表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『知らない戦国の弱小領地、現代の「収益構造」を導入したら? ~土木と農政の専門知識で「飢えない国」を設計する~』  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/27

第19話 「勧農(かんのう)」と、平和の種

木曾盛定の軍勢を完膚なきまでに叩き伏せたしらせは、瞬く間に近隣の領主たちへと広まった。「御剣みつるぎの若君は、いかずちを操る神童である」という尾ひれまで付いた噂は、皮肉にも最強の「抑止力」となった。

「……当面、正面から攻めてくる愚か者はおりますまい。佐々木、この静寂しじまこそが、次なる飛躍の好機だ」

俺は返り血の代わりに墨の香りを纏い、再び図面を広げた。戦に勝つことは手段に過ぎない。真の目的は、この領地を「奪うよりも、取引する方が得だ」と思わせるほどの経済巨塔にすることだ。

施策一:硝石しょうせきの「床下生産」

鉄砲の弾丸は鉄で作れるが、火薬の原料となる「硝石」は海外からの輸入に頼らざるを得ない。俺はそれを自給自足へと切り替えた。

「レン、村の家々の床下を掘らせろ。そこに古くなった藁と土、そして……人や家畜の排泄物を混ぜて積み上げるんだ」

「えっ……お家の床下に、そんなものを? 臭くなってしまいませんか?」

修行の合間に手伝うレンが、鼻を摘まんで苦笑いする。

「大丈夫だ。微生物の働きを計算し、換気を整えれば、数年後には火薬の結晶が手に入る。これを『御剣式・古土法こどほう』と名付ける」

輸入に頼らぬ火薬の自給。それは、この時代の軍事バランスを根本から破壊する「禁じ手」だった。

施策二:品種改良と「二毛作」

俺は現代の農学知識を使い、寒さに強く、収穫時期がわずかに早い「早生わせ」の種を選別した。

「一年に一度の収穫では、不作の際のリスクが大きすぎる。秋に米を収穫した後、冬には麦を植える。水車の力で常に水を動かし、地温を保てば、二毛作は可能だ」

「若君……! それでは、同じ広さの田畑から二倍の食糧が得られるということですか!?」

佐々木殿が、算盤を弾く指を震わせる。食糧の余剰は人口の増加を生み、それはそのまま「国力」となる。

施策三:衛生革命「石鹸」と「上水道」

そして俺が最も重視したのは、民の生存率だ。

やまいは『けがれ』ではない。目に見えぬ小さな『毒』だ。水車の濾過槽を通した水を城下に引き、高炉で出た灰と油から作った『石鹸シャボン』で手を洗わせろ」

「しゃぼん……? 泡が出る、不思議な塊ですね。でも、これを使うと村の子供たちの吹き出物が治ったと評判ですわ」

レンが、自身も愛用している石鹸の香りを楽しみながら微笑む。

乳幼児の死亡率が下がり、労働力が安定する。これこそが、どんな新兵器よりも強力な「領地経営の奥義」だった。

「……朔様。あなたは、本当にこの国を『極楽浄土』に作り替えてしまわれるのですね」

ある夜、月明かりの下。

修行を終えたレンが、俺の書斎に差し入れの菓子を持ってきた。

十一歳の俺と、十三歳の彼女。

「極楽かどうかは分からん。だがな、レン。俺はお前に、戦の火に怯えることなく、腹一杯美味いものを食べて、笑って過ごしてほしいだけなんだ」

俺は、高炉から上がる遠い火光を見つめながら言った。

鉄を打ち、道を造り、火薬を練り、米を育てる。

俺の全ての「数式」は、ただ隣にいるこの少女の笑顔を守るために、今日も精緻に展開されていた。

「……ふふっ。でしたら、次はもっと『甘いもの』の作り方を研究してくださいな。修行で疲れた時には、それが一番のお薬ですから」

レンの屈託のない笑い声が、夜の静寂に溶けていく。

御剣領は今、乱世の荒野に咲いた、鋼と知恵の「奇跡のオアシス」になろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