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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

無口な公爵令嬢、無能な王子に婚約破棄を強要されました! ですが、王子のご両親でもある国王陛下と王妃様が彼女に加勢してくれています!

作者: 栗野庫舞
掲載日:2026/09/25

悪役は侵略者ロシアとその擁護者達を参考にしました。

 あなたは異世界転生し、この王国で赤ん坊の頃から二十年以上の歳月を過ごしてきた。


 女騎士でありながら二十代にして王立騎士団の副団長に抜擢(ばってき)され、今宵(こよい)は王侯貴族のパーティ会場で警備を任されている。


 そんな時に、大変不穏な出来事が起こってしまったのだ。


「ルセイラ! お前との婚約を破棄するッ!」


 セリョカス王子が大声で宣言した婚約破棄を、あなたは目の当たりにした。


 長い緑髪を三つ編みにした公爵令嬢ルセイラは、驚きの表情を浮かべていた。だが、何も言葉を返せない様子だった。


 それもそうだろう。彼女は非常に優秀な令嬢ではあるが、おとなしく、王子に難癖をつけられても逆らえないような少女だ。


 きっと彼女は婚約破棄への反論をしないだろうし、王子も思っているに違いない。


 セリョカス王子の傍(かたわ)らには、男爵令嬢アゴルズもいた。金髪の彼女は、公爵令嬢よりも目立つ赤いドレスを着ている。ルセイラ嬢を凌駕(りょうが)する美貌(びぼう)の持ち主には見えるが……、性格が、とても悪い。


 あなたも一度だけ、仕事で男爵令嬢アゴルズと関わったことがある。その際、平民出の副団長だからとずっと見下しの態度をされたので、あなたからの評価も大変低い。


(面倒なことになってしまった……)


 あなたは平穏なパーティを台無しにする王子を苦々しく思った。


「お前はアゴルズの美しい容姿に勝てないからと嫉妬(しっと)し、あろうことか国王である私の父上の愛人にまで成り下がった! そのような奴を、王族として迎えるわけにはいかないッ!」


 髪よりも淡い緑色のドレスを着たルセイラ嬢を指差して、王子は激しく非難していた。


 脅える公爵令嬢の近くに、ある人物が近寄ったのを、あなたは見逃さなかった。――国王陛下だ。


「何を言っているのだ、セリョカス」


「私が知らないとでも思っているのですか、父上! このところルセイラと父上が、毎晩のように密会をしていたのを!」


「それは誤解だな。重大案件の仕事があり、有能な彼女に手伝ってもらっていたのだ。証人もいる」


 濃い茶色の髪の王は、手招きで妻を呼んだ。


「身内だから証人にならないと言われればその通りだが、仮に愛人と密会をしていたのであれば、妻を同席させたりはしないだろう」


 その国王の言葉に、あなたを含めた観衆の大半が納得する。


 やって来た王妃はいきなり、小柄なルセイラ嬢を背後から抱いた。王妃のほうがずっと背は高く、顔だけ見るとルセイラ嬢の姉に見間違うほどに若々しい。


 なお、王妃は黒髪のあなたとはだいぶ異なる、薄青の髪の持ち主だった。息子である王子も、その髪色は受け継いでいる。


「この娘(こ)は、陛下のお仕事を毎日手伝って下さっていたのですよ。わたくしは何日かの短い時間しか手伝えませんでしたが。……非難されるとするなら、その間に様子を見に来ただけで何もせず、毎日のようにその男爵令嬢と遊び歩いていた、貴方(あなた)ではなくて?」


 紺色と白のドレスを着た実の母親に、王子は冷たい言葉を投げられている。


 王妃はあなたが知る限り、普段はとても優しげで、他人を非難しないようなお方だった。そのような王妃が、今は目つきが鋭く変わっていて、見ていたあなたも少し動揺してしまう。


「セリョカスよ、納得したか? 本当にルセイラは、そこの男爵令嬢と違って、お前にはもったいないほどの淑女(しゅくじょ)だよ。まだ若いながらも、この国をより善(よ)き国に発展させることの出来る才能を持ち、その才能を支えるために必要な実力も備わっている」


 そう言って国王はルセイラに微笑みかけて、厳しい表情を王子へと戻す。


「対してお前はどうだ? いつもルセイラに助けてもらっているのにもかからわず、彼女をぞんざいに扱い、国に奉仕するための勉学を怠(おこた)った。剣術も魔術も才能はあったのに、開花させることも出来なかった。馬鹿みたいなことだけは一人前に言うようになり、少しでも都合が悪くなれば他者を責める。お前の捻(ね)じ曲がった根性には心底うんざりしていたが、まさかお前の今や唯一の長所だった婚約者の存在を、自ら捨てようとするとはな! 本当に見損なったぞ! セリョカス!」


