75話「黒髪の秘密ととある組織と一夜の脱出劇と」
競売所で救出されたニケ。
助けた三人組のカラス、身長の低いフクロウ、フクロウと同じ位の身長のハト。
三人について行き、ニケは水の都イーディスへと入っていくのだった。
イーディスの中へ入っていく一同。
深夜ということもあり、道行く人は少なかった。街は広く、ところどころに路地裏へと続く道や大通りに並ぶ大きな建物。建物と言ってもビルのようなものはなく、レンガ造りの3階くらいの建物が多く見られた。そんな建物の一角に、カラスを先頭にフクロウ、ハトが入っていく。ニケもその後に続くが見える先は行き止まり。何もないのにどうして入るのだろうか。と思っているとカラスが行き止まりの右側の建物の排水溝のような小さな穴へと入っていく。渋々中を覗くと、そこは地下室へと繋がっていた。
入ると同時に、地下室特有のかび臭いにおいや湿気が充満していた。カラス達は地下室に長年放置されているだろうほこりを被った荷物の間を抜け、奥に見えていた扉へと進んでいく。
扉の横には、蝋燭が天井から吊り下げられており灯りを灯していた。扉は重いらしく、カラスがあけるとギィっと金具の錆びている音がした。扉の先には生活観のある空間が広がっている。中央に木箱に布をかぶせた机だろうか、その奥には二段ベットが2つ見える。
それ以外の家具はなく、寝食をするのみといった感じだった。
「適当に掛けてくれ」
「適当にって……」
カラスに声を掛けられても、座るところなんて見当たらない。椅子もなく、地に座れとでも言っているのだろうか。木箱の机の横にフクロウがちょこんと座ると、ハトも向かい合うように座った。
どうやら普通に座ったほうがいいらしい。
ニケは、カラスの正面に座る。カラスも座り机に両肘をつきながら両手を合わせた。
「単刀直入に聞く。ニケはなぜ競売所に?」
「黒髪の血が高く売れるとかで、さらわれてここまで連れてこられたんだ」
「最近多いもんね、黒髪狩りとか……」
ハトがフードをとった。フードをとるまでわからなかった。ハトが黒髪だということに。
同じくフクロウもフードをとる。ハトと同じくフクロウも黒髪だった。
「俺達は全員黒髪なんだ」
「黒髪黒髪って聞くけど髪の色と何か関係あるのか?」
「そうだな、今わかっていることを教えてやろう」
「カラス、それ大丈夫かな」
「どういうことだ?」
なにやら訳有りな会話にも聞こえた。だが、カラスはハトに目伏せすると、両肘を机から離し立ち上がった。
「俺達黒髪は……異世界転生者ってことだ」
「異世界転生……ってことは俺以外みんなも現実世界から?」
「うん」
ハトが頷きながら答えると、フクロウも一緒に頷いた。
どうやらニケ以外にも、アテナはこの世界に転生者を送り込んでいたようだ。自分以外にも転生者がいたと言うことに、ニケは驚きを隠せなかった。だが、黒髪が女性にしか魔法を使えない世界で錬金術や、召喚術の類を使えるわけがない。そう考えると一通りの説明がつく。
「俺は転生するときに錬金術を望んだ」
「私は魔法が使いたいってお願いしたわ」
「あー、フクロウは何も望んでなかったらしい」
カラスがフクロウを見ながら言うと、フクロウは頷いていた。
これまで聞いていた『黒髪』と言う単語。ニケ以外の異世界転生者。アテナは一体何を考えているのか。悩むことが増える一方、やらなきゃいけないこともあった。
「ニケは何を望んだんだ?」
「俺は転生するとき、記憶を消すように望んだらしくて覚えてないんだ……」
「なんだそれ、んじゃぁ質問を変えよう。魔法は何が使えるんだ?」
急に目つきが変わるカラス、どうやら信頼関係上ニケが使える魔法を知っておきたいらしい。
ニケは、どう答えればいいのかわからずに自分の手を見た。左手にはめている錬金術の手袋、右手に見えるシロの指輪。どれも魔法の類なのだが、以前ミーチェに言われた言葉が蘇る。
「余計なことは言うな」っと、それを思い出したニケ。
「錬金術がちょっと使えるくらいかな」
「そうか、ニケも錬金術を」
