冒険者の日常:屋敷ごと燃やせば解決です
ソーサラーのダークエルフ、エリシャは言った。
「燃やしましょ。この屋敷ごと」
その発言に至るまで、ほんの数時間前のことだ。
酒場の奥、薄暗いテーブルに肘をついていたエリシャの前に、バーバリアンの男――サーガがずかずかと歩み寄ってきた。開口一番、ぶっきらぼうに言い放つ。
「エリシャ、イケすかねぇてめぇの力がいる」
「あんた、それ力を貸したいやつに言うセリフじゃないよ」
火花が散るような視線のぶつかり合い。だがサーガは構わず話を続けた。
「街の外れにでけぇ屋敷があるだろ。あそこに、オレの仲間が攫われた」
「攫われた? あそこは貴族の屋敷だろ。証拠は?」
「あるさ!」
サーガは拳を叩きつけるようにテーブルを打った。
「仲間が“調査依頼を受けた”って言ってから連絡がねぇ!あの屋敷で何かあったんだ!」
確証とは言い難いが、焦りだけは本物だった。エリシャはため息をつく。
「依頼もなしに踏み込んだら、不法侵入で捕まるよ」
「うっ……」
言葉に詰まるサーガを見て、エリシャは肩をすくめた。
「まぁ、姿を消す魔法くらいなら使える。あんたには貸しがあるしね。今回だけだよ」
「マジか!?貸したかいがあったぜ!サンキューなババア!」
「ここで消し炭にしてやろうか」
そうして二人は、夜の闇に紛れて屋敷へと忍び込んだ。
内部に入るとすぐ、廊下は左右に分かれていた。右からは規則正しい足音――警備兵の気配。左からは、説明のつかない嫌な気配。
二人は顔を見合わせる。
「どーすんだ?どっち行っても楽じゃねぇぞ」
少しの沈黙のあと、エリシャがあっさりと言った。
「燃やしましょ。この屋敷ごと」
「脳筋か!」
思わず叫ぶサーガ。しかし、その口元は笑っていた。
「……悪くねぇな」
結論は早かった。
次の瞬間、二人は派手に火を放った。
「うぉおおお!」
炎は瞬く間に広がる――はずだった。
「待て待て待てぇ!!」
慌てて駆けつけた警備兵たちに取り押さえられる。だがサーガは軽々と兵を投げ飛ばし、突破する。
それでも、燃え広がるはずの炎は不自然に消えていった。
「なんだ!?」
二人が視線を向けた先には、杖を構えた屋敷の主人がいた。
「不届き者め。裁きの雷を受けよ!」
雷が落ちる。エリシャは即座に防御魔法を展開し、サーガを強化した。
サーガは雷を躱し、剣で弾きながら突進する。しかし主人の周囲には次々と雷が落ち、距離が詰められない。
「くそっ……!」
「少し時間稼げる?」
エリシャの問いに、サーガは短く頷く。
「任せろ!」
雄叫びと共に突っ込む。斬撃の嵐が主人を襲い、その注意を引きつける。
「サーガ!どいて!」
声に反応し、サーガは即座に後退。次の瞬間、エリシャの魔法が主人を拘束した。
「よっしゃー!」
勝利を確信したサーガは、息を荒げながら問い詰める。
「仲間のジャンはどこだ!」
「……それを聞いてどうする」
「どうするって――」
その時だった。
「サーガ!?何やってんだお前!!」
駆け込んできた警備兵の中に、見覚えのある顔があった。
「ジャン!?無事だったのか!!」
「は!?何言ってんだ!」
互いに間の抜けた声が重なる。
事情はすぐに明らかになった。
ジャンは依頼を無事にこなし、その働きを評価されて、この屋敷で警備兵として雇われていたのだ。ただ忙しく、連絡が遅れていただけだった。
沈黙。
そして――
「……あ」
「……あ」
その後、二人は盛大に謝罪した。主人に、警備兵に、そして冒険者組合に。
結果として下された罰は――酒場での無償労働。
「くそぉ……」
「ほんとあんたのせいでとばっちりよ」
「屋敷燃やそうって言い出したのはてめぇだろうが!」
「あんたが怪しいとか言うからでしょ!!」
「静かにせんかー!!」
組合スタッフの怒号が飛ぶ。
睨み合いながらも、二人は渋々働き続ける。
果たして彼らは、再びまともな冒険者に戻れるのか。
――少なくともその日は、酒場はいつも以上に騒がしかった。




