その勇者、神海沙千(妹)・神海美麗(姉)に付き注意!
「それで、彼の異常は何だったの?」
「スキルの【天日の目】を使用して、悪影響を確認してみましたが異常はありませんでした。」
異世界を助けた勇者達は、その帰還の際に異世界の異能や技術、知識を持ち帰り日本の株式会社HITAGIに提供した。
「なら、どうしてスキルにオートの効果が付いているの?原因が分からないじゃ、上に何て報告するのよ」
「原因と思われるものは特定してます。彼の称号が一つ増えてまして―――」
それらをオーバースキルとオーバーテクノロジーと呼称し、OスキルOパーツとして会社の広告にすると飛躍的に有名になった。
「称号?それって、どんなものなの?」
「戦闘用サポートスキルの全開放とスキルの消費カウント無しの称号です」
それから、HITAGIはそのOパーツによって気軽に異世界に行ける技術を開発し、世界に名を広げて国際機関にも役員として人材を出すほどとなった。
「その称号の名は――――【魔王】―――」
ゴォ!という音とともに、神海翔冴は目を覚ます。
音の方を見ると彼の部屋の壁がボロボロと崩れている。
「あ~・・・、また私の部屋が壊れてしまった」
部屋を見渡すと幾つも同じような穴が開いている状況だ。彼が寝ぼけて拳を握ると、サポートスキル【アレスの鉄拳】の効果で無機物を砕く衝撃波を放つ。
それでこの有様だ。
体を起こそうとすると何かが体に乗っている気がする。恐る恐る掛け布団を捲ると、一糸まとわぬ姿の見慣れた姿があり。加えて、自分も昨晩の就寝時には着用していた服を着ていない事に気付く。
「この状態、何とかならないものか・・・」
Rルームでの一件から一週間経過し、自ら自宅軟禁状態に入った彼は、呪いの効果により戦闘用サポートスキルの全開放が発動している為。睡眠時に暴発することが日常になっていた。
「うぅ~ん・・・あ、翔にぃ―――おはよう」
そこにいたのは、彼の妹で神海沙千15歳、中学一年生で正真正銘の妹である。
「おはようって沙千。なぜ?裸なのかな?それにドアにはロックがして置いた―――はず」
身動きの取れない彼の上で、沙千がモゾモゾと動きだす。彼は顔を真っ赤にして離れようとするが、沙千は腕を巻きつけて胸を押し付けるように抱きついた。
「こんなに穴が開いてるのに鍵掛けても無駄だよ。
ね~翔にぃ、おはようのキスしてよ」
沙千が上半身をゆっくり反らすと長い髪の毛を後ろにやり、細い体についた中学生にしては福与かな胸を見せ付けるように突き出す。
彼は左手を頭に当て右手を突き出した。
「少し待とうか沙千。とりあえず、服を着させてくれないかな。いや、逆に着てほしい」
「なに~恥ずかしいの?じゃ、沙千からするね」
ゆっくりと、無言で前へ這い寄ってくる沙千の顔が目の前に来ると、強引に口付けをしようとする。
慌てて戦闘スキル【無限の戦域】を発動させベッドから逃げる彼。
その効果は現在地から目標位置へと瞬間移動するというもので、戦闘時にはかなり役立つスキルである。
「う~ん。逃げなくてもいいのに~。翔にぃはキスしたくないの?」
「ホッペ。いやおデコになら―――、やはり無しか。いくら妹が可愛いからと言っても」
少し迷ってしまうが、すぐさま否定する。
その時、後から誰かに抱きつかれて柔らかい感触が背中に広がる。
「翔冴くんはお姉ちゃんの、おはようのキスがいいんですよね?」
神海美麗20歳。大学生で彼の正真正銘の姉である。
美麗は自らの口元に彼の顔を近づけようと強引に引っ張るが、戦闘用サポートスキル【鬼神の体躯】で、常人では彼の指さえ動かせなくなる程の頑丈さで引っ張れないようにした。
「姉だろうが妹だろうが、そういったものはいらないですから!」
「凄く硬いよ、翔冴くん・・・」
「卑猥に聞こえます。美麗さん」
「美麗ちゃん、って呼んでって言ってるのに」