「錬金術ならカラスと同じだね」
他に質問はないらしい。会話が終わるとカラスが座り込んだ。なにやら深刻そうな顔をしながら。
フクロウが心配して顔を覗き込むが、カラスは反応しなかった。それほど深刻なことなのだろうか。と、カラスは何かを決心したらしく話を切り出した。
「俺達は、王都のとある組織に所属している」
「カラス!それ話していいのッ!?」
カラスの一言に、ハトが身を乗り出して驚いた。どうやらその組織とやらは秘密結社のようなもののようだ。ハトの反応を見れば一目瞭然だった。フクロウは口をあけたまま固まっている。
なんだろうこの空間は。と、ニケはふと思うのだった。
「この都での調査を依頼されて潜伏していたのだがな。競売所で黒髪の少年が出品されると聞いて、いても立ってもいられなかったんだ」
「そう、私も聞いたときは驚いたわ。奴隷ならまだわかるけど、黒髪が出品されるなんて初めてだったから」
「それで助けに来てくれたのか。そこは素直に感謝しているよ、だけどその組織の話とどう関係が」
それ以上踏み込んでいいのかわからないが、ニケは気になったので聞くことにした。カラスは、何も言わず再度両肘を机につくと、頭を抱え込み始めた。ふと、フクロウに見られていることに気がついた。フクロウは何かを言いたいのか、それともただ見ているだけなのか。喋れないのだからどっちかなのだろう。
「その組織にはな、この世界に転生した人が多く所属している。ニケもそこに来ないか?」
どうやら組織への勧誘らしい。悩みに悩んでの結論なのか、カラスは眉を寄せながら難しい顔をしていた。ハトはなにも言わずにニケを見ている。同様にフクロウも。
「気持ちはありがたいけど。俺は俺の居場所に戻らなきゃいけないんだ」
ミーチェとアシュリーを置き去りにして、一人さらわれて見知らぬ都に連れてこられてしまった。不安と申し訳なさがニケの中で渦巻いている。何かを悟ったのか、カラスは目を瞑り深呼吸をした。
「わかった。これからどこに行くとかの予定はあるのか?」
「とりあえず王都に向かうよ。旅をしながら王都を目指してたから、みんなそこに行くと思うし」
当初の目的の地、王都へ向かえばミーチェたちに会えるだろう。それ以外に行く先も聞いてないし、王都に行って探せばいいのだ。と、ニケは心のどこかでミーチェとアシュリーの事を信じているのだった。
フクロウが外を見ながら立ち上がった。フクロウは耳が良いようで、ニケも先ほどから気になっていた足音を聞き取ったようだ。遅れてカラスたちも足音を聞き取った様子で扉の方を見始めた。
人数は複数だろう。こんな夜中に地下室に誰かが来るなんて事まずない。察するに、住民以外の誰か。可能性として考えられるのはカラス達の仲間か、先ほどの競売所にいた誰かが送り込んできた刺客だ。
足音が扉の前で止まり、鞘から剣を抜く音が聞こえる。
「話の途中だったが、俺達は今夜ここを発つ。ニケを助けたことで、俺達の居場所がバレたみたいだ」
そういうとカラスは立ち上がり、左手の籠手に魔力を送り込んだようだ。左手が光り始め、右手を合わせると剣を練成した。フクロウも腰にぶら下げている剣を引き抜く。
緊張感が走る。扉が開けられた瞬間に戦闘が始まるだろう。考えるよりも先に身体が動いていた。左手に魔力を送り込み、ニケは刀を練成した。
ニケが練成を終えると同時に、扉が蹴破られた。そこにいたのは騎士なんて生易しいものではなく、髭がのびきっている大男だった。その後ろには痩せた男もいる。
その薄汚れた格好を見るに、彼らは盗賊の類だと思われた。目が合うと同時にニケは駆け出す。大男の懐目掛け一目散に。懐に近づくとすぐさま剣を振り下ろされる。屈みこみながら剣を避けると同時に、身体を捻り刀を振るう。刀は大男の右腕を切り落とすと扉に刺さった。刀を引き抜こうとすると、振り下ろされた剣が目の前を掠めた。いつもだったら反応できるものが、反応に遅れ危うく喉元を切り裂かれるところだった。やはり食事をまともにとれなかったのか、ニケの身体は思っていたより衰弱しているようだ。刀を捨て、急いで距離を置く。その脇をカラスと、フクロウが駆け抜ける。腕を切り落とされた大男の胸元にカラスの剣が突き刺さる。その後ろにいた男目掛けフクロウの振り下ろした剣が襲い掛かった。
