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『知らない戦国の弱小領地、現代の「収益構造」を導入したら? ~土木と農政の専門知識で「飢えない国」を設計する~』  作者: れんれん


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第11話 十歳の「若君」と領地の鼓動

月日は流れ、俺は十歳になった。

五歳の頃の幼さは消え、身体つきも少年らしく引き締まった。かつて「どろんこ遊び」と称して泥を捏ねていた手は、今では領内の詳細な地図を引き、精緻な算術を書き留めるためのものとなっている。

「若君、東の『鉄の嶺』より、今月分の玉鋼たまはがねが届きましてございます」

控えていた家臣の佐々木殿が、うやうやしく頭を下げる。

かつて俺の「お遊び」に振り回されていた勘定奉行の彼は、今や領内の新産業を一手に引き受ける最側近だ。

「……佐々木、苦労をかけたな。不純物の混じりはどうだ? 以前伝えた『選鉱せんこう』の工程は守られているか」

俺の口調は、もはや三歳児のそれではない。領主の嫡男としての威厳と、前世の論理的な思考が混ざり合った、静かな響きを持っていた。

「はっ。若君のご指示通り、比重を利用した選別を徹底いたしました。驚くほど純度が上がり、鍛冶師たちも『これほどの鉄は見たことがない』と唸っております」

「そうか。ならば次は、その鉄を使って農具の改良を急がせろ。武器も大事だが、民の腹が満たされるのが先決だ」

俺は手元の書状に視線を戻した。そこには、みやことの交易で得た利益の推移が整然と記されている。俺が考案した「御剣紙みつるぎがみ」は、今や都の貴族たちの間で最高級品として珍重され、山奥の弱小領地に莫大な富をもたらしていた。

「若君! お仕事、もう終わり?」

襖が開き、一人の少女が顔を出した。十二歳になったレンちゃんだ。

彼女は今、志乃かかさまの側で侍女としての作法を学びつつ、俺の私的な「調査役」としても動いてくれている。

「ああ、レンか。ちょうど一区切りついたところだ」

俺はペンを置き、ふっと表情を緩めた。彼女の前でだけは、少しだけ肩の力が抜ける。

「見て、若君。お庭のあじさいが、こんなに綺麗。昔、二人で掘ったあの『おふねの道』のそばに咲いたんだよ」

「……ああ、あの時の排水路か。懐かしいな。あの時は、アリの引っ越しを予報にして雨を凌いだものだった」

俺たちは縁側に出た。

かつては「未開の現場」に見えたこの城も、今では計画的に整備された水路が巡り、石垣は強固に補強され、領民たちの顔には活気が溢れている。

「……若君は、いつかこの『那岐の国』を、どんな国にしたいの?」

レンが、遠くそびえる鉄の嶺を見つめながら静かに問いかけた。

「……誰もが飢えることなく、知恵を尊ぶ国だ。力で奪い合うのではなく、技術と交易で豊かさを分かち合う……そんな『ことわり』の通る場所を、俺は作りたい」

俺は掌を広げ、空を仰いだ。

十歳の俺の目には、もう「知らない戦国」の風景は映っていない。

そこにあるのは、俺がこれから描き、作り上げていく、全く新しい時代の設計図だった。

「さあ、レン。次は領下の村々を回るぞ。新しい『水車』の調子が気になっていたところだ」

「はい、若君!」

二人の歩みは、かつての遊びの足取りよりも力強く、確かな未来へと向かって踏み出された。

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