そう言いながら、お尻にまでかかった髪を揺らして彼の前に歩いた美麗は、沙千同様何も着ておらず、彼はゆっくり視線を上に向けて息を吐くと。
「私の家族はいつから裸族になったんだろうか―――」
「家族だからいいじゃない。翔冴くん」
「よくないです!朝から裸でイチャつく家族はどう考えてもおかしいと思いますが!」
強引に抱きつかれるが彼は現状それを拒めない。なぜなら、引き剥がそうと手で押そうものなら常人である美麗はただではすまない。
というのも、色々なサポートスキルの効果で強化された彼の体は扱うのも難しく、なれないと食事も儘ならなかった。
「美麗ねぇ、翔にぃが嫌がってるでしょ!離れてあげなよ」
「沙千、翔冴くんは照れてるだけよ。
あなたこそ布団に入るのは、許しが出てからにしなさい」
二人は裸を隠すことなく、彼の前で口喧嘩を始めた。この険悪な雰囲気は、つい最近まで仲の好かった二人からは到底想像できなかった。
魅了の効果は、こういうところにも影響を与えてしまっていた。
「二人とも落ち着いて」
「何?彼氏がいるのに翔にぃに抱きつくとか。浮気なんて厭らしい」
「浮気?うふふ。何言っているの?彼とはもう別れたから、これは浮気とは言わないわね」
とんでもない事を口走る美麗に彼は目を丸くする。
「姉さん別れたって!修一さんと?」
彼が驚くのも無理はない。
美麗が付き合っていた水瀬修一は26歳でCOGの管理をするHITAGIの社員。
婚約したことを最近聞いた彼にとっては、寝耳に水だったのだ。
「翔冴くん。姉さんって呼ぶなら、寝てるときにエッチなことするよ」
彼が言いなれた『姉さん』と言う言葉を使った事に、まじめな顔で凄む美麗。
「すみません間違えました。美麗さん。
で、別れたっていつですか?」
顔を赤らめ答える彼は、もうイッパイイッパイという感じだった。
「昨日電話があって、水瀬さんが『会いたい』って言うから、私『じゃあ家に来て』って言ったの。
そしたら彼が、『翔冴くんのいないところで話そう』って言うから、私は『だったら別れましょう』って―――」
「それで・・・切ったのですか?電話―――」
「うん」
完全に私の所為ではないか!
・・・勇者であるこの私が、こうも日常を荒らすなど。
危うく妹の処女を奪う破目になりそうだった昨日よりもまだ小さいが、それと同時に度し難い事態だ。
「とりあえず美麗さん、修一さんとはもう一度会うべきです。今すぐに。
沙千は学校に行って下さい。今すぐに」
「いやだな。あの人と会うの」
「学校なんて休むもん」
駄々をこねる二人に彼はもう一度言う。
「今すぐに行かないと・・・今日から自宅には帰ってきません」
自分を中心に戦闘スキル【天の羽衣】を発動させ、神々しい光を纏うと直に触れられなくした。
彼のその雰囲気に渋々という感じに、二人は部屋を後にする。
「やれやれ、どうしたものか・・・」
スキルを解除した彼は、粒子変換していた服を着てベッドに座り込むと大きくため息を吐く。
「ここまで自体が悪化してしまった以上、早急に打開策を考えなければならない・・・」
その時。
突然、効果音が鳴ったかと思うと広域テレパスで彼の頭に直接声が響く。
〔翔ちゃん翔ちゃん、こちらふー子ちゃんです〕
〔風子おばさん?どうしたのですか?〕
〔おばさん?今、そう言った翔ちゃん?〕
〔い、いいえ!風子ちゃん・・・〕
こう呼ばないと面倒なことになるのである。
〔はーいはーい!ふー子ちゃんです!〕
彼女は、神海風子35歳。彼の母親の妹で彼にとっては叔母である。
ちなみに、HITAGIの専属技術員で名高い神海博士とは彼女のことである。
彼は、部屋からキッチンへ移動して冷蔵庫から飲み物を取り出し一口飲むと問う。
〔それで、なんの御用ですか?〕
〔ん~じゃ話すけど、君の異変に関して分かったことを言うわね。
結論から言うと、あなたに関しては特殊な称号が付属されているという事。
その名も【魔王】〕