男はフクロウの剣を剣で受け止めると、後ろへと下がっていった。カラスとフクロウが男の後を追う。扉の先で剣の弾き合う音とが聞こえはじめる。ハトが立ち上がり扉へと向かっていく。ニケもその後に続いて扉をから地下室へ向かおうとすると同時に、カラスとフクロウが男を仕留めたらしく地下室は静まり返っていた。
フクロウは返り血を浴びたようで服の胸部あたりが赤く染まっていた。カラスは剣を片手に、排水溝の入り口から外に出て行った。どうやら急いでここを出たほうがいいらしい。フクロウが痩せた男の骸からマントを脱がすと、そのマント羽織った。
カラスに続き、フクロウとハトが外に出て行く。ニケは少しながら感じる空腹を我慢しながら後に続いた。
外に出て気づく違和感、先ほどまで静まり返っていた街が少し騒がしく感じた。
路地裏からみえる大通りには、何人かのフードを被った人たちが待ち構えていた。
「どうやら俺達をこの街から逃がさない気らしいな」
「これからどうするんだ?いくらなんでも敵が多すぎるだろ」
「とりあえず入ってきた北の橋から脱出する」
「わかった、脱出までは協力するよ」
「王都に行くんだろ?なら俺達と来いよ」
「一人よりみんなって言うもんね!」
「っと、話している場合ではなさそうだ」
ニケたち目掛けて男達が走り始めた。確かに話をしている場合ではない、フクロウを先頭に陣形を構える。ハトを中央に両側にニケとカラス。
「先に謝っとく、俺錬金術以外にも使えるんだ。ごめん」
「え?それは――」
「おいで、ガリィ!」
ネックレスに手を添え、ニケは路地にガリィを召喚した。
路地はそこまで広くなく、ガリィの身体がギリギリ入れる程度だった。
「こ、こいつは……ッ!?」
「ガリィ、そいつらを蹴散らせ!」
ニケの合図と共に、ガリィのご自慢の触手を伸ばす。ガリィの姿を見て、男達は足を止め戸惑い始めた。カラス、フクロウ、ハトも同様に何が起きたのか理解できていなかったようだ。ただただ目の前に大きな花が出現したとしか解釈できてないのだろう。
ガリィが伸ばした触手を狭い路地で暴れさせる。両側の壁に激しく触手を打ちつけながら、ガリィは男たちを薙ぎ払い。壁に勢いよく叩きつけ。その太い触手を頭上から振り下ろし、首から嫌な音を立てさせながら地面に突っ伏させた。
「ありがとう、ガリィ」
ガリィが落ち着くと、ニケはガリィの花弁に触れながらガリィをネックレスへと戻した。
その一部始終を見ていた三人は唖然とした顔つきでニケを見た。
「ごめん、召喚術も使える……」
「それを先に言ってくれ……反応に戸惑った」
「私は驚きすぎてなにがなんだか」
フクロウはニケの前に足を踏み出すと、力強く何度も首を立てに振っていた。ごめんごめんとニケはフクロウに謝る。道を塞いでいた男たちは無残に倒れており、狭い路地の入り口は血と亡骸が転がっていた。
「ほら、行こうぜ」
骸の転がる路地裏をニケが先頭に歩き出した。他の三人は骸を可哀想に眺めながら、ニケはなんとも思わないのだろうかと考えていた。
路地裏から大通りへ、大通りから橋へと続く道は何事もないように思えた。
後方から「いたぞ!」と言う声と共に、かなりの人数の人だかりがこちらへと迫ってきた。先行した者たちが戻ってこないから確認しに来たところ、見つかってしまったのだろう。
「走れ!」
「言われなくても走ってるって!」
「私走りたくないんだけど!」
「走らなきゃ捕まってなにされるかわからんぞ!」
四人は北の橋を目指して走りだすのだった……
地の文の練習を終え、会話文を増やしたほうがいいという読者さんの意見を取り込んでみました。
そうしたらなんと!なかなか書き応えのある物語がかけました!
今後も物語の主人公と共に成長していくので暖かく見守ってください。
では、次回もお楽しみに!




