1-2 噂の経緯
昼休み――俺たちは昼食をということで、学食へとやってきていた。
結局、授業が終わった後も別クラスからの訪問者などがあり、ほたるたちに近づくことが出来ずにいた。
転校してきたのが美男美女ともなったら、学年中に広がるのも早いものだ。
「それにしても夏目くんたち大変だね~。休み時間になっても、みんなに囲まれちゃってさ。僕も同じことがあったから、気持ちはもの凄く分かるよ」
「何いってんだ、お前は今でも十分人気じゃねぇか・・・・・・。知ってるぞ、今日も下駄箱にラブレター入ってただろ?何枚入ってたんだ?言ってみなさい!」
お前は匠の母ちゃんか・・・・・・。
祐二は羨ましそうにしながら、ご飯をかきこむ。
「今日は7通だったかな?そんなに多くなかったから安心してよ!」
「満面の笑みか貴様ーーーーー!爆発しろーーーーーー!!」
めちゃくちゃ悔しそうだ・・・・・・。
匠がモテるのは仕方がないから、そろそろ諦めたほうがいいぞと言ってやりたいが――面白いからこのままでいいや。
「お、草壁みっけ。放課後なんだけど、部活のヘルプ頼む!人数が足りないんだ!」
「あいよ!」
「げっ、先越された!?草壁、こっちも頼むわ~」
「そらきた!」
「草壁~、あとで生徒会の荷物運び頼める?」
「まかせんしゃい!」
女の子にモテないモテないとはいってるものの、思った以上に人気はあるんだよな。
これだけ声を掛けられるくらいなんだから、本人が気づかないだけで好意を寄せてる子の一人や二人はいるのではないだろうか。
「なんだかんだで、お前も人気あるじゃないか」
「祐二は運動神経だけはいいからね。僕は運動は苦手だから羨ましいよ」
「〝だけは〟は余計だっつの!運動が苦手とか言いつつ、剣道部ではエースじゃねぇか!」
そういえばそうだった。女子に人気で、部活も順調、顔も良いし、性格も申し分ない――あれ?なんだろう・・・・・・なんか祐二じゃなくても、何気にムカついてきた・・・・・・。
「三人は本当に仲がいいね~。隣に座ってもいいかな?」
胸にモヤモヤを抱きつつ、いつも通りのバカ話をしていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お疲れさま、夏目くん。みんなに囲まれて大変だったでしょ?」
「もう慣れたから、問題ないよ。俺より江宮さんのほうが大変だろうな。何せあれだけの美少女だし、男子陣も色めき立ってるからね」
確かに男どもの騒ぎようもかなりのものである。風の噂では早くもファンクラブらしきものが出来たとか出来てないとか・・・・・・。
「にしてもあんなに神隠しの噂で持ちきりだったのに、一気に話題が切り替わったよな。みんな呑気なもんだぜ」
祐二がボソッと呟いた言葉に、昴が表情を変えた。その雰囲気は朝の張り詰めた空気そのものだった。
「神隠し――それは気になる話だね。当然、聞かせてくれるんだろ?」
この感じ・・・・・・やっぱこいつ、何かあるな・・・・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
神隠し――それが起こり始めたのは最近になってからだ。
最初に起こったのは六月だった。それは一年生の女生徒が行方不明になったという不透明な噂から始まる。
ある日、その生徒は学校に来ていなかった。教師やクラスメイトは風邪で休みなのだろうと思っていた。
だがその生徒の母親から、学校へと連絡が入ったことから状況は一変する。
『娘が昨日から帰ってきていない・・・・・・』
教師へと入った連絡をタイミング悪く、生徒が聞いてしまっていたことから話は広がっていった。
だがこの時点では家出したのではないかという噂でしかなかったようだ。
しかしその一週間後、第二の行方不明事件が起こることになる。
それも今度は証人を目の前にして――だ。
人が消えるところを目撃した生徒は、そのことを口にするが当然ながらそんな突拍子もない話を信じる者などそうはいない。
その証言を信じるものが現れ始めるのは、第三の事件が起こってからになった。
そう、この事件にも目撃者がいたのである。
立て続けに現れた証人の登場に、学校内での噂が〝神隠し〟という現象へとシフトしたのだ。
これが今、この学校で噂になっている神隠しの話である――。