 責められて反省するどころか、王子は怒りの表情を返した。その怒る顔だけは、父である王と似ていた。


「それに、この素敵なルセイラちゃんの代わりに選ぶのが、そのような娘(むすめ)だというのも、がっかりですわ」


「母上まで彼女を愚弄(ぐろう)するのかッ!」


「だって本当のことではありませんか。確かに、そちらの男爵令嬢は美しいでしょう。ですがわたくしとしては、誠実で、お人形さんみたいなところもあるルセイラちゃんのほうが好みですわ。陛下の愛人ですって? むしろ、わたくしがルセイラちゃんを愛人にしたいところですわっ!」


 そういう話はこの場に相応(ふさわ)しくないと言いたげな顔を、国王は王妃に向けていた。


 ルセイラ嬢を笑顔で抱き締める王妃もまた、ルセイラ嬢やあなた同様、髪をリボンで留めている。


 あなたのセミロングの黒髪をまとめるリボンは白い安物なのに対し、ルセイラ嬢のゆったりとした三つ編みを一つに留める深緑のリボン、王妃のロングヘアの先端をまとめる青いリボンは、絹製で高級そうだった。


「セリョカス。婚約破棄を撤回するのなら、今しかないぞ。ルセイラ嬢にこれまでの謝罪をし、己(おのれ)の過ちを猛省するのであれば、今回の騒動は大目に見ようじゃないか」


 寛大(かんだい)な国王は、無礼な王子に最後の機会を与えた。


 しかし、王子の表情から敵対心が消えることはなかった。


「父上に母上ッ! これは私とルセイラの問題だ、口出ししないでもらいたいッ!」


 そんなことを平気で言える王子に、あなたも呆れてしまう。国や王家の将来がかかっているからこそ、王子と婚約者だけの問題にはならないだろう。


「ルセイラは、私との婚約破棄に賛成だなッ! お前は私をいつも内心では見下していたはずだ! 私はアゴルズとの真実の愛に目覚めた! だから、お前を愛することは出来ない! 一生な! この婚約破棄は、双方に利があるのだ! お前がこの場でどのような答えを出すのかは、明白だろう? なあ、ルセイラッ!」


 王子は言うだけ言って、ルセイラ嬢の返答を辛抱強く待った。


 困った顔のルセイラ嬢から、王妃はそっと離れ、彼女が答えるのを静かに見守った。


 全員の注目を浴びるルセイラ嬢は、――小さく、けれども確実に、肯定の意味で頷(うなず)いた。


 それを見た王子は笑みを浮かべ、婚約破棄の成立を確信した。


「ふはははッ! 当人である公爵令嬢ルセイラが、今、婚約破棄を受け入れたぞッ! 父上と母上がどんなに反対しようと、彼女の意志を無視するのは、王族として恥ずべきことだッ!」


 この王子の度胸と愚かさだけは一流だと、見ていたあなたは思った。隣にいる部下が怒りのあまり王子に突進しようとしていたので、あなたは片手で制止させる。


「……分かった。私も此度(こたび)の婚約破棄を認めよう。私も父親としては、息子には愛する女性を妻に迎えてほしいと思っている。その男爵令嬢との婚約も拒否したりはしない」


「おお、さすがは父上だ!」


 初めて王子は勝ち誇った顔をしていた。容姿だけは良い点が、彼が愛する男爵令嬢と共通している


「――ただし、婚約破棄の代償として、お前から王族の身分を剥奪(はくだつ)し、その代わりに、ルセイラを私達の養女として迎えることとする!」


「なんだと!」

「まあっ!」


 驚く王子と、両手に頬を当てて喜ぶ王妃は、あまり似ていない。


「そっ、それは困りますわっ!」


 焦《あせ》った男爵令嬢アゴルズが、ついに口出しを始めた。


「なんだ、何か言いたいことがあるのなら、許そう。男爵令嬢よ」


「セリョカス様から身分を剥奪したら、王族の権威が地に落ちます! 私も次期王妃として誠心誠意尽くすつもりですわ! どうかそれだけはお許し下さいませッ!」


 アゴルズ嬢は国王に懇願(こんがん)する。


 国王は男爵令嬢を睨(にら)みつけた。


「誰のせいで我が息子に罪を与えねばならんのだ? お前は事前に、セリョカスが婚約破棄をおこなうことを、当然聞かされていたはずだ。それなのにお前は、王家と公爵家の間に亀裂(きれつ)を生むのは避(さ)けるべきだと、セリョカスを説得したりはしなかったのか? それとも、王妃の座が欲しくて、セリョカスに取り入ったのか?」