〔【魔王】・・・〕
〔その能力は、戦闘用サポートスキルの全開放とスキルの消費カウント無し。
これだけ聞くと、まさに魔王って感じよね。〕
〔・・・・〕
リビングのソファーに腰掛けた彼は、足を組むと右手でテーブルをタップして、見もしないであろう空間グラフィックのテレビを出現させた。
〔次に、あなたの能力が彼女たち―――美麗ちゃん沙千ちゃん。
秋月レイさん、天王寺美咲さん。
早乙女桜子さん、早乙女楓子さん。
古川冬子さん、リーゼ・ハルカ・クリスティン・ローエンシュタインさん。
幸平栞さん、倉町|アゲハさん。
あの日、あなたに何らかの影響で彼女たちが受けた身体的精神的のマイナス値は0。つまり異常無しということよ〕
〔ですが、彼女たちが魅惑に罹っていることは確かです。ステータスに何らかの悪影響が出てもおかしくないはずなんですが――〕
〔それがねーまったく出ないでやんの。
でも、全体的に言って彼女たちには一つ変化があるのね。
それがあなたに関する気持ち。好きという思いが止められない状況にあるの〕
理解できないという面持ちで彼は聞き返す。
〔どういう意味ですか?〕
〔つまりは、彼女たちの翔ちゃんに対する気持ちが暴走し、そして彼女たちにとってその気持ちは本来の形だと思うの。
彼女たちは色んな駆け引きの上で翔ちゃんへの隠していた思いを、何らかの力による外部の要因で抑えられなくなったのよ〕
〔しかし、姉さんと沙千は私の実の兄弟なんですが。これはどう説明するんですか?〕
〔それは翔ちゃんの称号【聖人】がそうさせてるんでしょうね。
【聖人】の【人体変化】はそのDNA、遺伝子をも変化させてる。
実際なら16歳の翔ちゃんは日本人の容姿に小柄な体だったはず。
でも【聖人】によって、見た目二十代で異世界人のような美形な外見で言葉遣いも丁寧になって。
さらに、本来あるはずの血の繋がりすらも希薄になってしまって、彼女たちにとってはもう[ただの異性]としか意識できないんでしょうね〕
〔しかし、それは2年も前からですよ。それからずっと普通に接してこれた。〕
〔でもね、翔ちゃん。君と彼女たちは4年前に革命的なほどに感覚を狂わせた〕
〔[|random dive]【RD事件】ですか・・・。〕
そう言いながらテーブルを数回タップして、当時の記事やニュースなどを表示させた。
西暦2098年、【COG:コーグ】[異世界門(cross over gate)]を発見した初期に、強制的にゲートが発生して株式会社HITAGIの見学に来ていた10代の男女数十人が、異世界へ飛ばされる事件が起きた。これが【RD事件】である。
当初、通ることはできるが帰ることが出来ない状態にあったCOG。HITAGIは最優先(top priority)をRD事件被害者の帰還に位置づけて、異世界帰還システム通称【CORS:コーズ】[クロスオーバー リターン システム]を開発するが、完成までに2年という時を掛けた。
初めて繋がった異世界は、2年間の内にRDで飛ばされた者により救済されていた。
複数の死者もでたこの事件で、邪神バルバドスを討伐したのは初代勇者大家良と世間には公表された。
しかし、真実は違った。
邪神を討伐したのは称号【賢者】と【聖人】を取得し【一人戦争屋(one man army)】を取得した神海翔冴が単独で特攻し、そして広域爆裂魔法【ヘルバーン】にて邪神のいる神界を自分ごと消滅させた。
その際、神海翔冴は消滅することなく助かった理由は【聖人】の戦闘用スキル【神の加護】によるものだった。帰還した彼のその異常な強さは、世界に知られると無駄な争いに繋がる。そう考えたHITAGIは、変わり身として同じ異世界で【勇者】を得た大家良を世間に広めた。
こうして、RD事件の真相はRD被害者とHITAGIにより、その関係者にだけ真実を伝えられ、外部に漏れないように隠された。
