1-1 季節外れの転校生
休み時間になり、お約束のごとくクラスの面々が転校生を取り囲んでの質問タイムに突入している。
転校生の性というやつか・・・・・・ご苦労なことである。
まぁ俺はそのような野次馬に入るつもりはないので、貴重な休み時間を過ごさせてもらおう――と思ったのだが・・・・・・。
「おい、暁!転校生だぞ、転校生!しかも女の子だ!やっと俺にも春がきたんじゃーーーーーい!夏だけど!!」
「もう何をいっているのかサッパリだよ。にしてもやたらと上機嫌だな、お前・・・・・・」
「祐二は女の子が大好きだもんね。片っ端から声を掛けて、ことごとく玉砕してるのに、その精神には感服するよ。だけど安心して!僕は祐二のことを、いつまでも応援するから!」
「よっしゃ!俺は江宮さんに声をかけてくるわ!」
祐二の歯がキラリと光り、ビシっと指でポーズを取る。
さてその爽やかスマイルが、いつ哀しみに変わるか見ものである。うん、我ながら酷いやつだな俺・・・・・。
「神隠しの話題も、転校生にシフトしてよかったかもな。これなら誰かが蒸し返さなかったら、今日はこのまま平和に――」
「あ、ねぇねぇ!君たち、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
匠とトークに入ろうとした時だった。俺たちの横に赤髪のポニーテールをなびかせながら一人の男子生徒が近づいてくる。
「あれ、夏目くんじゃない。もうみんなの質問タイムは終わったのかい?」
声をかけてきたのは、先程まで女子達に囲まれて質問攻めにあっていた、夏目 昴(なつめ すばる)だった。
「いや~、まだ終わる気配がなかったから、少しだけ解放してもらったんだよ。俺としてはもう慣れてるから、どうってことないんだけどね~」
慣れてる?
――ということはけっこうこまめに転校してる感じなのだろうか。
「そんで?聞きたいことって何だ?」
せっかく転校生が俺たちに話しかけに来てるんだ。追い返す理由もないし、話にのることにした。
「おお、そうだった。聞きたいことってのは――」
その瞬間だった――昴が纏う空気がピリッと張り詰めた。
さっきまでとは別人のような雰囲気になり、真剣な表情へと変化する。
「最近、何か学校関係で気になることはなかったかい?例えば前までとは明らかに性格が変わった人がいるとか・・・・・・誰か消えたとか――」
「え・・・・・・」
普通ならそんな質問されたら『何をいってるんだ?』と思われるだろう。
唐突にしかも転校初日のやつに言われたら尚更である。
先生から聞いたのだろうか?しかしわざわざ学校のマイナスになるようなことを話すとも思えない。
「なんてな!」
「はぁ?」
昴は悪戯めいた笑みを浮かべて、顔の前で手を合わせる。
「すまんすまん!俺、オカルトめいたことが好きでさ~。行く先々で怪談とか、七不思議について聞いてんだ。その手の話題で、みんなと仲良くなれたらいいっしょ!」
さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、また教室に入ってきた時のチャラい感じに戻っていた。
あまりの変わりように、こちらが見間違えていたかのようだ。
「へぇ~、昴くんは怖い話とか好きなんだね~。なんだか想像できないよ。それなら今、学校内で噂になってるんだけど・・・・・・」
「うわぁぁぁんーーーーーーー!!」
匠がそう続けようとした時、祐二が泣きながらこちらへと走ってくる。ああ、これはいつものやつだ。
もうこの光景も何度目だろうか・・・・・・。
「くそーーーーーー、今回も全然駄目だった~!何故だ、何故なんだ~!!」
「あらら、また女の子たちに相手にされなかったんだね。可哀想に・・・・・・」
「やめろ、そんな目で俺を見るなーーーーーーー!!」
匠が哀れみの表情で見つめると、祐二が一層うるさくなる。
このやりとりは俺たちの間では恒例になっている状況の一つだ。
祐二が女子に相手にされず、それを匠が慰める。逆の光景は見たことないな~。
「あはは、みんながビックリしてないということは見慣れている光景なのかな?」
俺たちを見て、笑いながら近寄ってくる女子生徒の声が届いた。
艶のあるショートの黒髪を、ピンクのカチューシャで押さえた少女が昴の横へと並ぶ。
「気にしないでくれ。もうクラスどころか学校中の生徒たちが見慣れてるから。それで江宮さん、君も何か質問かな?」
「ううん、昴くんが楽しそうにしてたから気になっちゃって」
「えぇ!二人共、知り合いなの!?もう駄目だ、祐二くん立ち直れません・・・・・・」
ほたるの言葉に、祐二がさらに落ち込む。
自ら話しかけた矢先に相手にされず、いざ戻ってきたら、もう一人の転校生とは仲よさげというね。
こいつにとっては何気にダメージでかいだろうな。
「落ち込むこたぁないって!俺たちは小学校の時に同じクラスだったから、その時につるんでたぐらいだよ。中学に上がるときに、別のとこにいったんだけど、ここにきて転校先が被りましたってな。まさか再開するとは思わなかったから、少しビックリしたけども――」
「また同じ学校になるとは思わなかったよ。でも私は知ってる人がいてよかったかな?一人だと緊張しちゃって・・・・・・」
すごく神がかってるな、それ・・・・・・もう偶然で片付けていいレベルなのかが謎だ。
「ということは二人は俺たちみたいなもんか!よかった~、俺の彼女候補が一人減ったかと――」
「草壁くんとは、いい友だちでいたいからこれからよろしくね!」
「ゴフッ!」
ほたるが満面の笑みで言い放った言葉に、祐二はその場に膝をついた。
『いい友達で』の時点で、完全にフラれております。
「それでみんなで何の――」
ほたるが話を続けようとした時、一時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
生徒たちはそれぞれの席へと戻っていく。
「ありゃ・・・・・・チャイム鳴っちゃった。それじゃまた後でね!」
ほたるは手を振り、昴も共に自分の席へと向かった。匠も傷心の祐二を引っ張っていく。
それにしてもいつもの朝になるかと思いきや、とんだイベントから始まったものである。
転校生というのもそうだが、どうも昴のあの雰囲気の変わりようは引っかかって仕方がない。
学校で起こってることを聞いてきただけでなく、それが神隠しの噂に近いというのも気になるところだ。
それについては次の休み時間にでも、それとなく聞いてみよう・・・・・・。
そんなことを考えながら、俺は授業へと頭を切り替えたのであった。