塩対応な恋人
初めての投稿作品です。めっちゃドキドキです。
潮風には、すべてを曖昧にする匂いがある。
三周年の記念日の夜、僕は東京を逃げ出した。行き先は、数年前に一度だけ、二人で雑誌を見て「いつか行ってみたいね」と話したきりの、静かな海辺の町だ。
恋人の暁は、僕に対し徹底して「塩対応」な男だった。
同居して二年。お互い社会人になり、忙しくなるにつれて、暁のそっけなさは加速した。おはようと声をかけても生返事。手を繋ごうとすれば「暑い」とかわされ、キスはいつも寝る前の義務的なもの。
極めつけは今朝だ。
「今日、何の日か覚えてる?」
そう尋ねた僕に、暁はネクタイを締め直しながら、視線すら合わせずに言った。
「あの日だろ。……ごめん、今夜は急な会議が入ったから遅くなる。飯は適当に食っておいて」
カレンダーの「3rd Anniv.」の文字が、ひどく虚しかった。
もう、僕の片想いには疲れてしまった。僕がいなくなっても、彼はきっと、いつも通り淡々と明日を迎えるのだろう。そう思ったら、気づけばスマホの電源を切り、最小限の荷物だけを持って、各駅停車の電車に飛び乗っていた。
*
夜が明けた海辺の町は、ひどく静かだった。
波の音だけが、ザザン、ザザンと規則正しく鼓膜を叩く。防波堤にぽつんと座り、冷えていく指先をコートのポケットに突っ込んだ。
悲しいはずなのに、涙も出ない。ただ、胸の奥が空っぽだった。暁のいない世界は、こんなにも寒くて、静かなのだ。
「――おい」
低い、聞き慣れた声が鼓膜を震わせた。
幻聴だと思って振り返る。そこには、いつも完璧に整えられているはずの髪を潮風に乱し、息を激しく切らせた暁が立っていた。
スーツの上着すら着ていない。シャツのボタンは掛け違えられ、革靴は砂にまみれている。
「な、んで……」
「なんで、じゃない!」
暁がドスの利いた声で怒鳴った。あんなに感情を剥き出しにした暁を、僕は見たことがなかった。
暁は長い歩幅で僕に詰め寄ると、折れそうなほど強い力で、僕の肩を掴んだ。その指先が、微かに震えている。
「スマホの電源を切るな……! 家に帰ったらお前がいなくて、荷物も減ってて、どんな気持ちだったか分かるか!? 心臓が止まるかと思った……!」
「でも、暁は僕のことなんてどうでもよくて、仕事の方が大事で、記念日だって……」
「忘れるわけないだろ!」
暁は僕の言葉を遮り、ポケットから小さな、色褪せた雑誌の切り抜きを取り出した。僕たちが数年前に見た、この海辺の町のページだった。
「今夜遅くなるって言ったのは、この町の老舗旅館の予約を取るためだ。仕事の都合をつけて、明日から二泊でここに連れてくるつもりだった。……サプライズにしたくて、お前を驚かせたくて、ここ数か月、寝る間も惜しんで仕事の先回りをしていた。そのせいで余裕がなくて、お前に寂しい思いをさせていたのは、俺の落ち度だ。本当にすまない」
暁の切れ長の目が、切実に見開かれている。その瞳の奥には、僕が「ない」と思い込んでいた、痛いほどの熱と思慕が揺れていた。
「俺は口下手で、お前みたいに上手く感情を表せない。でも、お前が隣にいるのが当たり前で、お前のいない未来なんて、一瞬だって考えたことはない。……頼むから、俺を置いていかないでくれ」
いつもクールな男が、今にも泣きそうな顔で僕を乞うている。
その姿を見た瞬間、僕の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「ばか……。それならそうと、ちゃんと言ってよ……!」
「ああ、これからは毎日ちゃんと言う。鬱陶しいくらいに言うから」
暁の大きな手が僕の頬を包み込み、親指で涙を拭った。そして、深く、貪るようなキスが降ってくる。冷え切った唇に、暁の熱がじんわりと染み込んでいく。
塩対応の裏にあった、不器用すぎる愛の深さ。
僕たちは波の音に包まれながら、互いの体温を確かめるように、何度も、何度も抱き合い続けた。
初めて投稿しました。書き方も分からずAIに頼りっぱなしです。細かなところだけ自分で直しました。お暇つぶしのひと時に読んでもらえたら幸いです。
気が向いたら続きを書くと思います