「彼女はそんな欲深い女性じゃないッ!」


 王子は本気で反論する。あなたは、絶対だまされているという感想しか浮かばない。


「私はっ、王妃の座が欲しいんじゃありませんっ! ただ、そんな無口で愛嬌のない女よりも、私のほうがより王妃にふさわしいと、自信を持って言えますわっ!」


 男爵令嬢アゴルズは、王子を除いた皆が溺愛するルセイラ嬢の非難まで始めた。


 これは地雷を踏んでしまったなと、あなたは直感した。


「……貴方(あなた)。この女、殺しちゃっていい?」


 光を失った瞳になった王妃が、物騒なことを王に聞く。


「いや、私も君の意見には賛同したいが、こんな奴のせいで父親である男爵を悲しませたくはない」


「私が男爵令嬢で位(くらい)が低いから、そこの公爵令嬢を優先されるのですかッ?」


 その強気な様子から、男爵令嬢アゴルズはまだ自分のほうが優秀だと思っているらしい。


「非常に心外ですわね。わたくしでしたら、ルセイラちゃんが男爵令嬢で貴女(あなた)が公爵令嬢だったにしても、迷わずルセイラちゃんのほうを選びますわっ! 貴女(あなた)に優れている部分があるとしたら、わたくしの息子をたぶらかす能力ぐらいではないでしょうか?」


 今の王妃は、普段の慈(いくつ)しみが全く感じられず、正直に言って怖い。


「――では、今からこの場で、どちらが上なのか、はっきりさせてもらおうではないか。アゴルズ嬢よ、政治経済でお前がルセイラ嬢に勝てるとは思っていない。あの男爵の娘であれば、魔術には精通しているはずだ。これより、互いに相手を魔術で攻撃してもらおう。その結果で、私は決定を下す」


