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『知らない戦国の弱小領地、現代の「収益構造」を導入したら? ~土木と農政の専門知識で「飢えない国」を設計する~』  作者: れんれん


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第17話 十一歳の「鋼鉄(はがね)の盾」と国境の影

東の「鉄の嶺」から上がる煙は、今や御剣領の豊かさの象徴となっていた。

だが、山向こうの隣国――野心を剥き出しにする大名、武田家たけだけの眷属である小領主たちが、この急激な変化に気づかぬはずもなかった。

「若君、物見ものみより報告が。国境の尾根沿いに、見慣れぬ騎馬武者が数騎、我が方の新道を探るように動いております」

佐々木殿が、冷や汗を拭いながら報告に現れた。

十一歳の俺は、書斎に広げた等高線入りの自作地図に、静かに黒い石を置いた。

「……やはり来たか。道を通せば、富と共に敵も呼び寄せる。想定内の動きだ」

俺の声は、子供特有の高さの中に、前世の物理学者が持つ冷徹な分析力を秘めていた。

「佐々木、慌てるな。以前、道に仕掛けた『死角』と『偽の分岐点』を覚えているか? 敵をあえて険しい谷筋へと誘い込むように、案内板しるべを細工しておけ」

「はっ! 左様に。……しかし、万一攻め込まれた際、今の兵数で守りきれましょうか?」

「数で戦うのではない。『効率』で勝つんだ。……レン、例の『試作品』は届いているか?」

部屋の隅で、修行の合間に俺の事務を補佐していたレンが、一振りの短い筒のようなものを差し出した。

「はい、若君。高炉の精錬所で一番硬く打ち出した『鋼の筒』にございます。……でも、これ、何に使うのですか? 笛にしては重すぎますし……」

「これは、笛ではない。音を奏でるのではなく、死を運ぶ『ことわり』の管だ」

俺は、高純度の御剣鋼で鋳造された、初期型の**「火縄銃ひなわじゅう」**を手に取った。

種子島に伝来してから数年。俺はあえて、その「模倣」ではなく、現代の冶金知識を用いた「ライフリング」こそないものの、圧倒的に破裂しにくい高圧耐久の銃身を自作させたのだ。

「……鉄砲、でございますか? 堺の商人が法外な値で売っているという……」

佐々木殿が息を呑む。

「ああ。だがこれは堺のそれより軽い。そして、黒色火薬の配合も私が組み直した。……レン、少し耳を塞いでいろ」

俺は窓を開け、遠くの的に狙いを定めた。

十一歳の体にはまだ反動が強いが、三三一さんさんいちの配合比で生成した「高密度火薬」が、物理法則に従って爆発的な膨張を起こす。

――轟音。

白煙の向こうで、百歩先の厚い木盾が、粉々に粉砕されていた。

「な、なんという威力……。これならば、騎馬武者の鎧すら紙同然……!」

佐々木殿が腰を抜かさんばかりに驚く。

俺は熱を持った筒を冷ましながら、静かに告げた。

「武力は、使わぬに越したことはない。だが、奪いに来る者がいる以上、我が御剣みつるぎは、食らおうとした者の牙をへし折る『鉄の国』にならねばならないんだ」

レンが、少し震える手で俺の袖を握った。

彼女の瞳には、俺への信頼と、加速していく時代のうねりへの戸惑いが混ざり合っている。

「……若君。……朔様。……どうか、お怪我だけはなさらないでくださいね。道も、お城も、あなたがいないと……私は、独りぼっちになってしまいます」

「……ああ。約束だ、レン。俺は、お前との婚約の誓いを果たすまで、決して倒れはしない」

俺は彼女の小さな手を、火薬の匂いが染み付いた手で、そっと包み込んだ。

十一歳の若君の決意。

それは、迫り来る乱世の嵐を、自ら作り出した「科学の盾」で真っ向から受け止めるための、冷徹かつ熱い宣戦布告でもあった。

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