放課後1
夏のある日、高校2年生の涼平は死神に生き返る条件として、クラスメイトの菅野を幸せにする事になる。
そして、彼女の片想いの相手が、親友の日高だと知り協力する事になる。
そのまま、恋愛相談に乗る事になったのだが…。
青春恋愛物語 第4話。
駅から少し歩いたところにあるカフェ「マーチヘア」は、ウサギの置物が多い店だ。
少しメルヘンな雰囲気もあるが、男性でも入りやすいシンプルな外装をしている。
夕方の帰宅時間のせいか、駅から離れているわりに混んでいた。
夕飯後に菅野からメッセージが届き、秘密会議をしたいと届く。
そして、翌日の放課後に実施される事が決定した。
こちらも急いでいるので助かるのだが、焦りも感じる。
――――ボヤボヤしていると誰かに取られちゃうよ。
昨日、真帆が言っていた言葉を思い出す。
カランと、ドアが開く音がする。
そこには息を切らした待ち人が、俺を探して辺りを見回している。
こちらに気づいた菅野は、足早に近づいて来て、表情も確認しないままで直ぐ謝る。
「遅くなった、すまん」
「いや、そんなに待っていない」
そもそも、こちらは帰宅部だ。
生徒会やクラス委員をしている彼女とは、学校生活の忙さが違う。
それに、事前にこれくらいの時間になると連絡をくれていたので、先にきて席を取っていたようなものだった。
「文化祭の会議が長引いて…」
「生徒会も大変だな」
「好きでやっているからな」
彼女はそう言って、ニシシと白い歯を見せながら笑う。
こういった部分を尊敬すらする。
近づいてきた店員に、彼女はアイスティーを注文すると向かいの席に腰を下ろす。
少し乱れた服と髪から、相当急いで来たのが伺えた。
「クラスの準備もあって、体調崩すなよ」
「頑丈なのも取り柄だからな」
そういってまた笑って見せる。
「それに、クラスは『喫茶店』だから準備と言っても、そこまで大掛かりじゃない」
「そうだと良いけど…」
俺たちのクラスは、文化祭で喫茶店をやることになっている。
準備も買い出しと、内装や設備の運び込みだけなので他の大掛かりなものより遥かに準備期間も短かった。
しかし、一抹の不安もあった。
今回の発案者が、悪の親玉とも言える沢城と、悪戯大好きっ子の戸松なのだから。
そのコンビの発案というだけで、『喫茶店』が『ホラーハウス』とか『じんもんしつ』というルビが振られていても、何の違和感も無い。
「それに戸松さんがいるから、助かっているよ」
「あいつは昔から、こういう行事が大好きだからな」
戸松は祭りと名のつくイベントには率先して参加する。
それに日高と二人で巻き込まれるのが、パターンでは在るが。
「戸松さんと日高君とは、幼なじみだっけ?」
「ああ、小学校からの腐れ縁だな」
「ちょっと羨ましいな」
「気楽と言う点では、確かに…」
確かに、戸松と日高は家族以外で心を許せる唯一の存在でもあった。
付き合いが長い分、気兼ねしなさすぎる部分も多い。
「でも、お前もいるだろう、悠木と仲良かっただろう?」
「結花?」
菅野にはクラスに親友と呼べるくらい、いつも一緒にいる悠木結花という人間がいる。
凸凹コンビと呼べるほど、正反対の二人はまるで互いの欠点を補うような存在でもあった。
「そうだ、悠木さんと、いつも一緒に昼食食べているじゃないか」
「うん、でも結花とは高校に入ってからの仲だしな」
「付き合いの長さだけじゃないだろう…人との関係なんて」
「確かにそうだよ…でも、羨ましいのは、そこじゃないよ」
どこかしら表情が曇る菅野に、今さっき投げかけた言葉を少し後悔した。
彼女は、俺が日高と長い時間を過ごしてきた事に対して、羨ましく感じたのだ。
別に意図していたわけではなくても、何故か罪悪感に駆られて話題をそらす。
「それで…今日は何か聞きたい事ができたか?」
「え、ああ…す、す、好きな女性のタイプとかって…」
吃りながらも、質問を投げかけてくる。
「ああ…」
共通の話題とは何ら関係ないのだが、彼女としては勇気を振り絞っても一番に聞きたかった事なのだろう。
こういう事もあろうかと、日高を攻略する際に真っ先に探りを入れてある。
「好きな女性のタイプは、一緒にいて気楽な人だってさ」
「それはけっこういけそうだな」
確かに。こう答えられた時は安堵した。
しかし…
「女性らしい子も好きらしいぞ」
「な、ななななな…」
「落ち着け、菅野」
バイブ機能がついた携帯電話みたいに、菅野は小刻みに震えだした。
そう…日高が次に出したキーワードが、『女性らしい』だ。
校内でも『男らしい』と有名な彼女にとっては、縁遠い言葉だろう。
そして、すぐに震えを止めると、徐に無言で俯いた。
あまりの奇行に心配になって声をかける。
「菅野?」
「何ですか、長谷部君?」
「どうしたんだ、急に?」
少し甲高い声で、菅野が急に体の動きをクネクネしだした。
言葉遣いも、何処かしら違和感がある。