける。橋は、北、南、東の3つ。
イーディスは、ビスク帝国の王都『エランテル』から北北西にいったところに位置する。
王都に向かうためには、湖の南側に移動する必要がある。
つまり、湖を半周しなければならないのだ。
反時計回りに進めば、途中橋がなく追っ手と遭遇することはないだろう。と、言うことをカラスが説明した。
全員が納得したところで、半時計周りに湖沿いを歩き出す。
少し進んだところで、人影が見え始めた。
「よう、クソガキ共」
その声の主を、ニケは知っていた。
カラス達を置いて、ニケは前へ出た。怒りに肩を震わせ、ニケは殺気だった目で声の主を見た。
「デオドラァァァァァァッッッ!!!!」
ニケの叫び声が、広々と広がる湖へと消えていく。
何事かと、カラス、ハト、フクロウがニケを見た。
ニケがイーディスで競売に出品された元凶であり、ニケをさらった張本人がそこにいたのだ……。
書き方がまだ慣れてないため、地の文があいまいになっていまいました。
今後も執筆をしながら練習して、上達していこうと思います。
では、次回もお楽しみに!