 ということで、あなたが立会人(たちあいにん)に任命され、公爵令嬢と男爵令嬢の魔術勝負がおこなわれることになった。


 攻撃魔術を得意とする男爵令嬢アゴルズは、自分に有利な条件になったことを喜んでいるようだった。


 対する公爵令嬢ルセイラは、弱気な表情を隠さない。


 観客達はやや離れた場所で、距離を取って対峙(たいじ)する二人の令嬢を傍観(ぼうかん)し始める。


「まずは、アゴルズ嬢。どんな攻撃魔術でも構わない。ルセイラ嬢に向かって全力の魔術を放つように」


「本当に構わないんですの? 例えば、ルセイラ様を一生人前に出られないような惨状(さんじょう)をお与えすることになっても?」


「やれるものなら、やってみるといい。今回の魔術勝負で相手に傷を負わせたとしても、責任は問われないことを約束しよう」


 国王の許可を得て、アゴルズ嬢は笑みを強めた。


「それと副団長よ、一切の手出しは無用だ。勝負中は何が起きても、観(み)ているだけで良(よ)いからな」


 そう国王に言われて、あなたは少しだけ気楽になれた。


「では行きますよ、ルセイラ様。――死ねええええええッ!」


 思いっ切り死ねと叫びながら、いくつもの火球を両手から高速で出しまくった。


 まるで異能力バトル漫画の連続波動攻撃のようだった。あんなのを食らったら、あなたでも無事では済まないだろう。


 そんな恐ろしい攻撃が、全て命中した。


 だが、被害は免(まぬが)れた。


 ルセイラ嬢が白い防御壁で完全に防いでしまったのだった。


 驚いているだろうと思ってあなたがアゴルズ嬢のほうを見ると、思っていた以上に絶望の表情を浮かべていた。本気で相手を殺しにかかっていたらしい。


「嘘ですわ……私の最強の魔術が全く効かないなんて……ッ!」


「では次は、ルセイラ嬢の番だ。アゴルズ嬢と条件は同じだ、遠慮することはないぞ」


 冷静さを保った国王の宣言後、ルセイラ嬢は魔術で作った防御壁を消し、両手を前に出す。


 彼女は氷の魔法で、先端が異様に尖った、つららを形作る。


 指ぐらいの大きさだったそれは、一瞬で腕よりも太く大きくなった。


 彼女の目の前にあるのは、とにかく尖った凶器だ。見ているだけで、あなたはヤバいと感じてしまう。


 こんなの防げるわけがないという顔のアゴルズ嬢がいる。


 解き放たれた氷の攻撃。


 こちらも殺しにかかった速度で突き進む。


「いやああああああああッ!」


 アゴルズ嬢は魔術で防御壁も張らず、その場でうずくまってしまった。先ほどの凄まじい攻撃魔術で、魔力を相当使い果たしてしまったのだろう。


 つららは、彼女に当たる寸前で止まった。


 急に真上へと向きを変え、かなりゆっくりと上昇。


 上空で拳(こぶし)よりも小さい塊(かたまり)へと変化した。


 それが低速で落下する。


「きゃんっ!」


 頭を押さえるアゴルズ嬢の両手に塊がぶつかって消えた。その際に上げた声だけはかわいかった。


「勝負は着いたな。判定を頼む」


 国王の命をあなたは受ける。


「勝者は、――ルセイラ様です!」


 あなたは迷うことなく皆へと伝えた。


 あれほど見事な魔術を見せられたので、当然の答えだ。納得していないのは、恐らく王子だけだろう。


「ふざけるなッ! 小さな塊がぶつかっただけだけではないか! こんなのは違法だッ!」


 王子が速足でルセイラ嬢に近寄り、殴りかかろうとしていた。


 ルセイラ嬢は二度もすごい魔術を使って疲れているはずだ。今の彼女は自分の身を守れないかもしれない。――あなたがまずいと直感し、即座に動く。


 あなたが王子の右腕を掴(つか)んで動きを止めるとともに、つい特殊スキルの自動防衛攻撃を発動させてしまった。体が勝手に動き、なめらかな動作で王子を投げ飛ばす。


「ぎゃおぉんッ!」


 宙に浮いた彼は見事に床へと激突した。


 勝負中は手出しするなと国王に言われていたが、勝負の後でしかも勝負の当事者でない者が攻撃しようとしていたので、警備責任者としては問題のない行動だ。


 王子はかなり痛そうだったが、すぐに起き上がった。


「貴様ぁ~ッ!」


 王子の怒りの矛先(ほこさき)が、初めてあなたに向けられている。王子の反感を買う判定を下しただけでなく、投げ飛ばしまでしたので、恨まれてもしかたがない。


 仮にこの場で王子と戦うことになっても、鎧も着ていて有利だし、この王子となら負ける気がしないぐらいには、あなたは強い。


「――そこまでだセリョカス! もういい! これ以上無様な姿を見せるなッ!」


 国王が息子に怒鳴ってくれたので、あなたは王子をボコボコにしないで済んだ。


「約束通り、ルセイラ嬢との婚約破棄は認めるが、お前の王子としての身分は剥奪する。いいな?」


「それでは、王族の血筋が途絶えてしまうではありませんかッ!」


 王子は都合のいいことを叫ぶが、国王は断固とした表情を崩さない。


「お前はそんな心配をする前に、ルセイラ嬢に謝罪するのが筋ではないか? お前が婚約破棄をしてまでその女と一緒になりたいのなら、称号剥奪の罰は受けるべきであり、それが嫌なら女は諦(あきら)めろ。女も身分も両方欲しいだと? ふざけるな! そんな都合のいいことが許されるかッ!」


 国王が決定事項を取り下げるつもりはなさそうだ。


「……ああ、そうですか、分かりましたよ、父上。私は、真実の愛を取ります。それで王子の身分を失うのであれば、臨(のぞ)むところだッ!」


 そう言ってセリョカス元王子は、アゴルズ嬢を連れて会場を去った。男爵令嬢は、王子が王子でなくなることを快(こころよ)く思っていない様子だった。


 最悪な婚約破棄を見せられて、公爵令嬢ルセイラの名誉に傷までついてしまったのが残念ではあったが、あんな王子と別れられたのは正解だ。そんなふうに思っていたあなたの前へと、ルセイラ嬢がやって来た。


「……騎士様。助けて頂き、ありがとうございました」


 無口な公爵令嬢から感謝された。すごく愛らしい声で驚く。これほど魅力的な声を出せる声優は多くはないだろうとあなたが思えるぐらい、素敵だった。


「いえ、騎士として当然のことをしたまでです」


 あなたは自信を持って言えた。


「私で良ければ、いつでも助力いたしますので、その時はぜひお申しつけ下さい」


 あえてあなたが伝えると、彼女は微笑んでくれた。


「お気遣い、感謝いたします。騎士様」


 あの卑劣な王子から無事この子を守れたことを、あなたは誇りに思う。


   ■


 後日あなたは、元王子セリョカスと男爵令嬢アゴルズの末路を聞いた。


 無能な王子や悪質な令嬢が『ざまぁ』される物語を、前世でいくつも読んだ。その経験上、追放された二人はきっと破滅するのだろうとあなたは予想していて、実際その通りになっていた。


