あめの贈り物
雨――。
雨が降っている。俺はその雨の中に立っている。雨は俺の心を表すかのように、激しく、悲しく降っている。鞄が濡れて、制服が濡れて、全身が濡れる。今、俺がいるのは誰もいない、雨に支配された公園。俺と同じように濡れる遊具。灰色の世界。
俺はベンチに座った。どうせ濡れているのだ。関係ない。訳もなく涙が溢れた。涙は雨が流してくれる。誰にもわからない悲しみの涙。俺はうつ向いた。
「何故泣いているの?」
不意に頭上から女の声がした。慌てて顔をあげる。何故俺が泣いているとわかったのだろう。いや、それよりもいつここに来たのだ?水音、ましてや足音なんて聞こえなかったはず。
「誰?」
かすれた声。女はニコッと笑うだけだった。
「…彼女にフラれたんだ。高校生にもなってそれくらいで泣くなんて笑われるかもしれないけど…本気で好きだったんだ。」
アイツは俺をフったとき、
「あなたよりカッコイくて、優しくて、あたしを思ってくれる人を好きになった。」
って言った。泣いて気が動転していたのか初対面の奴に泣いている理由を話した。彼女は黙って聞いていた。彼女はゆっくり俺に話した。
「それは、悲しいね。大切な人失って寂しいね。でも、また好きな人が、好きになってくれる人が現れるよ。今は、悲しくてもきっと大丈夫だよ。」
妙に大人びた言葉。俺の胸を熱くさせた。溢れた涙が雨と一緒に流れ落ちる。
「ありが…とう。」
涙で途切れる言葉。彼女はニッコリ笑った。
「うん。君は生きてるから大丈夫だよ。」
『君は生きてる?』俺は生きてる。だけど、今の言葉は……?
嬉しそうな彼女の顔。俺も、つられて笑った。彼女が気になったけど、声には出さなかった。傘も差さずに立つ彼女は一つも濡れていない。俺はそれに今気付いた。
「え…濡れてない?」
ボソッと呟いたつもりだったが、意外に大きな声になった。
「あ…ばれちゃった。あたしは雨が降っても濡れない。雷が落ちても、感電しない。
幽霊なんだ。一ヶ月前、死んじゃったの。それでね、フワフワ浮いてたら君に出会ったんだ。ずっと、この一ヶ月間君を見てたんだ。君が泣いてるからつい、声かけたんだよ?」
また笑う彼女。どうしてこんなに笑ってられるんだ?死んでるのに。
「あたしもう、成仏できそう。君に会えて、君と話ができて嬉しかった。
最後にあたしの名前聞いてくれる?」
「……ああ。」
「あたしの名前はね…愛芽、だよ。」
彼女はふわっと浮いて、はじけるように消えた。
愛芽は俺に笑顔をくれた。俺はこれから、きっと好きな人ができるだろう。愛の芽を育てたいんだ。