74話「助けてくれた三人組と彼の私物と湖に浮かぶ都と」
競売所に出品されることになったニケ。
ニケの気持ちなど知ってか知らずか、客達は値段を提示し始めた。
落札が決まると同時に、会場の入り口の扉が爆音と共に吹き飛ばされた。
傍にいた警備と、入り口付近にした警備は外に出て行った。
ニケは、ふらふらとする足を走らせ会場の入り口へと向かった。
会場の入り口を抜けると、そこにはフードを被った三人組がいた。
敵か味方かわからず、などうすることもできなかったニケ。
足の力が抜け、膝を着くとフードを被った一人に助けられるのだった。
「俺はカラス、向こうはフクロウ。んであれがハト」
フードを取った黒髪の青年はカラスと言うらしい。
もう一人のフードを被った男性はフクロウ、その奥にいる杖を持っているのがハト。
鳥の名前が主になっているのは、こちらの世界での呼び名だろう。
「俺はニケ。ニケ・スワムポールだ」
ニケが何かに反応するかと期待していたのか、カラスは少し残念そうな顔をした。
ニケの後ろに周り込むと、カラスは左手の籠手に魔力を送り込み針金を練成した。
「首輪外すからじっとしててくれ」
カラスがフクロウに目伏せをすると、フクロウは競売所の入り口に歩いていった。
どうやら見張りを頼んだらしい。ニケの首輪に針金を突っ込むと、カラスは慣れた手つきで針金を動かし始めた。慣れていることに詮索などする意味もなく、ニケはただただ首輪を外されるのを待っていた。
カチャン。鍵の外れる音と共に、魔力が身体全体に行き渡り始める。脳裏に数字が刻まれ、身体が軽くなったようだ。ニケは起き上がると、背伸びをして肩をまわしていた。
魔力が全体に行き渡ると同時に、何かに呼ばれている感じがした。ニケが閉じ込められていた檻の方向から、ニケを呼ぶ声がするのだ。
「呼ばれてる……」
ニケは、耳を澄ますが人間に呼ばれている感じではなかった。右手を見てから、ニケは何に呼ばれているかわかった。右手の指にはめていた指輪などの装飾品がなったのだ。
つまり、ニケを呼んでいるのはシロとガリィなのだろう。ニケは会場の入り口に向かおうとした。
「おい、どこに行く」
ニケの肩に手を置くと、カラスが声を掛けた。
ニケは振り向きながら、仲間を迎えに行くとだけ告げた。入り口に向かって歩いているいくと、会場から不穏な雰囲気が漂っていることに気がつく。ニケが以前どっかで感じたものと同じだった。
足元に転がっている警備の死体を見ていると、嫌な予感がニケを襲った。死霊術の気配だ。
どこかに協会の者がいるのだろうか。ニケは周りを見渡すが、人影はなかった。
会場の入り口に肩からよさり掛かるカラス。どうやらニケを待っているようだ。
ニケは会場の中へと足を進める、不穏な雰囲気はなくなっており何事もなく進めた。
会場は机と椅子、他には舞台があるだけで特に目立つものはなかった。床には、白い敷物がしかれていて、どこかの宴会会場のようにも見える。
舞台に上がると、右奥から地下に続く道を見つけた。最初にニケが縄を引かれてあがってきた階段だ。ニケは何も警戒せずに階段を降りていく、ニケ以外に檻に入れられていた者はいないらしい。ニケの入っていた檻だけがあった。
地下はそこまで広くなかった。地下と言うだけあって薄暗く、階段付近と四方の壁にある灯籠の灯りがある程度だった。
暗い地下室でも呼ぶ声はニケには聞こえていた。檻の傍に布袋が転がっている。ニケは近づくと布袋をあけた。
中にはニケが身につけていたであろう服と、装飾品などが入っていた。暗くて確認はできないが、微量の魔力とシロとガリィの声が聞こえたのでニケはそれを手に取った。
階段を上りながら中身を確認する。盗られたものはなく、どうやら落札者が希望すれば一緒にっという感じだったのだろう。ニケはワンピースを着ると、コートを羽織った。指にシロの指輪と守りの刻印のされた指輪をはめ込んだ。ネックレスを首から掛けると、ニケは舞台に戻っていった。
舞台に戻ってすぐに異変に気がついた。入り口の死体が動き出したようで、カラスが応戦していた。
舞台から飛び降り左手に魔力を流し込もうとしたが、手袋をはめていなかったので錬金術は発動しなかった。ニケは急いで舞台に戻り、階段に捨てた布袋から手袋を取り出す。会場に戻るとカラスは全部のアンデットを倒し終えていた。
「ごめん、おまたせ」
ニケは頭を掻きながら、申し訳なさそうに苦笑いをした。カラスはそれを見ると、いくぞと言うと入り口から出て行った。会場の入り口から出たところは広い空間となっていて受付があり、他には椅子などが並んでいた。外に続く扉の回りには、高い位置に窓が多くあった。
外に続く扉が開くと、フクロウが顔をだした。どうやら早く来いということらしい。
カラスに続きながらニケも外へとでた。外は暗闇に包まれおり、二つの月と星達が大地を照らしていた。
湖の中央にそびえ立つ都の明かりをニケは眩しそうに眺めていた。
「あれは、街なのか?」
湖沿いを歩き始めたフクロウに問いかけるが、フクロウは頷くだけだった。その様子を見ていたカラスがいった。
「フクロウは喋れないんだ」
その言葉に、ニケはごめんとフクロウに謝るのだった。
道を進む方角からして、都に向かっているようだ。三人に続きながら、ニケはここがどこなのか、ミーチェは大丈夫なのかと心配し、シロの指輪を月と照らし合わせながら歩いていた。
しばらくして、都へと続く橋が見え始めた。水の都イーディスは、3つの橋からしか都へと入ることができない。そのうちのふたつは夜間になると通行できなくなり、残りのひとつは検問を受ければ入れるそうだ。
湖に写された二つの月を見ながら、ニケは三人の後に続きながら橋を渡り始めた。
橋は広く、馬車が3、4台並べても少し余裕があるほどだ。石造りで丈夫そうに見える橋の中央付近には、木造の門のようなものが建てられていた。
門には鎧を身に着けた警備が正面に二人、門の上に三、四人いた。
門に近づくと警備に止められた。荷物の中身を見せ終えると、何しにきたのかなどいろいろ聞かれていた。通行の許可が下りると、門は上に吊り上げられるようにして開かれた。
初めて見るイーディスに感動するよりも先に、ニケのお腹が鳴り始めた。
お腹を恥ずかしそうに押さえるニケを見ながら、カラスとフクロウ、ハトは笑い始めるのだった……
ご愛読いただき感謝です。
最新話だけでも見ていただけ感謝です。
文法が変わり、地の文がめちゃくちゃ多くなってきました。
これぞ小説なんじゃないかと最近感じております。
では、次回もお楽しみに!