 元王子は男爵令嬢と婚約するつもりだったものの、早々に彼女に裏切られてしまった。王子という地位を捨てた男にもう用はない、ということだろう。


 信じていた男爵令嬢さえも失った元王子は、復讐……というよりも逆恨(さかうら)みで、クーデターを起こそうと決意した。だが、無能な彼の計画は雑で、そもそも王国に恨みを持っている協力者自体がほとんどいなかったため、上手くは行かなかった。


 クーデター失敗により、元王子は失意とともに独り母国から逃(のが)れて行った。


 一方、男爵令嬢は、複数の貴族と遊びほうけているうちに男爵から勘当(かんどう)され、国外追放を命じられた。


 元王子は、隣国で犯罪組織の末端(まったん)としてこき使われた。彼は任務中に現行犯として逮捕され、刑務所行きになった。


 同じように元男爵令嬢も、隣国の若い紳士に対して怒り狂い、上級魔術攻撃を食らわせてしまったことで、刑務所行きになった。


 彼らは刑務所で、運命の再会を果たした。しかし、彼らが愛情で結ばれることは無かった。


 さて、あなたのほうはと言うと、国王と王妃に溺愛されるルセイラ嬢と懇意(こんい)になり、彼女の近衛騎士隊長に抜擢(ばってき)された。皮肉にも元王子のお陰で、出世(しゅっせ)出来たのだった。


 今あなたは、王都のカフェのテラス席で、ルセイラ嬢とスイーツを満喫(まんきつ)している。


「美味(おい)しいですね、騎士様」


 笑顔のルセイラ嬢は、すごくかわいい。なんであの元王子が気づかなかったのかおかしく思えるぐらい、魅力的だ。無口な彼女が自分から話してくれるほど、あなたは彼女に信頼されている。


 あなたも彼女も、目立たないような私服姿でいても、彼女のほうが素晴らしい美少女で、どうしても目立ってしまう。


 長い三つ編みの緑髪は美しく、整った童顔は愛らしく、小柄でほっそりとしている割に、胸部はそれなりにある。背の高いあなたと同等ぐらいなので、背丈を考えれば大きいほうだろう。


 目立つ公爵令嬢の近くには、護衛もこなせるあなたがいるし、近くで元部下に見張らせているため、抜かりはない。


 向こうで隠れている彼が、パーティ会場で王子に突撃しようとしていて制止させた、あなたの元部下だ。身分の違いはあれど、彼も公爵令嬢に想いを寄せているらしい。


 ちなみに、あなたが今日ルセイラ嬢と出掛けると自慢したら、元部下は勝手に遠距離警護を買って出た。ここがもし前世の日本だったら、ストーカーとののしられるかもしれない。


 その元部下以外にも、ルセイラ嬢と親密になりたい青年は複数いる。大公の息子もその一人だ。


 今のところ、ルセイラ嬢は国王夫妻の養女にはなっていない。直接養女にするか、大公の息子を養子に迎えた上で婚約させるのかで、国王夫妻が悩んでいるとのこと。あなたはあの一件から、国王夫妻からの強い信用も得た。


 あなたとしては、ルセイラ嬢がどのイケメンとくっつくのかを想像するだけでも楽しいし、今のように彼女と一緒にいられる時間があるのも嬉しい。


 ただ、彼女が最も慕(した)っているのは、あなたかもしれない。今も恋するような表情が、あなたに向けられているのだから。


 それはそれとして、あなたは今の転生生活に満足している。


                    (終わり)

彼らは刑務所で、運命の再会を果たした。


最後のほうのこの文章が書きたくて、物語を完成させました。


本作をお読み下さり、ありがとうございます。気になったら、下記の作品もお読み下さい。


   □


『公爵令嬢は悪霊ではありません!』

本作のような無能な王子ではなく、有能な王子が好きなら、ぜひどうぞ。この作品では、王子がクーデターを成功させます。


   □


『婚約破棄代行人、婚約破棄を卒業パーティーで言い渡す!』

本作と違い、王子が反省する内容になっています。


   □


『あなたと彼女の逃避行!』

いい王子が登場します。それと、お尻を見せ続けるヒロインが登場する百合もので、あらすじにも注目です。


   □


『クソ王子が主導する村娘の品評会場』

無能な王子が「ざまぁ!」されない展開で終わります。変態要素が強めですので、ご注意下さい。

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