〔あの事件でのあなたの活躍は、聞くだけでも女性ならときめいてしまうものだわ〕
〔そうだとしても。姉さんたちがそれを聞いただけで、私を異性と意識するとは到底思えません。〕
足を崩し両膝に肘をあてがって、目の前で手を組むと額に当てながらため息を吐いた。
〔あの事件で異世界に行ったのは、沙千と沙千の親友レイさん。私の親友だった大家良、同級生の双子の早乙女姉妹。
それ以外の人は帰ることができませんでした・・・〕
〔ええそうね。事件関係者以外の美麗ちゃんとその後輩の天王寺さん。
高校教師の古川さん、翔ちゃんの高校の先輩で幸平と倉町さん。
ドイツ留学生のローエンシュタインさん、この六人はあなたと関係性が低い。
それなのに他の四人同様あなたを想ってる。それは何故なのか―――〕
〔私には覚えがないです。面識は無くもないですけど〕
〔分からないことは仕方ないよねー〕
〔やはり、【魔王】という称号が今回の問題の焦点になりますね。上の見解はどうなっていますか?〕
〔それなんだけどね。だいぶ悪い方向に進んでるようなの〕
彼は少し眉を顰める
〔悪い方向?〕
〔まーそれは、こちらで直接伝えるから。昼前に自宅の転送ポートから、28番の個室戦闘フィールドに来てもらえるかな?〕
〔なるほど・・・戦闘フィールドなら他の人に会わずに済み、他の用でも面倒がないからですね〕
彼の言った言葉に返信は無く、『テレパスを終了します』と頭にAIの声で響き、効果音が鳴ると風子とのテレパスは終了した。
午後十二時前、彼は伯母の風子の連絡を受けてHITAGIの地下二階の個室戦闘フィールド28番に移動していた。
個室戦闘フィールドとは、仮想空間と現実空間の平合により作られた四次元のフィールドである。
現実の体で仮想の区間に入るシステムもOパーツによる恩恵の一つである。
仮想の風が彼、神海翔冴を吹き抜ける。
現実の風と何ら変わりなく、その仮想空間には制限が無い。しかし、花を抜いたら視覚から消失してしまうし彼以外の生命体は存在しない。
「かくもこの世界は儚いが―――それゆえに美しい」
彼がそう口にすると、それに対し拍手が帰ってくる。
しかし、その拍手の主に笑みは無かった。
「学校も休んでるし探したんだぞ。久しぶりだな神海。覚えているか?俺のこと」
「覚えてはいますよ、紹介されましたから。栞先輩の彼氏さん・・・後藤勇気―――先輩でしたよね」
翔冴の前に現れたのは、彼の先輩である幸平栞の彼氏、後藤勇気だった。以前、栞本人により紹介されていたが会うのは2度目である。
後藤勇気は彼見て笑うと、悲しげに言った。
「俺さ、あいつと別れたんだ」
「・・・・・」
「実際には振られたんだけど。
その理由が笑えるんだよな。
お前の事が好きだからだとさ。冗談みたいだろ?
肩に触れただけで拒絶されたんだ。しかも、俺が触ったところを何回も叩くんだぜ。
まるで、虫にでも止まられたみたいに・・・」
口を閉ざす彼に後藤勇気は言う。
「神海―――お前ってなんなの?」
「あの日、彼女はお前が危ないからって会社に呼ばれて俺と別れた。
そして、次の日に会ったらもうそんなだった。
原因はなんだ?あの日、お前があいつに何かしたんじゃないか?」
あの日とは、狂魔王グランネイルと戦い勝利し呪いを受けた日のことである。
その問いに彼は答えることが出来ない。あの日のことは、関係者以外に話してはならないという決まりになっているからだ。
「今は何もお答えできません」
そう言った瞬間、彼の顔を後藤勇気の拳が襲う。が、拳は手前で障壁に阻まれた。
「やっぱり、スキルの使用許可は取っていたのか・・・」
スキルは異世界から帰還した時、必ずシステムでロックされて日常では使えないようにする決まりになっていて、訓練や特異な時は使用を申請する事で許可が出る。
「神海―――死んでくれ」
粒子変換された武器と防具を身に纏い、後藤勇気は彼に襲い掛かった。
つづく