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黄昏に君の笑顔を  作者: 神崎葵
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恋心2

涼平が自称、死神モトから生き返る条件として出されたのは、クラスメイト「菅野雪乃」を幸せにすることだった。年内というリミットの中、退院の時まで彼はその対策を練る…青春群像劇第2話。

 それから結局、菅野と話すタイミングもなく一日が終わりを迎えた。

 帰りのタイミングを狙ったが、学級委員でもあり生徒会役員でもある彼女は多忙だった。

 気付けば、教室から姿を消していた。

 夕方の家路は、遠くで走る車の音が届く位に静かだった。

 俺らが住む鈴森町は、都心部から電車で半時間程のベッドタウンだ。

 海と山の間にあり、海側にある駅の周りは少し賑わっているが、山側の住宅街は閑静で自然もあって住みやすい環境である。

 その山側に俺の家もある。

 小学生の時に父が買った一軒家で、それまでは駅近くのマンションに住んでいた。

 日高も戸松も、その頃に近くに住んでいて仲良くなった。

「ただいま」

 リビングのドアを開けると、ダラしなくソファの上で横になる妹の長谷部真帆が出迎えた。

「あ、おかえり、お兄ちゃん」

「真帆、だらしない格好しすぎだぞ」

 部屋はクーラーの冷気で満ちていて、外とは別世界のようだった。

 そんな涼しい中でも、タンクトップに短パンという格好で浜辺に打ち上げられた魚の様に横たわっていた。

 真帆は白い歯を見せながら笑う。

 世の中の漫画やアニメの中の様な、妹にドキドキするみたいな展開など現実世界において実在しないものだ。

「別に減るものじゃないし」

「お前、戸松に似てきたよな」

「香澄さん、美人じゃん!」

 ポジティブ過ぎるだろう。

 家でも戸松みたいな人間の世話をしていたら、ストレスで死んでしまう。

 沁沁思う。

 戸松も日高も付き合いが長いだけあって、長谷部家にはよく訪れる。

 夏休みも3分の1くらいは家で過ごしたんじゃないかってくらい、二人は遊びに来ていた。

 その影響か、妹の真帆は戸松に可愛がられて、まるで弟子の様に扱われている。

「そういや、元気しているの?」

「ああ、戸松か…無駄に元気だよ」

「日高さんと香澄さんに久々に会いたいな」

 あれだけ来ていたせいか、1週間以上会ってないだけで、『久々』なんて単語を使ってしまう妹がいた。

 夏休みの間も思っていたが、真帆の教育上良くないのではないだろうか…特に戸松が。

「学校も始まったんだから呼ばなくても、そのうち来るだろう」

「それもそうか」

 リビングと繋がるキッチンの入り口に置かれた冷蔵庫から、紙パックの牛乳を出すと棚のコップに注いで一気に飲み干した。

「父さんと母さんは?」

「父さんは残業で今日は終電だって、母さんは夕飯の買い物」

 テレビを見ながら返事をする妹を横目に、小さく「そうか」と返事をする。

 母は専業主婦をしていて、父はシステムエンジニアとか言う、繁忙期になると家に帰れない職に就いている。

 それは会社として大丈夫かとか考えられないくらい、家族の感覚は麻痺している。

 飲み干したコップをシンクに置き、リビングを出る前に声をかけ足れる。

「お兄ちゃん、私の借りていたDVD、勝手に貸しちゃったでしょ」

「あー、あの『イヴニングプリムローズ』とかいうアニメの…」

「まだ半分しか観てなかったんだよ」

 入院する前にレンタルショップに一緒に行った時に、真帆は楽しみにしていたアニメ映画を借りた。

 レンタル開始されたばかり一般人の男性と吸血鬼の少女との劇場アニメで、いつもレンタルされていて借りるのが難しい程に人気がある。

「お前に任せていると、延滞料金を俺まで払わないといけないからな」

「う〜」

 真帆が怨めしそうな顔で、睨んでくる。

 いつも返却予定日を忘れてしまうので、今回は自分の分と一緒に返してしまった。

 しかし、兄と言うものは妹には弱いものである。

「分かったよ、好きなもの1本と一緒に借りて来てやるよ」

「本当?」

「ああ」

 表情が一変して、笑顔になる。

 レンタルDVDだけで、こんなに機嫌が変わるなんて簡単な奴だ。

「お兄ちゃん、大好き!」

「ああ、税込五百円の愛をありがとう」

 妹のご機嫌を取る任務を完了したところで、ぐったりとして扉を開ける。

「俺は部屋にいるから」

「ラジャー」

 敬礼の格好をした真帆に見送られ、二階への階段を上がる。

 部屋に入ると、鞄を机の上に置く。

 部屋は年頃の男子高校生にしては、片付いている。

 ふと、日高がまとめてくれていたノートの事を思い出す。

 中身を読もうと、鞄の中から数冊のノートを取り出す。

 数学、現国、英語…一つ一つが綺麗にまとめられている。

 几帳面と言うのもあるが、字も綺麗で読みやすい。

 物理のページをめくると、ひらりと一枚の紙が床に落ちる。

「なんだ、これ?」

 落ちた紙は便箋のようだった。

 これは…まさか…

 恐る恐る拾い上げて、便箋らしきものの外側を見るが何も書いていない。

 しかし、封はしてある。

 慎重に封を切り中身を見ると、可愛い紙が1枚入っていた。

 そこには短い文が綺麗な文字で書かれていた。


 明日、九月十三日の放課後に別棟の裏で待っています


 その手紙の最後に書かれていた差出人の名前を何度も見返す。

 それは、最近よく耳にする名前だった。

 気付けば口に出していた。

「菅野だと…」


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