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『知らない戦国の弱小領地、現代の「収益構造」を導入したら? ~土木と農政の専門知識で「飢えない国」を設計する~』  作者: れんれん


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第25話 閑那(かんな)の「目」と、選ばれし幼子たち

蓬水ほうすいの谷が急速に膨れ上がる一方で、俺は一つの「欠落」を感じていた。

物流を整え、鉄を打ち、民を潤す。だが、外の世界――「閑那」の山々の向こう側で何が起きているのか、その正確な情報が届く速度が、技術の進歩に追いついていない。

(……情報とは、戦いが始まる前に勝敗を決める変数だ。予測不能な外敵に対し、早期警戒網センサーネットワークを持たぬのは自殺行為に等しい)

俺は冷徹な計算のもと、蓬水の「影」となる集団の設立に動いた。

ターゲットは、日々流入してくる流民たちの子供たちだ。


共栄塾きょうえいじゅく」の設立

俺は城の北、人目に付きにくい森の境界に、広大な敷地を持つ訓練所を建設させた。

名目は、将来の蓬水を支える人材を育てる「共栄塾」。だが、その実態は、隠密行動、暗号通信、そして情報収集に特化した情報工作員(忍び)の育成機関だ。

「……本日より、ここが諸君の家だ」

集められたのは、八歳から十二歳までの少年少女たち。

彼らの前で、俺は静かに宣言した。

「ここでは、誰に負けぬ頑健な体と、誰にも惑わされぬ鋭い知恵を授ける。三食の食事、暖かい寝床、そして学びの場を約束しよう。……ここでの務めを果たした者は、蓬水の『目』となり、その家族には一生の安泰と豊かな暮らしを保証する」

流民の親たちにとって、その言葉は救いの福音だった。

乱世の放浪で明日をも知れぬ命。自分の子供が、この豊かで安全な蓬水で「お役人」のような教育を受け、家族まで養えるようになるという。

「……若様、いやお館様! 愚息を、どうかよろしくお願いいたしますだ!」

「娘を……この子を、どうか一人前にしてやってください!」

親たちは涙を流して俺の手を取り、子供たちを送り出した。

そこには、強制された悲壮感はなく、未来への確かな「希望」があった。

「影」の教育カリキュラム

訓練所での生活は、従来の「忍び」の修行とは一線を画していた。

徹底した栄養と衛生管理:

石鹸での洗浄と、高タンパクな食事。病で倒れる駒ではなく、最良の状態で機能する個体を作る。

算術と写生マッピング

ただ「見てくる」のではなく、敵の兵数、兵糧の量、道の勾配を「数字」と「図面」で正確に報告する能力を叩き込む。

隠密行動の物理:

光の屈折、音の伝わり方、視覚の死角。俺が前世で培った物理知識を、実戦的な隠密術として再構築した。

「……順様。この子たちの瞳、まるでお館様に見出された時の聡太くんみたいにキラキラしていますね」

レンが、炊き出しの視察を兼ねて訓練所を訪れた際、感慨深げに呟いた。彼女は、この子たちが将来「危険な任務」に就くことを知りつつも、今ここで与えられている「教育」と「食事」が、この時代においてどれほど幸福なことかを理解していた。

「……情で動くのではない、レン。彼らが蓬水への強い帰属意識を持つことが、情報の信頼性を最も高めるんだ」

俺は冷たく言い切ったが、その視線は、必死に算術の木札を追う子供たちの背中を、どこか守るように見守っていた。

聡太による「暗号」の構築

側仕えを兼任する聡太もまた、この計画に深く関わっていた。

「お館様、これなら他領の者に盗み見られても、内容を解読することは不可能です」

聡太が提示したのは、数理に基づいた「換字式暗号」の原型だった。

報告を受け取る俺と、現場の「目」である彼らだけが共有する数字の羅列。

これにより、蓬水の情報は誰にも触れられぬまま、俺の元へと集約されることになる。

「……よし。これで『網』を張る準備は整った」

蓬水の谷に、声なき、姿なき防壁が築かれようとしていた。

外の世界では、俺の記憶とは違う名を持つ野心家たちが、互いの領地を奪い合っている。だが、彼らが蓬水の境界に一歩でも足を踏み入れようとすれば、その意図は瞬時に「数字」となって、俺の机の上に届けられるのだ。

「……さあ、世界を観測しようか。聡太、まずは『北の山脈』の動きからだ」

「はっ、承知いたしました!」

十三歳の若き領主・順。

彼の周囲には、レンの慈愛と、聡太の知恵、そして影で蠢く幼き「目」たちが、盤石の秩序を形成しつつあった。

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