35話「焚き火を囲んで」
オーガ・リックとの戦闘で無事に契約を完了させたニケ。
一同は森を抜け、馬車へと戻ってきた。
日は暮れはじめあたりが暗闇へと変わっていくなか焚き火の準備を急ぐニケだった。
「身体が……重い!」
焚き火の火を熾しながら、ニケは叫んだ。
それもそのはず、多重詠唱に連続詠唱。魔力の消費はかなりのものだ。
シロは、馬車の中に寝転がってこちらを見ていた。
「仕方ないな。お主がやると言ったことだ、私からはなんとも言えん」
自業自得だっと、付け加えるミーチェ。
ニケは、素っ気ないなぁと言いながら火打ち石を叩く。
カチン、カチン。
静まり返った森の中で響く音。隣で川の音がしているが、聞こえる音は火打ち石の叩く音のみだ。
「あ、ついた」
やっと火がついた。
ニケは、まだ火属性の魔法を覚えていないため火打石に頼るしかない。
落ち葉など焚き火に放り込みながら、火を熾していく。
「師匠。村から、何持ってきたの?」
「干し肉にパン、あとは調味料だけだな」
「干し肉とパンってなんか微妙……」
「文句を言うなら、そこの川から魚でも獲ってくるがいい」
「わかった」
重い身体を立ち上がらせ、川へと向かう。
だが、どう魚を獲ればいいのか。
しばらく考え込んだニケは、瞑想の構えにはいった。
2、3分ほどの瞑想を終え、少し軽くなった身体を左右に振りながら、左手を構え双線を引く。
「綴る″雷電よ、我に力を、衝撃と共に敵を弾け″雷電の咆哮!」
左手に魔方陣が展開される。
「これ魚いるのか?」
魔法を発動される。
魔方陣から電撃を帯びた衝撃波が、扇状に放たれる。
川の上を衝撃波が駆け抜けると、電撃が水面を走った。
2、3匹浮かんできた。
「お、獲れるじゃん!」
急いで魚を回収しに川へはいった。
「そこそこ大きいな」
右手で2匹持ち上げるのが限界だった。
残りは左手で持ち上げて、川岸へと置きに行った。
もう一発の雷電の咆哮を川に放ったが、魚は浮いてこなかった。
「逃げちゃったかなぁ」
魚を持ち上げると、ミーチェのもとへと戻るニケ。
ミーチェの前までいくと、ミーチェは本当に獲ってきよったと笑っていた。
「冗談で言ったのかよ!」
ニケはそれに対して、拗ねた顔をして叫んだ。
「すまない、まさか本当に獲るとは思ってなくてな」
ミーチェは立ち上がり、ニケから魚を1匹受け取ると手を差し出してきた。
ニケは、ミーチェの意図が汲めず何をすればいいかわからなかった。
「ナイフがないと調理できぬだろう?」
「あぁ、そういうことか」
ニケは、左手に魔力を流し込んだ。
左手が光りだす、右手と合わせイメージを構築させる。
細く、鋭く、切れ味のいい……
手を離すと、片刃の小さなナイフが練成された。
それを左手で握り、刃を持ち替え持ち手をミーチェに渡した。
「すまないな」
ミーチェはそういうと、魚の腹部にナイフを刺し込み、腹部を切り開いた。
内臓を取り出し、馬車へと向かい、塩の入ったビンを持ってきた。
「ニケ。塩をすり込んでくれ」
そういいながら、ビンと魚を渡してきた。
「わかった」
魚を受け取り、ビンの蓋を開け塩をすくい出す。
魚の両面に塩をすり込み、腹部に手を入れ内部にも塩を塗る。
「これでいいのかな」
「あぁ。それくらいでいいだろう。あと鉄の棒のようなものを練成してはくれぬか?」
「棒ならすぐできると思う」
「そうか。なら3本練成してくれ」
「あいよ」
ニケは左手に魔力を流し込み、光を帯びると同時に右手を合わせた。
イメージを構築、長く、硬く、先の尖った……
左手を離すと、3本の鉄の棒が練成された。
「い、今3本同時にやったのか?」
「え?うん」
「錬金術は、基本ひとつずつしか練成できないはず……」
どうやら基本的な練成より、高度な何かをしてしまったようだ。
ニケは、なにも意識せずにやったのでけろっとしていた。
「お主といると飽きないな」
ミーチェは、軽く微笑むと調理を終えた魚を渡してきた。
ニケは、鉄の棒をミーチェに渡した。
しばらくして、焚き火の傍で魚を焼き始めた。
「今夜はたくさん食えるぞ!」
焼き魚を取り、かぶり付くニケ。
ミーチェは、パンに干し肉を挟み食べていた。
「ほんと、よく食うものだ」
ニケの大食いを横目に見ながら、ミーチェは傍で転がっていたシロを撫でていた。
楽しい食事の時間は、他愛のない話とミーチェの召喚術の講義によって過ぎていった。
お疲れ様です。
そろそろお盆休みが終わってしまいますね。
毎日好きな時間に小説がかけなくなるのが残念です。
今回は、夕食の時間を書きました。
楽しそうでいいですね、自分で読み返してうらやましく思います。
では、次回もお楽しみに!




