2話
ちゃんと甘くなっていればいいのですが…
一部改稿しました
神崎さんの“食べさせて”っていうお願い。
どうしよう、すごく恥ずかしい。
「あ、あの…それは……ちょっと恥ずかしいと言うか…その、会ったばかりで…」
「ダメ?」
あぅ…。そんな可愛く首をかしげられても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
彼氏がいたことあったけど、食べさせてあげたこともないし“食べさせて”って言われたこともない。
だから、神崎さんが“食べさせて”って言ったのにはびっくり。
「だめ、と言うより…神崎さんとは…その……お付き合い…してないですし……」
「付き合えば、食べさせてくれるの?」
あ、すごく期待した目であたしを見てる。
「神崎さんがいいなら…お付き合い…したいですけど……あ、でも食べさせてあげるかどうかは…」
神崎さんは好きなタイプだから、お付き合いできたらいいなって思うし、そうなれたら嬉しい。
けど、食べさせてあげるかどうかは…ちょっと考えちゃう。
「もちろん、穂乃花ちゃんと付き合いたいに決まってるでしょ。だって、一目惚れだし♪あと、できれば食べさせて欲しいけど、これ以上困らせたら、穂乃花ちゃんがかわいそうだから、今日のところはいいよ」
はぁ。よかった。
……ん?でも今、気になる言葉が二つくらいあったような。
「あの、一目惚れって言いました?それって…さっき、一目惚れしたってことですか?でも…どうして…」
こんなキレイな人に一目惚れされるのは、もちろん嬉しいけど、あたしの見た目は、自分で言うのもなんだけど、普通よりちょっと上くらい。
美人っていうわけでもないし、おまけに童顔だから、いつも年齢より下に見られる。
そんなあたしが、神崎さんに一目惚れされたなんて。
「うん。言ったよ。一目惚れしたのは、さっきじゃなくて一ヶ月くらい前かな。ここのパンケーキを食べに来た帰り。そのときは、ただすれ違っただけだから、声掛けられなかったけどね」
一ヶ月前…全然気付かなかった。
「穂乃花ちゃんはオレの理想の女のコだし、何度も言うけど可愛いから。あ、もしかして自分に自信ないの?可愛いんだから自信持っていいのに…。それに、信じてない?一目惚れしたこと」
「自信ないわけじゃないんですけど…彼氏は…いたことあったし……。でも、一目惚れされたとかじゃなくて……。だから…ちょっと信じられなくて………」
「ふぅん、彼氏、いたことあるんだ…。ちょっと気になるけど…まあ、それは置いといて。自信ないわけじゃないなら、一目惚れしたこと、信じてオレの彼女になって」
「………あたしでよければ…お願いします…」
「穂乃花ちゃんがいいの。好きだよ、穂乃花ちゃん」
「───っ…」
恥ずかしいけど、すごく嬉しい。
ちょっと涙が出そうになるけど、今は堪えてもう一つ気になったこと訊かないと。
「あ、あと、さっき今日のところはいいよって言ったのは…」
「穂乃花ちゃんの困った顔が可愛くて、もうちょっと見たかったんだけど、嫌われたくなかったから、今日のところはいいよって言ったんだ。それに、今日がダメでも、たった今、穂乃花ちゃんはオレの彼女になったんだから、いつかは食べさせてくれるでしょ?」
あぁ、神崎さんの例の笑顔と声。これには弱いなぁ…。
「う……考えておきます…」
「前向きに考えておいてね♪楽しみにしてるから」
神崎さんの、“食べさせて”っていうお願い、考えておきますとは言ったけと、やっぱり恥ずかしい…。
でも、神崎さん楽しみにしてるって言ってるし、食べさせてあげられるようになれたらいいな。
◆◇◆◇◆◇
パンケーキを食べてると、神崎さんが、あたしの隣に置いてあるショップバッグを見ながら言った。
「それ、Honey sweetだよね。好きなの?」
「はい、大好ききです。あたしの理想が詰まった服ですから」
Honey sweetは、リボンやレース、ビジューを使った服が多い。今日買ったのにも、もちろん使ってある。
女の子らしい服で、大好き。
「今着てるのもそうでしょ?穂乃花ちゃんによく似合ってて、可愛いよ」
「有り難う…ございます」
照れながら答える。
因みに、今日着てるのは、白でパフスリーブのボウタイブラウスに、ウェストをリボンで絞る紺色のジャンパースカート。スカートの裾には、同色のフリルと薔薇モチーフレース。
お気に入りだったから、誉められると嬉しい。
「神崎さん、Honey sweet知ってるんですか?」
「服飾系の仕事してるからね」
服飾系のお仕事かぁ。いろいろあるとは思うけど。
「服飾系でも、何をしてるんですか?」
「ふふ。今はナイショ。そのうち教えてあげる」
今教えて欲しいのに、はぐらかされた。そのうち教えてくれるみたいだけど、本当かな。
そう思いながら、ジト目でみてると、
「ちゃんと教えてあげるから。オレってそんなに信用ない?穂乃花ちゃんにそう思われるのは、ちょっと寂しいな」
しゅんってなって、耳を伏せたわんこみたいになった。ちょっと可愛いかも。
「………わかりました。ちゃんと教えて下さいね?」
「ん。約束するよ」
◆◇◆◇◆◇
食べ終えたあと、脇に置いてあった鞄から、スマートフォンを出して、
「穂乃花ちゃんの携帯番号と、アドレス教えて♪」
って神崎さんが言った。
その…か、彼女…になったわけだし、別に拒否する理由もないから、あたしもスマートフォンを出し、自分の携帯番号とアドレスが表示されてる画面を出す。
「赤外線送信するので、受信してもらえますか?」
「わかった。受信するね…………ん、受信できたよ。今度はオレが送信するから、受信して」
神崎さんの携帯番号とアドレスを受信する。
ちょっとドキドキした。
「受信できました」
「これで、仕事で会えないときも電話で話したり、メールできるね♪」
お互いの連絡先を交換した後、神崎さんは会計を済ませ、あたし達は外に向かう。
「神崎さん、ご馳走さまでした。パンケーキ、すごく美味しかったです」
「どういたしまして。あのお店、気に入ってもらえた?」
「はいっ♪」
「ふふ。それなら誘ったかいがあったよ。また行こうね」
次行くときは、何食べよう?楽しみ♪
「そうだ。せっかく彼女になったんだから、いつまでも“神崎さん”じゃなくて、名前で呼んでみて」
神崎さんを名前で?恥ずかしい…けど、彼女…だし…いいのかな。
「………ノエル…さん」
「うーん。“さん”は付けて欲しくないんだけど…。ちょっとは前進したから、いっか」
うぅ…。
「穂乃花ちゃん、また赤くなってる。可愛い」
─────“ちゅっ”─────
頬に、柔らかい感触。
────キス…されました。
楽しんで頂けましたでしょうか?